静岡県富士山世界遺産センターでは、「逆さ富士」の外形を持つ展示室の中にスロープが続き、富士登山の疑似体験ができる。コンセプトを説明しないとその設計意図が一般の人に伝わらない建築も少なくないなか、坂茂氏は、一般の人に分かりやすい建築を目指す。前編に続いて、坂氏へのインタビューをお伝えする。同プロジェクトは日経アーキテクチュア2月8日号の「フォーカス建築」欄で詳報。

——見るというよりも、インスタレーションのような体験型の展示ですね。

 静岡県富士山世界遺産センターの設計では、ただシンボル性を持つだけではなく、建築の空間や展示空間が一体になることが重要だと考えていました。世界中の博物館を見ていますが、建物と展示内容が統合されているものは、意外と少ないと常々思っていましたから。

坂茂建築設計代表で、NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)代表の坂茂氏(写真:安川 千秋)
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 ここでは、建築と展示が一体感を持つことをコンペのときから考えていました。逆さ富士の形が決まった時点で展示の方向性も決まり、その中にらせん状のスロープを設けて、来館者が富士山の登山体験をすることを提案しました。建築と全く関係なく、四角い展示室があってもつまらないですし。

 その展示室から出たところに、ピクチャーウインドーを設けて、本物の富士山を切り取っています。暗い展示空間の中を通った後、最後に富士山が切り取られている窓を見て、多くの来館者が感嘆の声を自然と上げているのを目にします。非常に効果的だったと思っています。また、そのピクチャーウインドーの前の床を樹脂系塗り床で仕上げることで、そこにも富士山が映り込むようにしました。

展望ホールから富士山を望む。床には逆さ富士が映る(写真:平井 広行)
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——展示のコンテンツ総合監修を竹村眞一氏(京都造形芸術大学教授)、デザイン監修をエドウィン・シュロスバーグ氏(米ニューヨークのESI DESIGN代表)が手掛けています。

 展示も建築の一部としてデザインするため、できるだけシンプルにしたいと思いました。静岡県には、日本史や美術史、文学、考古学、人類学をそれぞれ専門に研究する学芸員の方がいて、プロポーザルの前から展示の基本構想は進んでいました。

 ただ、それを総合的にまとめる企画・総合プロデューサーが必要ではないかと思い、竹村さんにお願いしました。竹村さんとは古い友人で、彼の仕事をずっと見ており、適任ではないかと考えました。仕事を一緒にしたのは、実は初めてです。

 展示設計は丹青社です。静岡県、竹村さん、シュロスバーグさん、丹青社、そして我々の5者でワークショップを開いて、展示内容をまとめていきました。展示と建築を別々にすることもできたのに、丹青社も頑張ってくれて、展示と建築が良いバランスになったと思います。

 建築のサイン、展示のグラフィックは、日本デザインセンターの原研哉さんにお願いしました。完成後にセンターに来られたとき、「展示と建築のバランスが良い」とおっしゃってくださいました。

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