社内には活用できていないデータが山のようにある。こうしたデータを価値に変え、新しいサービスを生み出せないだろうか――。社内に埋もれたビッグデータの活用や新サービスの創出に悩む企業は数多い。そんなときに参考になるのが全日本空輸(ANA)のユニークな取り組みだ。

 ANAは2018年10月末、社内データをフル活用するためのシステム基盤を構築した。さらに、この基盤を使って新サービスを生み出すためのアイデア発想法「ミツバチ」を考案した。単にデータの活用基盤を用意するだけではなく、どうやってデータを使えば、新サービスの創出につながるかを、独自の方法論に落とし込んだ例は珍しい。ANAはこの方法論を使って、ほぼ全員の役員が参加したワークショップで6つのサービスアイデアを考案。実現に向けて動き出している。

 「ミツバチとデータ活用基盤の両輪で、お客様一人ひとりに合った新サービスを次々と提供できるようにする」。一連のプロジェクトをリードしている野村泰一業務プロセス改革室イノベーション推進部長は自信を見せる。

 それではまず、独自のアイデア発想法であるミツバチの中身を見ていこう。

ANAの野村泰一業務プロセス改革室イノベーション推進部長
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 ミツバチは、ワークショップを通してアイデアを生み出すものだ。所属が異なる従業員を5~6人集め、1つのチームを構成する。1回のワークショップで、6つほどのチームを作る。参加メンバーは各部門の部長に任命してもらう。

 最初の20分で、各チームは新サービスの案を練る。ここでアイデアを出しやすくするため、「2匹のミツバチ」に登場してもらう。1匹のミツバチは情報を「収集」する能力を持ち、もう1匹は情報を「提供」できる。役割が異なる2匹のミツバチを組み合わせることで、新サービスを考えやすくした。

ミツバチワークショップの進め方。3つのステップに沿って利用する
(ANAの資料を基に日経 xTECHが作成)
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 ミツバチの組み合わせ方は色々ある。2匹を同じシーンで使ってもいいし、別々のシーンで利用しても構わない。例えば、顧客らが空港に到着する前に各自の情報を「収集」しておく。そして空港に着いた段階で、ある条件を満たす顧客には情報を「提供」する。こんなふうにして、アイデアを考える。

 情報を提供する相手は、顧客とは限らない。空港の係員に伝えて顧客サービスにつなげるといった使い方もできる。

 各チームが考えたアイデアは1チームずつ、2分間で発表する。最後の総括を含めて、1時間でワークショップは終わる。これなら拘束時間が短く、多くの従業員が参加しやすい。

 ミツバチをモチーフにしたのは、ワークショップの雰囲気を和やかにするため。ワークショップで出たアイデアは、同時に開発したデータ活用基盤に実装可能な要件になる。ミツバチの発想法は、このデータ活用基盤とセットになっているのが大きな特徴である。

 ちなみにANAはミツバチのほかにも「ダンゴムシ」をモチーフにしたワークショップを開催している。こちらは既存業務の課題をダンゴムシに例えて、解決策を考えるものだ。課題解決に向けたダンゴムシと、新サービスの創出を促すミツバチという2種類の独特なワークショップを推進している。業務プロセス改革室イノベーション推進部にいる17人の社員を、2つのワークショップのファシリテーターに任命。先に教育して、全社展開に備えている。

 1回目のミツバチワークショップは、2018年10月18日に開いた。このときはANAの役員を対象にした。ほぼ全員、36人が参加したというから驚く。参加者全員が役員というワークショップは、なかなか開催できるものではない。このときファシリテーターを務めた野村部長は「出席した役員からは『私たちに何をやらせるつもりだ?』と冗談ながらにも問い詰められた」というが、最後には「みんなワクワクした顔つきで自分のアイデアを発表していた」と言う。野村部長はミツバチを使った発想法はうまく機能することを確認できた。

第1回ミツバチワークショップの様子。このときの参加者は全員が役員
(出所:ANA)

 最初に役員を対象にしたのは「最高の社内プロモーションになるから。全従業員に展開するうえで役員に後押ししてもらう」(野村部長)。

 役員のミツバチワークショップでは各チームから1つずつ、合計6つのアイデアが出た。社長の平子裕志氏も参加しており、「今日出たアイデアはぜひ実現してもらいたい」と、その場ですぐに指示を出したという。

 ANAはミツバチワークショップを早期に軌道に乗せ、新サービスのアイデアをかき集める。それとは別に、データ活用基盤の開発に向けて要件定義をしたときに約200個のアイデアが出たという。「これらのアイデアに優先順位を付けながら、順番に形にしていきたい」(野村部長)。

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