図3●ハードディスクのトラック間密度
トラックとトラックの間の距離を縮めると記録密度が上がる。半面,目的のトラックに対するヘッドの位置決めが難しくなり,性能に影響を及ぼす。
図4●ハードディスク・メディアの利用効率を左右するスライダ
読み書き用のヘッドを保持するスライダが小さいほどヘッドの移動範囲が広くなり,メディアの利用効率が上がる。
図5●2.5型ハードディスクのインタフェース「ATA/ATAPI」の信号線と「Serial ATA」の信号線
ATA/ATAPIは信号線の数が44ピンあり,22ピンのSerial ATAに比べると配線に必要な面積が多い。しかしSerial ATAの動作周波数は1.5GHzとATA/ATAPIの50MHzより高く,チップセットやハードディスクがインタフェースの駆動に消費する電力はATA/ATAPIより上がる。

小技の積み重ねで容量を増やす

 それまで従来の面内記録方式でハードディスクの容量を増やしていかなくてはならない。2004年に取り入れられる工夫としては,「流体軸受け」への全面移行によるトラック間密度の向上と,ディスクを読み書きするヘッドを支える「スライダ」の小型化がある。

 トラック間密度とは,同心円上に記録される「トラック」同士の距離のこと(図3[拡大表示])。ハードディスクのヘッドは位置決め用のアドレス信号(サーボ信号)を頼りに目的のトラックを読み書きする。しかし回転するディスクは,コマが首を振るようにわずかにゆらぐ。このゆらぎがヘッドの位置決めにかかる時間(シーク速度)を左右する。一定のシーク速度を保つのであれば,ゆらぎが少ない軸受けほどトラック間密度を高められる*5

 2001年から2003年にかけて,大手ハードディスク・メーカーは相次いで流体軸受けの採用を始めた。それまでのボール・ベアリングが鋼球でモーターの回転軸を支えるのに対して,流体軸受けはオイルを使う。かつて流体軸受けは耐久性に難があったが,現在はそれも克服。精度の高い軸受けを実現するには,ボール・ベアリングよりも流体軸受けのほうがコストを抑えられる。接触がないので音も静かだ。例えば東芝は「2004年は流体軸受けを全面的に採用する」(東芝の加瀬林氏)という。

 記録密度を高めずに容量を増やす工夫もある。読み書きヘッドの土台(スライダ)を小さくして読み書き可能な領域を増やす手法だ(図4[拡大表示])。ハードディスクはディスク板面の領域すべてを読み書きできるわけではない。ヘッドの移動範囲でディスクの利用効率が決まる。そこでヘッドを支持するスライダをこれまでの「ピコスライダ」より小さい「フェムトスライダ」を採用することで,ヘッドが移動できる範囲を広げて記録容量を上げる。HGSTによると,2.5型で3.5%,1.8型で6%容量を増やす効果があるという。

使いどころが難しいSerial ATA

 もう一つのハードディスクの主要な性能がデータ転送速度である。現在7200回転/分のHGST製2.5型ハードディスク「Travelstar E7K60」はディスクからの最大データ転送速度が約65Mバイトだ。こうなるとそろそろ,現行のインタフェースの転送速度では不十分になる。

 現在使われているATA/ATAPIの最大データ転送速度は,Ultra DMA mode-5のときで100Mバイト/秒。ディスク制御コマンドなどのオーバーヘッドを差し引いた実効速度は70M~80Mバイト/秒程度である。既にギリギリのレベルだ。記録密度が上がれば基本的にデータ転送速度は向上する。したがって2004年は150Mバイト/秒の最大データ転送速度を持つシリアル伝送のインタフェース「Serial ATA」が必要になる。

 ノートパソコンのチップセットが「Serial ATA」に対応するのは2004年後半の見込み。最大データ転送速度の向上に加えて,信号線の数がパラレル伝送のATA/ATAPIの44に対してシリアル伝送のSerial ATAでは22と半減する(図5[拡大表示])。このため配線面積が減る。電源の低電圧化も進む。これまで5Vのみだった電源電圧が3.3V供給に対応。5V駆動が主流だったハードディスク・コントローラを3.3V駆動で低消費電力化できる。

 高速で配線数が少なく低電圧。一見するとSerial ATAはノートパソコンにうってつけのインタフェースのように思える。しかしSerial ATAのインタフェースの駆動に消費する電力は現在より上がってしまう。動作周波数はIDE/ATAPIの50MHz程度から,一気に1.5GHzに跳ね上がるためだ。そのぶんSerial ATAインタフェースを駆動するコントローラの消費電力は若干増える。ハードディスク・メーカーは「ノートパソコンのメーカーは消費電力の上昇を嫌う。Serial ATAによる消費電力の上昇分は,それ以外の部分での低消費電力化で相殺する必要がある」(日立グローバル ストレージテクノロジーズモバイル本部事業戦略部計画の出来浩マネージャ)という。

(高橋 秀和)
出典:2004年1月号 46ページ
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。