自分はできると信じないでできることはほとんどない。心があなたの身体や成功する能力にいかに大きな影響を与えるかは驚くほどだ。信じられれば達成できるという考えをすぐに否定するのは簡単なことだが、この考えには、重大な真実が含まれている。少なくとも、信じないものは達成できないというこの命題の逆には、もっと大きな真実が含まれている。

 自分で考えたもっとも小さなプランでも、実行に移せるようにしたければ、心を制圧して、心が持つ力を制御する方法を学ぶ必要がある。しかし、これは簡単なことではない。意志の力で自分に何かを信じさせることはできないからだ。あなたは、座って自分に何かを信じ込ませようとしたことがあるだろうか。

 よかったら今、試してみていただきたい。象はピンクだと信じるよう努力してみよう。自分にこれを信じ込ませることができるだろうか。生命がかかっていたとしても、こんな単純な考えはどうしても変えられない。何らかのでたらめな情報を心に信じ込ませるためにできるトリックはないのだ。

 しかし、だからといって、象はピンクだと信じることは決してないというわけではない。反対できないような証拠があれば、あなたの心は一瞬で切り替わる。しかし、非論理的な偽りを信じ込ませるほど強力な証拠が見つかることは考えられない。実際、象の色について現在思っていることを根底から覆すような強力な証拠を見せられても、心は非常に強力なので、現在信じていることをそのまま信じる場合もある。その方が楽なのだ。

 ここからも、心を支配する力は、見かけほど簡単に得られないことがわかるだろう。私たちは、ある程度までは脳の生物学的プロセスの餌食になってしまうのだ。しかし、私たちは動物ではなく人間なので意識を持っている。そのため、私たちにはこの基本的な生物学的プロセスを制圧する能力を持っている。それは選択の自由、自由意志だ。

 象はピンクだと自分に信じ込ませることはできないかもしれないが、繰り返し言い聞かせることにより、自分が信じ込んでいることを自分の好みの考え方に切り替えることはできる。私は、あなたと同様に、自分の思考を形作る力を持っているのだ。

 しかし、信じ込んでいることを変えられたからといってどういう意味があるのだろうか。自分の思考や思考方法を変えられる例外的な能力を持っているかどうかが、なぜ重要だというのだろうか。あなたの現実認識に合わせて物理的な世界が変わるというのだろうか。

 話が面白くなってくるのはここからだ。私はこの質問に「そうだ」と即答したりはしない。そんなことをすれば、あなたはここでこの本を読むのを止め、ゴミ箱に放り込むだろう。もちろん、物理的な現実はあなたの思考や信念によって完全に形を変えたりはしない。そうですよね?

 この問いに答える前に、一歩下がって話を続けよう。物理的な世界は実際にどのようにして変わるのかを考えてみる。テーブルの上にブロックがあり、あなたはそのブロックをほかの場所に移したいとする。移すことが可能だと思わない限り、移すことを試そうとさえしないだろう。しかし、移すことは可能だと考え、自分は手を動かし、ブロックを持ち、テーブルからどけることができると考えるなら、あなたは心を使って身体を制御し、その行動を起こすことができる。厳密に言って、これはあなたが信じていることが、現実を形作る力を備えているということではないだろうか。身体を使うことが必要な分、形成力としては間接的だというだけのことだ。

 意識が神経系に信号を送って四肢を動かせる仕組みは神秘的である。確かに化学プロセスや物理プロセスの仕組みはわかっているが、何がそのようなプロセスを引き起こすかについてはわかっていない。私たちがみな持っている、「形のない心」というものが、物理的な世界を直接操作できる仕組み、最初のニューロンに火を付ける仕組みはわからない。

 この仕組みはわかっていると言う人がたくさんいることは、私も承知している。私たちは環境と相互作用を起こしている化学物質の塊で、自動操縦装置がずっと入った状態になっており、完全に環境に基づいて化学的な連鎖反応を起こしているという主張である。しかし、もしそうだとすると、あなたがこの本を読むという選択をすることができるのは、どう説明できるのだろうか。私がこの本を書けることは、どうだろうか。複雑な連鎖反応によって、本を読んだり書いたりする行動は不可避であり、私たちは選択肢を持たずに成り行き任せでこううなっているのだろうか。それとも何かほかのもの、明確にはわからない何か……自由意志すなわち「選択する力」を与えるものがあるのだろうか。

心と身体のつながり

 私が「心と身体」という表現を使うとき、心とは身体のなかの肉体的ではない部分を指している。それを精神と呼ぶか意識の機械的メカニズムと呼ぶかにかかわらず、心は脳を含む身体の下位機能からは区別されるものだ。

 この区別は重要である。心が身体に影響を及ぼすと私が言うとき、心は脳にも影響を及ぼすという意味になるのである。身近なできごとで、このことは証明できる。偽の薬を与えられたにもかかわらず、脳が正しい薬を与えられたと思う偽薬効果は十分に説明されている。ダンボが羽によって飛ぶ力を手にしたように、心は意識が制御できないような形で、身体に影響を及ぼすことができる。

 私たちは、心が思考の力を通じて世界を操作できることを知っている(思考の内容は身体の行動によって実現される)ので、私たちが信じたり考えたりしていることが物理的な現実に影響を及ぼすことができると言うこともできる。

 言葉にもっとも忠実に言えば、これは考えたことが現実になるという意味だ(少なくとも、身体と心の能力の範囲内であれば)。この原則は、様々な形で表現されており、哲学にも組み込まれている。よく知られているのは、「似たものは似たものを引き付ける」という引き寄せの法則である。マイナスのことを考えればマイナスの結果が起き、マイナスの結果はマイナス思考を呼ぶのである。

出典:「SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル」(日経BP)の一部を抜粋・編集
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