「周産期うつ」にメス、産婦人科医によるオンライン相談で

産後3カ月のSOS、「死にたい気持ちになる」をキャッチした事例も

2019/03/13 05:00
伊藤 瑳恵=日経デジタルヘルス

 「死にたい気持ちになる」――。妊娠や出産を通じてうつ状態になる、妊娠うつや産後うつといった「周産期うつ」が問題視されている。

 ホルモンバランスの変化やもともとの性格、家庭環境などが複合的に積み重なって発症するとされている。特に産後うつは7~10人に1人がなるといわれており、社会復帰や育児に影響が出たり自殺に追い込まれたりすることも少なくない。国立成育医療研究センターが出産後1年未満に死亡した女性の死因を調査したところ、自ら命を絶つケースが最も多かったという。

産婦人科医でKids Public 産婦人科統括部の重見大介氏
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 背景にあるのは「妊産婦の孤立」だと、産婦人科医でKids Public 産婦人科統括部の重見大介氏は言う。出産後の母親を対象にした健診は、出産1カ月後の産婦健康診査のみ。母親が自身の心身の調子を医師に話す機会はほとんどない。

 最近では、多くの医療機関で周産期うつのリスクが高そうな妊婦に対し事前に策を講じている。例えば、パートナーとの関係が良好でない人や既往歴がある人に対して「何か悩んでいることはないですか?」と声をかけるようにしたり、看護師や助産師が電話をかけたりする。ただし、人手が限られるため必ずしも全ての人をフォローできるわけではなかった。

 小さなストレスが積み重なり、どこかでせきを切ると「私なんてダメなんだ…」とうつ状態になりかねない。逆にいえば、医療機関に行かなくても適切な情報さえ取得できれば、自分で解決できる問題も多い。周産期うつは、何か一つ対策をすれば防げるというわけではないが、「小さな一つひとつの問題を解決することで予防につながる」と重見氏は見る。

医師や助産師にオンラインで打ち明ける

 そこでKids Publicが2018年11月から提供を始めたのが、遠隔健康医療相談「産婦人科オンライン」である。スマートフォンやタブレット端末を使って、平日の18~22時に医師や助産師に電話やLINEで相談できるサービスだ。

 現在は21~23人の医師と助産師が相談に対応しており、相談者は無料で利用できる。Kids PublicはBtoBのサービスとして提供しており、企業が社員の福利厚生として導入したり、自治体が地域住民への支援策として提供したりしている。

サービス概要イメージ(プレスリリースより)
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 ただし、「オンライン上の会話だけで相談者を治すことはできないと考えている」と重見氏は言う。産婦人科オンラインでは、確定診断や治療ができるわけではないからだ。それでも、これまで医療機関に相談できなかった人が「ここなら相談してみようかな…」と悩みや不安を打ち明けてくれることが「大きな一歩になる」と重見氏は強調する。

帝王切開の傷、「放っておいたら良くなるの?」

 周産期うつの疑いのある利用者を医療機関につなげたエピソードもある。開発中のβ版を提供していたときのことだ。気分が落ち込んでいるという20歳代の女性から電話相談があった。第2子を出産して3カ月たった頃だという。

 気分が落ち込んでいるようだったが、電話を受けた医師は今すぐ自身に危害を加える恐れはないと判断。「明日でも明後日でも、いつでも連絡くださいね」と伝えた。

画面イメージ(提供:Kids Public)
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 4日後に再び電話がかかってきて、「日中死にたい気持ちになることがある」とはっきり言われた。そこで、周産期うつのチェック指標として使われる「EPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)」のテストをチャットで実施したところ、危険度が高いスコアが出たという。

 放っておいては危ないと判断した医師は、出産した医療機関を尋ね、一度その病院を受診してはどうかと提案した。相談の電話を切った後、医師は「〇〇さんが受診するかもしれない」と病院に一報を入れた。EPDSのスコアを伝えたことで、病院側も危険性を認識してくれたという。2度目の電話がかかってきてから3日後、相談者は病院でうつ状態だと診断され、治療を開始した。産婦人科オンラインで危険を察知したことで、早期の治療につなげられたというわけだ。

 実は、現在までに寄せられた相談のうち、周産期うつが疑われるようなものはごく一部だという。しかし、どんな相談内容であっても小さな不安や疑問を打ち明けられる場があることで「周産期うつの予防につながるのではないか」と重見氏は見ている。

 オンラインならではの利点もある。帝王切開後の女性から、「産後2カ月たつが傷の治りが良くない。放っておいても良くなるのか」と相談が寄せられた。相談者の了承を得て傷口の写真を送ってもらったところ、傷口が膿んでいる可能性が考えられたという。写真を見る限り治りかけというよりも悪くなっていると考えられたため、「現在も赤みと痛みがあるのなら、1日も早く受診した方が良いですよ」とアドバイスすることができた。

医師・助産師の多様な働き方にも

 医師や助産師にとっても新しい働き方を実現できる。妊娠中または出産間もない医師や助産師にとっては、自宅にいながら参加できるので働きやすい。このほか、大学院で研究に従事していてフルタイムで臨床現場に立つことが難しい医師にとっても、場所の拘束がないことは利点になる。医師や助産師には「無理のない範囲で参加してもらっている」と重見氏は言う。

 今後は、医療機関や、産婦人科医がいない市町村との連携も強めていき、周産期うつの予防に力を入れたい考えだ。