2018年6月14日号は年に4回掲載している住宅特集の号です。今回のタイトルは「ちょうど良い省エネの着地点~数値だけではない設計者流の落としどころ」。2020年の建築物省エネ基準適合義務化(戸建て住宅も対象)を前に、省エネ住宅の進化の現状を伝える企画ですが、今回はあえて「数値性能に引っ張られすぎない」住宅を5件紹介しました。

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 特集の前書きを引用します。

 「戸建て住宅の設計で、単に省エネ性能の数値を高めるだけなら、定番的な手法がいくつかある。だが 顧客のニーズは必ずしも数値だけではない。意匠や間取り、採光・通風の良さ、耐震性や施工性など他の性能──。さまざまな与条件を設計者ならではの視点でさばき、省エネ性能のちょうど良い着地点を見つけた住宅例を紹介する」

 「ちょうど良い」という言葉はあまり工学的とはいえませんが、だからこそ、日ごろ多くの省エネ住宅を見て回っている特集担当者たちの「数値ありきの省エネ住宅って正直どうなの」という本音が伝わってくる気がします。

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 例えば、この号の表紙にもなっている奈良市の「フルイチチョウの家」は、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)対象の補助金を得て建設された住宅でありながら、開口面積が驚くほど大きく、見るからに開放感があります。加えて、工業製品だけに頼らず土壁や木製建具など、職人の技を多用。ZEH補助獲得に必要な数値性能と、建て主がこだわる他の要素とのバランスを取りながら設計したことが1枚の写真からも伝わってきます。

 省エネ住宅の評価指標では、当たり前のことですが省エネ以外の「開放感」や「細部の美しさ」、あるいは「室内から見える緑」といった要素は、加算の対象になりません。でも、それらは住まい手の精神衛生上、とても重要なファクターです。いかに省エネ性能が高くても、窓も装飾も何もない箱にずっと押し込められていたら、誰でも気が病んでしまいます。

 そこで注目したいキーワードが「健康」です。この特集の締めの部分では、「温熱環境」と「健康」の関係性を研究している伊香賀俊治・慶応義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授のインタビューを掲載しています。

 伊香賀教授はこう言っています。

 「住宅の省エネ化では現在、建築のプロ側のアピールのポイントは性能面が中心ではないかと思います。住まい手の健康寿命を左右するという効果の側面について、エビデンスがさらに充実すれば、顧客への提案にもっと生かせるのではないでしょうか」

 これを読んで、そのとおり!と膝を打ちました。建て主に住宅の省エネ化を薦める際、多くの設計者は「省エネ化した方が長期的な維持費がお得」という説明の仕方をしているのではないでしょうか。実利的で伝わりやすい説明だとは思いますが、その理屈だと初期投資が回収できなければ二の足を踏むでしょう。

 そうではなく、「この家には健康で長生きするためのこんな効果がありますよ」と数値で説明できれば、多少高くても建て主は財布のひもを緩めるのではないでしょうか。伊香賀教授の現在の研究は「温熱環境と健康」が中心ですが、いつの日か、そのほかのファクターも含めた総合的な健康評価指標となることを期待してしまいます。

 ちなみに、日経アーキテクチュアなどが6月29日に開催する「建築サミット2018 ~建材・設備イノベーション~」では、講師の1人である林立也・千葉大学准教授が、「健康建築」をテーマに「スマートウェルネスオフィス」などの話をされる予定です(詳細はこちら)。入場無料なので、ぜひお申し込みください。

出典:日経アーキテクチュア、2018年6月14日号
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。