原則4 利害の対立軸の交点に立つ
領域のすき間に潜むリスクを見る

 人は組織に属すと、組織の権益、利権を死守しようとの意識が働く。複数の組織のメンバーを集めて構成するプロジェクトにおいては、権益・利権をうまく調整しないと、それぞれのメンバーが属している組織の利益代表として振る舞いがちとなる。

 ITアーキテクトの四つめの行動原則は、こうした組織の壁が生み出すリスクを意識し、利害の対立軸の交点に立つことだ。ユーザーやコンサル、プロマネを含むさまざまな立場・職種の人と協力関係を築く姿勢が求められる。だから上流工程(元請け)と下流工程(下請け)、開発と運用、アプリとインフラ、ITとビジネスなど、セクショナリズムを超越した立ち位置から、デザインする必要がある(図5)。

図5●セクショナリズムを超越した立ち位置でデザインする
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組織の利害対立をリスクと捉える

 昨今は、ITがビジネスに不可欠との認識が定着しつつある。だが、かつては違った。例えば筆者が社会人生活を始めた1990年代前半は、「一般企業にとってITはノンコアの事業だから、ITの専門企業に任せるべき」との考え方が一般的で、アウトソーシングが盛んだった。人的リソースを自社のコア事業に集中させ、技術の変化が激しいIT(ノンコア)は外注すればよいとの判断だ。

 これは理にかなっているようにも思えるが、実践した先に何が起こったのか。それは自社の業務を知るIT部門が弱体化し、ITを活用した業務改革の提案能力が低下するという「計算機室文化の崩壊」である。また、アウトソーシングによって、コストを抑えたいユーザー企業と、利益を増やしたいITベンダーとの間で利害対立の構図も生まれた。さらに、ITベンダー内でも、ビジネス規模の拡大とともに、開発と運用、アプリとインフラなど、担当や専門領域が細分化され、組織の壁があちこちに生じた。

 こうした組織の利害対立の構図が高コスト体質、低変化対応力につながり、その反動として「DevOps」の取り組みが注目されるに至ったと筆者は考えている。この問題の背景には、関係者が異なる利害を持つことをリスクと捉えた上で、全体をデザインする人材の欠如があるわけだ。

 ネット企業を中心に、ビジネス活動を進める上で生命線ともいえるITを内製(インソーシング)し、開発と運用を一つの選任チームが推進する動きが顕著になっている。一見、利害対立が起こりにくいように思える。しかし、ビジネスが成功して規模が大きくなると、組織が分断されていく。その結果、ITをアウトソースした企業と同じ轍を踏まないとも限らない。

対立を越えデザインするのは楽しい

 ITアーキテクトは、利害対立の源ともいえる、各組織のミッションを理解しなければならない。そして、組織を超えた“大きな話”に膨らませて、グランドデザインを描く必要がある。

 それには、全体を俯瞰する視点から、異なる意見や考え方に耳を傾ける度量が不可欠だ。組織の壁がもたらすリスクを外から論評するのではなく、周りを巻き込みつつ、自らそのリスクをコントロールする必要がある。必然的に、アーキテクトは孤独な立場に置かれることになる。しかし、つらくはない。自らデザインするのは実に楽しいことだからだ。