新コラム「目利きが薦める名著・近刊」をスタートしました。毎週火曜に「今こそ読むべき名著」と「今を考える近刊」を交互に掲載します。執筆するのは本好きの建築設計者、エンジニア、建築史家、編集者、書店員など。今読むべきお薦め本を「なぜ今か」を明らかにしつつ紹介していきます。「今を考える近刊」の第1回は、日経アーキテクチュア編集長である私、宮沢が選んでみました。建築にはそれほど目利きではありませんが、仕事柄、本や雑誌はたくさん読んでおりますので、最近気になったこの3冊を熱くお薦めします!

「まちで闘う方法論 自己成長なくして、地域再生なし」

「まちで闘う方法論 自己成長なくして、地域再生なし」の表紙。著者は木下斉氏

 文系出身で1990年にビジネス出版社に就職し、たまたま人手が足りなかった建築雑誌に配属された。そんな自分にとって、「建築」や「都市」に関わる人たちのモチベーションはかなり不思議に思えた。「なんて儲け心がないんだろう!?」

 取材に対応してくれる人はみな高学歴。当時はバブル経済のまっただ中だったのに、どの人も高級時計をひけらかすわけでもなければ、陰で高級外車に乗るわけでもない。「儲けたい」などとは口が裂けても言わないように見えた。とりわけ質素で、まるで“仙人”のように見えたのが地方都市の街づくりに関わっている人たちだった。取材では相づちを打ちながらも、「自分にはとてもまねできない。よく続くなあ…」と思ったものだ。

 今年5月に学芸出版社から上梓された「まちで闘う方法論 自己成長なくして、地域再生なし」は、地域活性化に取り組もうとする人たちに向けた実務ベースの指南書だ。著者の木下斉氏は1982年生まれで、街づくりの経営を専門としている。木下氏は、地域活性化には「稼ぐこと」が重要であると公言している。

 もちろん、木下氏個人が「大儲けしたい」というのではなく、地域再生事業として収益を上げ、長く継続していくことが重要であるということだ。文系出身の私のような人間には「稼ぐことが重要だ」と言ってくれるとすごくすっきりする。おそらく木下氏と地域再生に取り組む多くの商店主たちもそう感じるに違いない。

 本書では、木下氏の18年間の街づくり経験に基づく様々な実践ポイントが分かりやすく解説されている。その根底にあるのが、「国や自治体の補助金に頼らない」という姿勢。これは、木下氏自身がかつて補助金に頼って失敗した苦い体験に基づいている。補助金の失敗談のほか、本書には木下氏の失敗談がたくさん出てくる。その失敗はどれも「なるほど」と思えるものばかり。少なくとも木下氏は「失敗しない仙人」ではない。そうした失敗の積み重ねのなかで築いていった木下流の方法論──。街づくりに関わるすべての人にヒントにしてもらいたい参考書だ。

著者:木下斉
判型:四六判
ページ数:240ページ
出版社: 学芸出版社
発売日: 2016年5月
定価:本体1800円+税