機械制御向けの人工知能(AI)を開発するエイシング(本社東京)は、クラウドを介さずに機器(エッジ)側で自律的に学習するAIチップ「AiiR(エアー)チップ」を2019年1月23日に発表した(図1)。自動車や生産設備などに組み込めば、搭載機器側でリアルタイムにデータを処理できる。同社は試験導入であっても、企業ごとに独自AIのチューニングする必要があった。今回発表したチップの提供が進めば、「各メーカーでエイシングが開発したAIを簡単に試験導入できるようになる」(同社)という。

図1 エイシング代表取締役CEOの出澤純一氏 右手にあるのがAIチップ「AiiR(エアー)チップ」である。
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 AIチップには、同社が独自に開発したAIアルゴリズム「ディープ・バイナリー・ツリー(DBT)」を搭載する(図2)。「機械制御が得意なアルゴリズム」(同社)という。特徴は、画像や音声などのような学習に負荷がかかるデータを利用せず、機械制御に関わる角度や速度などの軽量なデータを用いて学習すること。最近のAIでは深層学習(DeepLearning)が学習手法として用いられている。しかし同社によると、深層学習にはバッテリーの劣化やロボットアームの動きの経年劣化のような製品の動的な変化への対応が困難という欠点がある。利用状況や環境要因による変化で発生した製品の変化や個体差を、学習結果に反映させて補正するのが難しい。

図2 「ディープ・バイナリー・ツリー(DBT)」の利点
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学習と予測の機能を同一機器内で処理

 学習の負荷が大きい深層学習をエッジで実施するのも課題となる。一般的にエッジには処理能力の高いコンピューターを置けないからだ。そのため、現状は、サーバー(クラウド)側で画像などを用いた学習データを作成し、機器(エッジ)側はその学習データを用いて状況を予測して動作するしかない。つまり「クラウド側に学習機能があり、エッジ側に学習データを用いた予測機能があって機能が分離している」(同社)ため、通信コストの増大やレイテンシー(通信遅延)などの問題が生まれてしまう(図3)。

図3 エイシングのDBTは学習と予測の機能が同一機器内にある
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 同社の解は処理に負荷がかからないデータを主にして学習・予測するアルゴリズムの開発である。学習と予測が同一機器内で処理できるため、製品ごとに学習し続けられる。経年劣化などで生じた個体差に応じた出力もできるという。処理のリアルタイム性も保持できる。

 会場ではDBTのデモンストレーションも披露した(図4)。直立した倒立振子を指で弾くと、モーターが動作して以前の角度に調整するというもの。低価格の小型PCボード(マイコン)「Raspberry Pi」にDBTを搭載し、ロータリーエンコーダーで倒立振子の角度を測定している。たった数分の学習で、倒立振子が直立した状態を維持できるようになるという。一方、専門の技術者が約30分チューニングしてもうまく直立せず、発振するような動きをみせる。「チューニングにかかる時間を省けるようになれば、製品の生産性向上に寄与できる」(同社)。さらに「DBTは深層学習と異なり、一度構築した学習データにリアルタイムに追加学習が可能な利点もある」(同社)。

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図4 会場でのデモンストレーション
倒立振子の制御システムを披露した。上を向いたピンを指で弾くと、元の位置に戻ろうとする。DBTであれば、数分の学習でシステムが完成できる。一方で、専門の技術者がチューニングを約30分しても安定して位置が戻らない。
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