将棋のプロ棋士で「王座」のタイトル保持者である中村太地氏は2018年1月30日、東京・目黒のホテル雅叙園東京で開催されたイベント「ITインフラSummit 2018」において、「AIとの対戦で見えた、将棋の新しい地平」と題して講演した。同講演で中村王座は、人工知能(AI)を搭載する将棋ソフトの活用が進むプロ将棋界の現状を踏まえ、今後に求められる3つの素養を提示した。

将棋のプロ棋士である中村太地王座
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 1つめの素養は「積極的な姿勢」である。最近の将棋ソフトは一般に、攻撃を仕掛けるタイミングが人間よりも早い。プロ将棋界も影響を受け、本格的な戦いが以前よりも早く始まるようになってきた。このような傾向から、攻めの失敗を恐れず、突き進むことが求められていると中村王座は見る。

 AI活用に象徴される環境の変化も恐れず、積極的に取り入れる姿勢が必要とした。「国民栄誉賞の受賞が決定した羽生善治竜王や、デビューから公式戦29連勝を記録した藤井聡太四段ら有力棋士を筆頭に、今やほとんどの棋士がソフトを利用している。ソフトを使いこなせない棋士は勝てない」(中村王座)。

 中村王座が挙げた2つめの素養は「冷静な分析力」。現状、AIを搭載する将棋ソフトが将棋の実力を高める近道と認めながらも、考えなしに取り入れることを中村王座は戒める。「将棋ソフトの指し手をただ取り入れても、ソフトそのものになれるわけではない。ソフトの提案を自分なりの判断基準で分析し、取捨選択すべきだ」(中村王座)。

 3つめの素養には「卓越した変換力」を挙げた。中村王座が語る「変換力」とは、AIが導き出した結果を理解しやすいように意味を加えたり、結果を導くまでのプロセスを明らかにしたりする能力だという。「現状の将棋ソフトは有力な指し手を提示してくれるものの、その手を選択した理由を人間に分かりやすく教えられない」(中村王座)。だからこそ、結果の解釈や結果を導くプロセスを類推する力が求められるというわけだ。

 中村王座が提示した3つの素養は、あくまで将棋から導き出したもの。もっとも、AIの手法の1つであるディープラーニング(深層学習)は、適正な結果が出たとしても、それに至る途中のプロセスが分かりにくいという課題がある。こうした点を考慮すれば、将棋だけでなく幅広い分野においてAI時代に必要な3つの素養として通用しそうだ。