最近は分からないことがあれば、取りあえずGoogleで検索してみる。そんなとき、大抵検索結果のトップに上がってくるのが「Wikipedia(ウィキペディア)」の項目だ。その内容は幅広く、かつ詳しい。項目内でリンクが張られた用語を追っているうち、調べ物を忘れてつい読みふけってしまうこともしばしばだ。
 Wikipediaは有志による運営というが、一体誰がどのように運営しているのだろう。サーバーはどこにあるのか。費用はどうやって調達するのか。そんな疑問に、Wikipedia日本語版の管理者・ビューロクラットの今泉 誠氏に答えていただいた。

■まずは、Wikipediaの成り立ちを教えてください。

 もともとは米国のジミー・ウェールズ氏が2001年1月に個人で立ち上げた「Wikipedia.com」というサイトが始まりです。最初は英語版だけでしたが、さまざまな言語版ができ、徐々に拡大していきました。現在は、非営利団体ウィキメディア財団がWikipediaを運営し、その下でそれぞれの言語版が活動している形です。
 日本語版ができたのは2001年5月です。とはいえ、当時はWikiで日本語が使えなかったので、すべてローマ字表記で項目も23個くらいしかありませんでした。日本人のユーザーもほとんどいなかったですしね。2002年夏にWikiのソフトが改良されて日本語に対応してから、日本人のユーザーが徐々に集まってページも充実していったのです。昨年、日本語版は30万ページを超えました。

■日本語も含め、今は何言語くらいあるのでしょう?

 今は261言語です。ページでいえば、英語が一番多くて約168万ページ、ドイツ語が約55万ページ、フランス語が約46万ページ、ポーランド語が約36万ページ、日本版が約34万ページといったところです。

■それぞれの言語版は用語解説や運用で連携しているのですか。

 全くしていません。完全な独立です。言語によって掲載する用語も解釈も違いますから、連携するのは現実問題として難しいのです。ウィキメディア財団からはいくつかのポリシーが示されていて、それに基づいてそれぞれが自主的に運営しています。

■Wikipediaの運営体制はどうなっているのでしょう。

 日本語版だけで言えば、現在は登録ユーザーが約11万8000人います。その中に、「管理者」と呼ばれるユーザーが56人、「ビューロクラット」と呼ばれるユーザーが5人います。それぞれは役割が異なります。

 一般の登録ユーザーは、項目の投稿、書き込みしかできません。Wikipediaは未登録のユーザーでも項目の投稿、書き込みができますから、その意味では、未登録のユーザーと権限はあまり変わりません。ただ、登録ユーザーはユーザー名を示して書き込みをしたり、Wikipedia内での議論に参加することで、未登録ユーザーよりも信頼度が上がります。

 一方、管理者は項目を削除したり、ある項目について編集合戦や“荒らし”が起こったときに書き込み禁止にしたりできます。一般の登録ユーザーはある程度実績を積んだ後、管理者になりたければ立候補できます。立候補者が出ると、登録ユーザーで信任選挙をします。投票したユーザーの75%以上の信任が得られれば、管理者になれるわけです。

 このとき役割を果たすのがビューロクラットです。登録ユーザーと管理者では項目の削除や書き込み禁止ができるなど、権限が違います。だから、システム上、この権限を変更しないといけません。それができるのがビューロクラットなのです。ただ、これらの区分は上下関係というよりは、運営上の役割の違いです。項目を編集する際は、登録ユーザーも管理者もビューロクラットも関係ありません。

■管理者は担当範囲などを決めて定期的に荒らしなどをチェックしているのですか。

 担当範囲は特に決めていません。管理者は編集合戦や荒らしがあると「保護」という状態にして書き込みを禁止するわけですが、定期的に見て回っているというよりは、なんとなく見ていて気が付いたら保護にする、という程度です。あるいは、管理者以外のユーザーから保護申請があったときに、それを検討して保護にします。Wikipediaのポリシーとして「好きな人が好きなときに好きなことを好きな範囲でやる」というのがあるので、このような体制になっています。

■著作権などを管理するのは大変なのでは?

 画像などが掲載されているものもありますが、基本的には本人が撮影したものや友人・知人から委託を受けたと証明できるものに限定しています。文章は何かのコピーだと判明すれば即削除。書き込みについては、情報ソースがはっきりしていなければ書かないということにしています。
 Wikipediaは非営利団体ですから、もし裁判になると裁判費用すら出せません。ですから、疑わしいものは避けるというスタンスです。

■Wikipediaの運営資金について教えていただけますか。

 全額寄付です。ウィキメディア財団は年に1度程度、寄付金を集めるキャンペーンをします。現在は日本円にして1億円程度集まっています。多くは個人からの、10ドル、20ドル単位の小口の寄付ですね。これが財団の運営費とシステム維持費になります。財団の維持費といっても、財団の理事が年に1度ミーティングをする際の旅費と財団の常駐スタッフ5人の給与程度なので、90%以上がシステム維持に回されています。

■Wikipediaのあれだけのデータを蓄えるのですから、システムは大規模でしょう。

 米国フロリダ州にデータベースサーバーとWebサーバーが、ヨーロッパの2カ所とアジアの1カ所にキャッシュサーバーが設置してあります。フロリダのデータベースサーバーは三重くらいに冗長化してあったと思います。現在のサーバー台数は全部で350台で、そのうち295台が稼働中です。サーバー数はどんどん増えています。

■これだけのプロジェクトが有志と寄付で動いているのはすごいと思います。何がその意欲につながるのでしょうか。

 やはり「質、量ともに史上最大の百科事典を作る」というWikipediaのコンセプト自体でしょう。日本は昔、一家に1セットは百科事典がありました。それが今はなくなっています。また、世界にはもともと百科事典というものがない国や文化もあるのです。でも、百科事典というのは、その時代の人間の知識の集大成です。それを次世代に残すのはとても重要で、やりがいのある試みだと思います。
 当面の目標は、今ある平凡社やブリタニカの百科事典を越えることです。Wikipedia日本語版もずいぶん項目が増えましたが、項目にまだまだ偏りがあります。内容も必ずしも充実しているとはいえません。この目標を達成するだけでも、あと数十年はかかるでしょう。

■変更履歴
「登録ユーザーの75%以上の信任」としていたのを「投票したユーザーの75%以上の信任」と訂正しました。 [2007/3/14]