伝統建築や有名建築を3DCG化し、複製・保管する試みは古くからある。インターネット上の3D仮想世界サービスの進展は、再現性の面ではまだハイエンドではないものの、こうした複製物をオープンに利用できる“動的保存”を可能にしそうだ。


 保存問題で揺れた「中銀(なかぎん)カプセルタワービル」を、厳しい現実の世界から“移築”──。

 3D仮想世界「セカンドライフ」(http://jp.secondlife.com/、以下SL)の日経BP島に現在、体験型アーカイブ施設として中銀カプセルタワービルを建てる試みが進んでいる。同時に、様々な角度から撮影した写真を解析・合成し、3D的に構築するマイクロソフト社のオンラインサービス「Photosynth」を、同ビルを対象に試してみることなども行っている。制作者に対するインタビューを交えつつ、複数回に分けてその模様を報じてみたい。

 中銀カプセルタワービルとは、故・黒川紀章氏(http://www.kisho.co.jp/)が設計し、世界で初めて実用化した「カプセル建築」。東京・銀座8丁目に1972年に竣工した。黒川氏の初期の代表作であると共に、メタボリズム(日本の建築家・都市計画家らが1960年代に展開した建築運動。「新陳代謝」から名前を取っている)を代表する作品の一つだ。


中銀カプセルタワービル全景。1987年の日経アーキテクチュアによる取材時に撮影・以下同 (写真:三島 叡)


 それぞれの部屋はカプセルとして独立しており、そのカプセルごとに取り外して新しいものと交換できるように技術開発を行った。1960年代前後に、英国の建築家グループ「アーキグラム」や、フランスのヨナ・フリードマンなどが、着脱可能なユニットとして部屋を自立させたり、メガストラクチャーに取り付けたり、といった構想を発表している(移動都市、空中都市…)。それらと、同時代性を持つ動きだった。

 カプセルの内装・設備については、家具はもちろん、テレビ、オーディオなどの電化製品、電話まで工場であらかじめセットしてから搬出。これを現地でクレーン車によって吊り上げ、シャフトに固定した。

 非常にコンパクトで、10m2に満たない室内は、はっきり言って生活空間としては非常に狭い。ただ、ワンルームマンションなどとは違い、宇宙船のコクピットのような独特の雰囲気を備える。「カプセルホテルのようだ」との声もあるが、実はそのカプセルホテル自体も、第一号は黒川氏が設計した、とされる。


カプセル内部。テレビやオーディオが壁面収納家具に埋め込まれて一体化している。録音・再生用デッキはオープンリール式 (写真:三島 叡)


 さて、SL内に建てられた中銀カプセルタワービルを見に行くことにしよう。

 制作は、首都大学東京 渡邉英徳研究室と、建築設計事務所・グラフィック事務所のアトリエテン(http://www.arcg.net)が担当した。両者はそれぞれ、08年3月に結果発表のあった「デジタルデザインコンペ2007」(※)(nikkei BPnet、nikkei TRENDYnet、日経アーキテクチュア共催)の審査委員と、最優秀賞(総合提案部門「THE MUSEUM OF THE GLOBE」)の受賞者。コンペがきっかけとなり、共同で新プロジェクトを進めることになった。今回の取材では、渡邉氏と、アトリエテンの河邑石水代表、寺本勉氏、山下久美子氏──のアバター(SL内でユーザーが操作するキャラクター)に“現地”に来ていただき、インタビュー(チャット)を行った。


※「デジタルデザインコンペ2007」結果発表時の記事は以下の通り
 ・仮想空間で広がる建築の新発想と可能性、デジタルデザインコンペ結果発表〈前編〉(2008/03/14)
 ・仮想空間の力作に特別賞を追加、デジタルデザインコンペ結果発表〈後編〉(2008/03/20)
 ・自由なモノづくりと人々との出会いを楽しむ!──受賞者に聞くセカンドライフの魅力(08/03/27)
 ・「異分野混合デジタルデザインコンペ」に見る選者の視点(2008/04/15)



エントランス前に集合。左から、寺本勉氏、河邑石水氏、山下久美子氏、渡邉英徳氏──のアバター (制作:首都大学東京渡邉英徳研究室+アトリエテン、原設計+企画協力:黒川紀章建築都市設計事務所、企画:日経アーキテクチュア)


上空に浮かぶ透明なグリッド床に接地するビルを見上げる (制作:首都大学東京渡邉英徳研究室+アトリエテン、原設計+企画協力:黒川紀章建築都市設計事務所、企画:日経アーキテクチュア)

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