政府の知的財産戦略本部が2018年9月19日に開催した「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」第8回会合は、事務局が中間取りまとめに向けたまとめ案を提示したものの、ブロッキング法制化の方向性をめぐり委員間の対立が解消せず、取りまとめは次回へ持ち越しとなった。

第8回会合の様子
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 東京大学の宍戸常寿委員や弁護士の森亮二委員、日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)の立石聡明委員など9委員は、事務局が作成した中間まとめ案に反対する意見書を提出。「サイトブロッキング以外の手段の実効性を検証するまで法制化はいったん見合わせるべき」などと明記するよう求めた。

 これに対して日本写真著作権協会の瀬尾太一委員は、法制化について両論併記の形を維持するよう主張した。「(9委員の提案について)これでは『ブロッキングありき』ならぬ『ブロッキング阻止ありき』だ。意見の対立が埋まらなかった事実は受け止めるべき。(法制化を)やる可能性、やらない可能性をまとめ案に残すのは当然だ」(瀬尾委員)。

 カドカワの川上量生委員は「(実効性を検証するまで見合わせ、との主張が通れば)ブロッキング阻止派は『まだできる対策はある』と永遠に言い続けられる。提案されている他の対案は、少なくとも現時点では実施困難だ」と反論した。

 コンテンツ海外流通促進機構の後藤健郎委員も、現行の記述の維持を主張した。「この会議は世界の関係者から注目されている。(両論併記を崩すと)海賊版サイト事業者に誤ったメッセージを発信する恐れがある点は留意すべき。最終手段としてのサイトブロッキングは必要だ。司法判断を要するので、乱用はできない。(司法判断を求める件数は)多くても年に5、6件ではないか。しっかりした運用をすれば、通信の秘密の問題はあれど、国民の納得を得られる」(後藤委員)。

 この後藤委員の発言に、宍戸委員は「見方が逆だ。通信の秘密の価値は世界から注目されている。むしろ、ブロッキングありきで通信の秘密を破壊した、との誹りをまぬがれない」と反論した。

「被害額3000億円」の記述に物言い

 このほか検討会議では、サイトブロッキング法制化の根拠となる立法事実に関連したまとめ案の記述に疑問を呈する声が相次いだ。

 森委員は、漫画村の被害額「3000億円」の表現を問題視した。2018年4月13日に政府が決定した緊急対策案は、漫画村による流通ベースの被害額を3000億円としていた。一方、情報法制研究所による情報開示請求の結果、3月29日時点の緊急対策案は「大手出版社であるA社では、直近年度において数十億円以上、割合にして20%~40%程度の売上減少」「(2つの電子書店について)被害額は少なくとも総額20億円以上」といったデータを紹介していたという。「世間がイメージする被害額として、3000億円よりも3月29日案(の数十億円)の方が正しい。この数字をまとめ案に追記してほしい」(森委員)。

 JAIPAの立石委員は、3000億円という試算の基になったアクセス分析サービス「SimilarWeb」の数値を載せることに疑問を投げかけた。SimilarWebがブラウザーの拡張機能を通じて利用者に無断で閲覧履歴を抜き出しているとして「政府の資料としていることに大きな疑問を感じる」とし、3000億円の被害想定額をまとめ案から削除するよう求めた。

 日本ネットワークインフォメーションセンターの前村昌紀委員は、米CDN(コンテンツ配信ネットワーク)事業者のクラウドフレア(Cloudflare)の公共政策担当者と9月17日に電話会議し、検討会議での議論を伝えたことを紹介。20日朝、クラウドフレアから検討会議向けにレターが届いたことを明らかにした。レター中でクラウドフレアは「我々はWebホスティングプロバイダーではなく、コンテンツをインターネットから削除する能力はない」「東京と大阪に設備を置いているが、従業員は日本にはいない」「我々のサービスの特徴について、タスクフォースおよび日本政府に対して喜んで追加情報を提供する準備がある」などとしている。

 対策の一つに挙がっている著作権侵害静止画のダウンロード違法化について、宍戸委員は「ダウンロード違法化に伴う問題は、ブロッキングほどではない。ダウンロード違法化の方が重要だ」とし、優先して検討するよう主張。これに対して瀬尾委員は「ダウンロード違法化は国民の生活に大きく関わるもの。程度の軽重を問えるものではない」と慎重に検討するよう求めた。

 検討会議は2時間の予定時間を40分以上超過し、中間取りまとめに向けた調整を継続したが、最終的に全会一致での賛同は得られず、結論は先送りになった。

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