「現時点で、海賊版3サイトをブロッキングする予定はない。したがって、原告の請求は直ちに棄却されるべきである」――。NTTコミュニケーションズ(NTTコム)は2018年8月3日、こう主張する準備書面を東京地方裁判所に提出した。

 インターネット接続事業者(ISP)が海賊版サイトへのアクセスを強制的に遮断する「サイトブロッキング」は電気通信事業法が定める「通信の秘密」を侵害しているとして、中沢佑一弁護士が個人でNTTコムを訴えていた裁判での一幕である。

 NTTコムの対応には伏線があった。政府の知的財産戦略本部が2018年7月18日に開催した「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議(タスクフォース)」第3回会合において、事務局は冒頭、2018年4月の政府決定で名指しした3サイトについて、2サイトがアクセスできない状況で、もう1サイトへのアクセスも激減していると報告した。裁判におけるNTTコムの「予定はない」との主張は、この報告を根拠にしていた。

検討会議 第3回会合の様子
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 検討会議の共同座長である慶応義塾大学の中村伊知哉教授は、第3回会合の前に日経 xTECHの取材に応じ、今の3サイトの現状について、「個人的には、もう(通信の秘密の侵害について違法性が阻却される)『緊急避難』に当たる状況ではないと考えてる」と語っていた。

 「政府決定が変わらない限りはNTTも方針を変えにくいだろうが、政府決定を修正するには同じ会議をもう一度開く必要があり、生産的ではない。何らかの形で『緊急避難』に当たらない点について、検討会議の議事録に残せないかと考えている」(中村教授)。

 NTTコムは検討会議からの「絶妙のスルーパス」をきっかけに、ブロッキング実施の予定はないとの主張を展開できたといえる。

 ただし、NTT持ち株会社は「サイトブロッキングについて、現時点で実施していないことは事実」(広報)としつつ、「引き続き、政府の対応方針などを踏まえて適切に対処する考え」(同)であり、ブロッキングを中止または見送ったわけではないとしている。

伝統的な「通信の秘密」の解釈に疑義

 削除要求に従わない海外の海賊版サイトに対し、ISPがアクセスを遮断するブロッキング行為は、通信の秘密の侵害で法律違反に当たるのか。この点は常に検討会議のテーマであり続けた。

 総務省は今も昔も、ISPが特定のサイトやアプリケーションに対するアクセスを遮断することは、利用者の同意がない限りは通信の秘密の侵害に当たるとの解釈を示している。一方で、アクセス遮断は、(1)通信事業者としての正当な業務に当たる場合、(2)現在の切迫した危難を避ける「緊急避難」に当たる場合は違法性を阻却できる、つまり合法になるとしている。

 これまで同省は、児童ポルノ画像を載せたサイトについて、緊急避難によるアクセス遮断を認めていた。「漫画村」など海賊版3サイトを名指しした2018年4月13日の政府決定「インターネット上の海賊版サイトに対する緊急対策」は、緊急避難に基づくアクセス遮断の対象を、海賊版サイトにも広げるものだった。

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