昨日の記事「12メガADSLの干渉問題を総括する(上)」では,2002年10月から10回にわたって開催されたDSL作業班で,「スペクトル管理標準」について何がどう決まり,ADSL事業者間でどのような合意に達したのか,を見てきた。今日は,事業者間で合意した背景や今後の展開,そして,この問題をユーザーの視点から考えるとどうなるか,をまとめたい。

Annex.A(OL)のクラスA入りは「条件付き」

 実は,4月22日のDSL作業班(10回目)でスペクトル管理標準の基本的な方向性は各ADSL事業者間で合意に達していたが,具体的に各社の12メガ方式がどのクラスに分類されるかは決まっていなかった。その調整は,4月24日に各ADSL事業者(アッカ・ネットワークス,イー・アクセス,NTT東日本,ソフトバンクBB,長野県共同電算の5社)が集まった事業者間協議の場で行われた。そこで,Annex.A(OL)にデルタ(昨日の記事を参照)を採用し,クラスAに取り込むことをADSL事業者間で合意した。

 この会合の内容は非公開なので,参加メンバーから詳細な話は聞けなかった。ただ,断片的に仕入れた情報によると,Annex.A(OL)をクラスAに入れるという合意には条件がつけられているという。関係者によると,「ソフトバンクBBのAnnex.A(OL)は,ユーザーから問題を指摘された場合にソフトバンクが責任をもって事後対策を行うという条件でクラスAに入れることになった」という話だ。

 計算式の結果を見ると,Annex.A(OL)が他の方式のADSLに干渉し,その伝送速度を低下させたり,契約しても利用できないといった状況が発生する可能性は否定できない。「Annex.A(OL)が他の方式に干渉を与える可能性があることはソフトバンクの孫社長も認めている」(NTT東日本の成宮部長)

 導入後に問題が起こらないように,方式によって事前に回線利用を管理しようというのがスペクトル管理の本来の考え方だ。しかし,現実にすでに多くのユーザーが利用している方式が,問題を引き起こす可能性を秘めている場合,それをそのまま放置しておけない。そこで,事後対策でユーザーを保護しようという考えである。

 ただし,事後対策といっても「速度低下の原因がAnnex.A(OL)かどうかといった調査は一切しない方向」(NTT東日本の成宮部長)だという。速度が一定基準以下なら収容替えをするといった簡単なルールを決めて,その内容を接続約款に盛り込むという話である。

 さらに,条件は事後対策だけではなさそう。ソフトバンクBBの今後のADSLサービス展開に関して,関係者の口からは「ここ数カ月は」とか「ある程度は」といった言葉が何度も飛び出した。筆者の推測だが,Annex.A(OL)をクラスAに入れる条件の一つとして,ソフトバンクBBが一定期間(もしくは一定数)でAnnex.A(OL)の新規販売を停止するという内容が含まれている可能性が高いと見る。そう考えると,同社が24メガADSLのサービス開始を急ぐのも理解できる。

 これらの条件に関してソフトバンクBBに確認したところ,「非公開の会合なので,弊社はコメントする立場にない」(ソフトバンク広報)という回答を受け取った。

今後,議論の舞台はTTCへ

 これでスペクトル管理の大枠はADSL事業者間で合意された。「TTCで議論していたスピリットがそのまま報告書に盛り込まれたと思っている」(NTT東日本の成宮部長),「議論を尽くした内容なので,満足できる。妥協した結果ではなく,ほぼ希望通りの結果といえるでしょう」(ソフトバンクBBの宮本本部長),「Annex.A(OL)をクラスAに入れることはスジとしてはおかしいが,現実的にはやむをえない」(イー・アクセスの庄司本部長)といった具合だ。

 情報通信審議会では,冒頭で書いたように,公開された報告書に対する意見(パブリック・コメント)を6月2日まで受け付け,それを反映させた答申を6月中にも出す見込みである。NTT東西地域会社は,クラス分けや事後対策など,今回の決定内容を踏まえて改訂した接続約款を6月中にも申請する予定にしている。早ければ6月中にも認可されることになりそうだ。

 今後,新しいADSL方式に関するスペクトル管理の議論の場はTTCに移る。これに関しても事業者間で合意済み。当初は,「TTCの権威付けの理解が他社と一致していなかった」(ソフトバンクBBの宮本本部長)と認めるソフトバンク・サイドも,「現在はTTCを尊重してやっていきたいと思っている」(宮本本部長)と態度を改めたことを明らかにした。

