病院情報管理システムの開発が失敗した責任を巡って旭川医科大学とNTT東日本が争った「旭川医大・NTT東裁判」の控訴審判決は、失敗の全責任はユーザー企業にあるとするものだった。いったん仕様を凍結した後も追加開発を要求したユーザー側の姿勢が問われるものだったが、IT訴訟でいずれか一方の過失割合が100%になるケースは珍しい。

 ITベンダーとユーザー企業が争うIT訴訟でよく知られているのは、勘定系システム開発失敗の責任を巡ってスルガ銀行と日本IBMが争った「スルガ銀・IBM裁判」だろう。日本IBMが約42億円の賠償を命じられたことから、IT訴訟はITベンダーに厳しい判断が下されるとのイメージが強い。

 だが実際のIT訴訟では旭川医大・NTT東裁判のように、裁判所がプロジェクトの実態を精査したうえで、ユーザー企業の責任も厳しく問うている。ITベンダー側はプロジェクトを適切に管理する「プロジェクトマネジメント(PM)義務」、ユーザー企業側は仕様の策定などでITベンダーに協力する「協力義務」に違反する行為がなかったか、議事録やメールのやりとり、証言など膨大な資料から裁判官が認定している。

 近年のIT訴訟の裁判資料や判決から、ユーザー企業が陥りがちな三つの落とし穴を紹介しよう。

パッケージ導入に現場部門が反発

 落とし穴の一つは、現場部門の反発でパッケージソフトを導入できなくなる、あるいは現場の追加開発の要望を抑え切れなくなるケースだ。

 パッケージ導入失敗の訴訟は一般に、特定のパッケージソフトをユーザーに推薦したITベンダー側の責任を問われるケースが多い。ベンダーの技術者にパッケージの機能や業務の知識が不足しており、適切な要件定義の支援や情報提供ができなかったことについて、プロジェクトマネジメント義務違反と認定されるのが典型例である。

 一方で、パッケージ導入ではユーザー企業が協力義務違反を問われる事例も少なくない。典型例は「パッケージに合わせて業務を変える」ことを前提にパッケージ導入を決定したのに、業務を変えることへの現場の反発を抑えられなかったケースだ。

 近年では旭川医大・NTT東裁判のほか、ERP(統合基幹業務システム)導入失敗の責任が問われた「トクヤマ・TIS裁判」で東京地方裁判所は2016年4月、ユーザー企業側の義務違反を認定している。

 この裁判は、化学工業メーカーのトクヤマが欧州SAPのERPを軸に基幹系システムを再構築しようとしたプロジェクトに関するもの。同社は2006年にITベンダーとしてTISを選定して導入を進めたが、現場部門が新システム導入への協力を拒否するなどしてプロジェクトはとん挫。トクヤマは2009年9月、約18億円の支払いをTISに求める訴訟を東京地裁に提起した。

 東京地裁が2016年4月に下した判決は、失敗の責任は双方にあるものの、ユーザー企業の責任をより重くみる内容だった。トクヤマがプロジェクトを中止したのは「原告(本誌注:トクヤマ)内部の現場ユーザーからの業務改革に対する強い反発を受けこれを抑えることができなくなった」(地裁判決)ことによるもので、「このような経緯は,基本的には原告内部の要因であるといわざるを得ない」(同)とした。なお本裁判はトクヤマが東京高等裁判所に控訴したが、2016年12月に和解が成立している。

 こうした失敗例に共通するのは、パッケージの選定や要件定義の際に現場部門のキーパーソンがほとんど関与していなかったことだ。

 パッケージを選定した後に現場部門の要望を聞くという順序で進めると、後々のトラブルにつながりやすい。現場部門の要望を過剰に聞き入れれば仕様が膨らみ、聞かなければ導入直前に不満が爆発する。旭川医大・NTT東裁判は前者、トクヤマ・TIS裁判は後者のケースだ。

 現場部門を交え、1~2年をかけて個々のパッケージソフトの特性を理解したうえで選定した方が、コストや時間はかかるものの、後々のトラブルを未然に防ぎやすくなる。

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