まちに開くように店舗をつくり、内部のにぎわいを伝えるとともに、旧軽井沢の昔の雰囲気を取り戻すきっかけとなる拠点を目指す。観光客はそこで自由に過ごし、様々な視点から軽井沢の自然を楽しむことができる。

 ベーカリーとレストランを併設する新築の商業施設の計画だ。

 計画地は長野県軽井沢町にある。旧軽井沢メインストリートとJR軽井沢駅をつなぐ旧軽井沢ロータリーの近くに位置する。

 発注者は、その計画地と道路を挟んだ向かい側の敷地に、10数年前にそば店を創業した外食産業の経営者である。計画地の周辺にはそば店以外にもレストランなど数店舗を経営し、さらに全国展開もしている。

 近年の軽井沢は、中軽井沢で星野リゾートが展開する観光事業や、JR軽井沢駅前で西武プロパティーズが運営するショッピングモールによって観光客を集めている。旧軽井沢メインストリートには東京・原宿の竹下通りにあるような店が建ち並び、海外からの団体観光客が増えるなど、かつての避暑地の雰囲気は大きく変ぼうしている。

 創業の地に対して発注者が抱いていた思いや要望について、設計を担当する田辺雄之氏はこう説明する。

 「発注者は、軽井沢の昔の雰囲気をもう一度つくりたい、この周辺を観光客にもう一度歩いてもらいたいという思いを持っている。建築雑誌を購読しているくらいの建築好きであるにも関わらず、これまでは建築家に店舗を依頼したことはなかった。初めての新築であるため、建築家である私に声がかかった。店舗というよりも、建築寄り、住宅寄りの目線でつくってもらいたいという要望だった」(田辺氏)。

敷地模型。写真上方が北。木々に囲まれた敷地の西側には小川が流れ、南と東側で接道する。さらに北東側には、町の中心的な存在となっているロータリーがある。点線は、主に2階レベルになる屋外回廊(空中散策路)を示している。敷地の半分近くを駐車場とし、車を置いて町を歩き回ってもらうための拠点にする(写真:田辺雄之建築設計事務所)

 木造の2階建てで、延べ面積は約650m2、カフェテラスの客席は300席弱を有する。40~50人のスタッフが働く。

 目下は駐車場として利用している計画地の外周には、高さ20mを超える木々が立ち並んでいる。道路側から見て奥には小川が流れ、その先に高級別荘地が広がる。

 「この木々を楽しめるような建築にしたいと思った」と田辺氏は振り返る。そこで「地上2階レベルの屋外回廊で木々を感じながらぐるりと回ることができるプランとし、また、ロータリー側に建築を開き、客が入っている様子を見せるようにした」。

スタディ模型。ロータリーからの視認性や、南側にある駐車スペース、小川や木々などの周辺環境を読み解きながらスタディを行った。周囲の木々を満喫できる「渦巻プラン」が進化を重ねていった(写真:田辺雄之建築設計事務所)

全体模型(南東から)。中央の平屋部分にあるベーカリーの売り場を中心に、南側にパン工房やカフェテラスを含むベーカリーエリア、北側に大きな吹き抜け空間を持つレストランエリアを配置している。それぞれのエリアを2階のブリッジでも結び、利用形態の変化にフレキシブルに対応できるように計画している(写真:田辺雄之建築設計事務所)

ここからは有料会員の登録が必要です。