ADSLのメリットをできるだけ多くのユーザーに

 一部腑に落ちない点はあるものの,こうして一件落着した12メガADSLの干渉問題。では,この結果をユーザーの視点から考えるとどうなるだろうか。

 ユーザーとしてまず不安に感じるのは,「計算式上,大きな干渉を及ぼす可能性のあるAnnex.A(OL)が同一カッド内にあって,速度が落ちているんじゃないか」という点。さらに今後クラスAに分類される方式からの干渉の度合いも気になる。

 報告書では長距離方式を優遇するという記述がある(3-3(5)の2)。つまり,ほかの方式に与える干渉値が多少大きくても,クラスAとして認めようという話だ。さらに,クラスAに分類された方式からの干渉で影響を受けても,それは事業者間が合意した結果なので,なんらかの措置を強要できないという記述(報告書3-3(2)の2)もある。

 Annex.A(OL)がらみなら,ADSL事業者に申し出ることで「事後対策」を受けられるようになる可能性がある。しかし,後者のケースでは,そうした保証は用意されない。なんでもかんでも長距離方式と主張して,多少干渉値が大きくても優遇措置を勝ち取ろうとするADSL事業者がいると,ほかの回線を利用するユーザーに多大な影響を与える可能性が出てくる。

 実際,ソフトバンクBBが「Annex.A(OL)は長距離方式。他社が局から遠いから提供できないというユーザーに対しても,当社はサービスを提供してきた」(ソフトバンクBBの宮本本部長)と主張する。その一方で,「高速化技術のAnnex.A(OL)を途中から長距離方式といい始めて混乱した」(NTT東日本の成宮部長)という見方をしている事業者もいる。

 ただ,新しい方式に関しては,長距離化技術と高速化技術はすみわけされるという見方が多いのも事実。各事業者とも,これだけ議論を重ねて到達した結論を強引にねじまげて解釈する事業者はいないと見ている。「ReachDSLに関しても,収容回線数などに気をつけるような運用面の対策で,ユーザーに与える影響を抑えるように考えられてきた。新しい長距離化方式についても同じ考えでいく」(NTT東日本の成宮部長)

長距離化方式を使うサービスがなければ意味がない

 長距離化方式をクラスAに分類することで,電話局から離れたユーザーがADSLを利用しやすくなるのは確か。しかし,これに伴ってADSLユーザー全体でのコンセンサスが必要になる。つまり,できるだけ多くのユーザーがADSLサービスのメリットを享受できるように,長距離化技術を導入した影響ですでに利用しているADSL回線の速度が低下しても,多少は目をつむるという姿勢が求められるだろう。

 筆者が速度低下より不安に思うのは,取材の席上でソフトバンクBBの宮本本部長が「長距離化技術にはReachDSLもあるが,Annex.A(OL)のほうがオペレーションが楽」と発言している点。局者側の設備をAnnex.A(OL)で統一し,ユーザーに配布するADSLモデムも一つの方式のモデムなら,コストも削減できるし,運用も楽だという意味と理解した。しかし,今後長距離化技術としてAnnex.A(OL)が使えなくなると仮定すると,ソフトバンクBBは局から離れたユーザーに対し,Annex.A(OL)に比べて運用コストや手間がかかるReachDSLを提供せざるをえなくなる。

 これに嫌気をさして,ソフトバンクBBがADSLサービスとしてReachDSLを切り捨てるようなことになれば,スペクトル管理標準の思惑とは逆に,局から遠く離れているユーザーを切り捨てる結果にもなりかねない。長距離化方式を優遇するルールがあっても,対応サービスがなければ意味がない。今回の結論をすべてのユーザーのために生かすように,ソフトバンクBBを含む全ADSL事業者に,長距離化方式のサービス継続および提供を期待している。

前回(上)を読む

(藤川 雅朗=日経NETWORK副編集長)

【お礼】
 最後に一つお礼を述べておきたい。2003年3月24日の「記者の眼」(「無線LANアクセス・サービスはもうおしまい?」)に対して,読者の皆様からたくさんのご意見を頂戴した。これらのご意見を参考に,いずれ,なんらかの形で記事をまとめたい。