「一極集中」の弊害がさまざまな領域で指摘される現在。建築や都市でも「分散」が大きなテーマとなっています。建築専門書店「南洋堂」の関口奈央子氏が、「分散」の意味を生活目線で考えるきっかけとなる近刊3冊を紹介します。

 またやってしまった……。注意散漫ぎみな私は、よく凡ミスをする。でも、この短所を「注意を“分散”できる能力」と捉えたら長所になる、とひそかに思っている。何かにつけ「集中だ!」と迫ってくる世の中だと、ちょっと疲れる。

 ビットコインに代表される「仮想通貨」が、世間をにぎわしている。第三者機関を介さず、ユーザー同士でお金の管理や取引ができる仮想通貨は、ブロックチェーン(分散型のコンピューターネットワーク)という技術の上で成り立つ。この技術の「一元管理ではないこと」によるメリットは多く、様々な分野での応用が期待されているという。そんなこんなで今回は、「分散」をテーマに選んだ3冊を紹介したい。

「私鉄郊外の誕生」

「私鉄郊外の誕生」の表紙

 1944年、過密都市の拡張を阻止するため、都市部にある機能を郊外に「分散」させる「大ロンドン計画」が作成された。ロンドンを囲うグリーンベルトの外側にニュータウンを建設するという計画の根底にあったのはE.ハワードによる「田園都市構想」で、世界に影響を与えた思想だ。

 「職住近接」を目的とした本家のニュータウンとは違い、「職住分離」だった日本の「郊外」は、独自の路線を突き進むことになった。私鉄の郊外開発が、いかに都市形成や住宅・住生活を含む建築史と深く関わっているか、本書「私鉄郊外の誕生」を読めば一目瞭然だ。

 阪急電鉄の小林一三は、不動産業に乗り出し沿線の居住者数を増やしたばかりでなく、百貨店やエンタテイメントを付加価値として加え、消費活動を1つの沿線上で完結させるという私鉄ビジネスモデルをつくり上げた。また不動産事業者であった五島慶太は逆に電鉄を抱え込み、学園誘致に勤しんだ。

 そのほか、電力・電鉄業に乗り出したり、レジャー施設を建設したりと、開発の手法はさまざま。そのせいか、同じような住宅地が並んでいるようなイメージの「郊外」も、実は私鉄ごとに醸す雰囲気が違い、それぞれの「文化」がある。ゆかりのある沿線から離れない人が多いのも、そのせいなのではと思う。

著者:片木篤編
判形:A5判
ページ:296ページ
出版社:柏書房
発売:2017年8月
定価:本体3400円+税

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