新潟県村上市、JR羽越線・村上駅前に建つ旅館のリノベーションと3世帯住宅の新築を一体的に行い、旅館を再編するプロジェクトである。設計は、建築担当のSALHAUS(サルハウス)の安原幹氏と日野雅司氏、栃澤麻利氏、インテリア担当の6D(ロクディ)の大坪輝史氏と+i(プラスアイデザイン)の泉井保盛氏が共同して取り組んでいる。

扇屋旅館再生プロジェクトの模型写真。雑多な建物群を、中庭に設けた庇で統合する。中庭はフラットに仕上げ、コンサートなど多用途に使えるようにする。大広間や客室からデッキを出して軒の下を延長しながら使えるようにしている。「オーナー家族や観光客、宿泊客、宴会客が中庭を使い倒す」(安原氏)というイメージだ。また旅館のメーンの場所にオーナー家族の生活動線が通ることになるので、住宅の軸を振って微妙にずらしながら成り立たせている(写真:SALHAUS)

 駅前旅館は約80年前に創業し、その後、増改築を繰り返し屋根の色が増改築の年代を表していた。元々は鉄道を敷設するための工事関係者が宿泊するためにつくられた旅館であり、現在はダムの工事関係者など土木関係の長期滞在者が利用している。地域コミュニティがまだ残っており、宿泊以外の仕出しや宴会が売り上げの半分以上を占めるほどで、宴会場は地元の冠婚葬祭などで活用されている。

 客室の多くは廊下とガラスの引き戸だけで仕切られた鍵のない6畳間から12畳間であり、浴場や洗面所などは共同だ。宴会場は中庭に面して設けられており、中庭の奥には住宅として使われていた建物が残っていた。

駅前通りに面した改装前の外観。2棟の間の隙間は、厨房へのサービス動線となっている。「駅前広場から旅館前の交差点まで50mぐらい。この交差点まで活性化できればいい通りになってくると思っている。この旅館を起点に発信できればいい」(大坪氏)。村上駅の1日の乗降客数は約2000人。駅前には人がたまれるような場所はない。人通りは少ないが生活動線としてはまだ機能している。村上市の人口は6万5000人。駅前のスーパーが撤退し、2km先の国道に商業施設は密集している(写真:SALHAUS)

改装前の中庭。様々な年代の屋根が混在し、洗濯物など旅館運営上のサービス機能があふれ出していた。地盤は悪くないのだが、防水しないで中庭に池をつくっていたため床下の地面は7、8cm傾いていた。基礎もなかったため、改修では打設して押さえた。中庭にデッキをつくるのに合わせて配筋して土間を打った(写真:SALHAUS)

改装前の宴会場。地域の様々な集まりに利用されている。改修では、柱や梁、天井は木部を黒く塗り、壁を張り替える。「下がりをとって見通しをつくった。余計なものを整理し、そぎ落として新たな付加価値を肉付けしていく。時間も手間もかかるがやりがいはある」と大坪氏(写真:SALHAUS)

 村上市は新潟県の北端にある日本海に面した旧城下町であり、民家を活用した中心市街地の活性化の取り組みが盛んに行われている。ただ中心市街地から離れた駅前は活性化から取り残された状況にあり、乗降客は駅に着くと滞在することなく目的地に向かってしまう。駅前に滞留できるところがないからだ。このような状況に対して駅前旅館のオーナーは駅前の環境を良くしていかなければいけないという思いを強く持っていた。

 こうして駅前旅館を取り巻く状況を改善するためのリノベーションと、現在は近くの異なる場所で生活している40歳前のオーナー夫婦と子ども、母、祖母の3世帯が一緒に生活できる住宅の新築が求められた。

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