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米オラクルが総力を挙げてクラウドシフトに挑んでいる。インフラからアプリケーションまで全ての層をカバーするサービスを拡充。5年ぶりに投入するリレーショナルデータベース製品の最新版もクラウド版を先行して提供する。営業体制や社内文化の変革も急ぐ。カギは既存の大手顧客やパートナー企業をいかに取り込めるかだ。特に間接販売が中心で、保守的なユーザーが多い日本でのクラウドシフトは容易でない。日本オラクルの株式上場から19年。日本で反攻を狙うオラクルの今を追う。

 「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)の半分のコストを保証する」――。

 米オラクルが毎年秋にサンフランシスコで開催する年次イベント「Oracle OpenWorld(OOW)」は、ラリー・エリソン会長兼CTO(最高技術責任者)による競合会社への挑発的な発言が風物詩となっている。2017年10月1日(米国時間)に行われた最新のOOWの基調講演でエリソン会長がターゲットとしたのはAWSだった。

時価総額はITバブル期に迫る

 オラクルのIaaS(インフラストラクチャー・アズ・ア・サービス)で「Oracle Database(DB)」を稼働させると、AWSのIaaSを使う場合に比べて総コストは半額以下に収まる。エリソン会長はこう主張する。

 さらにエリソン会長はAWSのDWH(データウエアハウス)サービス「Amazon Redshift」と比較して「当社のDWHサービスがSLA(サービス・レベル・アグリーメント)で保証する稼働率は100倍高い」とするなど自社のクラウドの優位性をアピールした。

図 米オラクルの時価総額の推移
ITバブル期並みまで回復
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図 オラクルのクラウド戦略の流れ
2015年に「敵はAWS」と表明
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過激な発言を毎年連発する、オラクルのラリー・エリソン会長兼CTO(最高技術責任者)

 今年のエリソン会長の表情は例年以上に自信に満ちていた。それもそのはず、オラクルの株式時価総額は10月5日時点で2000億ドル(約22兆円)を超える。リーマンショック直後の2009年に記録した最低額である750億ドルからほぼ3倍に増え、ITバブル期の2000年9月に記録した約2590億ドルに迫る勢いだ。対照的に、エリソン会長にとっての積年のライバルである米IBMの時価総額は2012年3月の約2400億ドルを天井に、現在は約1400億ドルに低迷している。

米国で直販営業部隊を大幅増員した、オラクルのマーク・ハードCEO(最高経営責任者)

 株式市場がオラクルを評価するのは、同社の主力ビジネスがクラウドへ順調に移り始めているからだ。同社の2017年6~8月期決算を見ると、クラウドの売上高は前年同期比51%増えた。今や全社売上高の16%をクラウドが占める。

 「クラウドへの移行が当社の利益拡大に貢献している」。オラクルのマーク・ハードCEO(最高経営責任者)は10月5日に実施したアナリスト向け説明会で、クラウドビジネスが利益にも寄与していると強調した。

SaaSの利益額はオンプレの2倍

 粗利益率で見ると、従来のオンプレミス(サーバー設置型)の方がクラウドよりもうまみは大きい。オンプレミス用ソフトウエアのサポートビジネスの粗利益率は95%だが、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)は67%にとどまる。

 ただ顧客当たりの売上高で見ると、SaaSの売上高はサポートの3倍に達する。オンプレミスのサポート売り上げが1で利益が0.95とすると、SaaSの売り上げは3で利益は2.01(3×0.67)となり、SaaSへの移行で利益額は約2倍に増える計算になる。

 オラクルのクラウド移行が成功しつつある要因として、技術面ではAWSや米マイクロソフトに対抗できる「スケーラブルなIaaS」(エリソン会長)を実現できた点が大きい。オラクルは2014年7月にシアトルにクラウドの開発拠点を設け、AWSなどからエンジニアを引き抜いてIaaSを開発した。

 IaaSに加えて「PaaSやSaaSを持つ」(オラクルのトーマス・クリアン プレジデント)ことも強みだ。オラクルのIaaSの粗利益率は43%で、ハードウエアの60%すら下回る。IaaSよりも利益率の高いSaaSやPaaSがあるからこそ、オラクルのパブリッククラウド事業は成立していると言える。

 営業面では、過去6年間で営業スタッフの人数を2倍に増やした。オラクルの営業スタッフは現在3万5000人。かつては世界的に間接販売を重視していたが、今は特に米国で直接販売を強化。中小企業向け市場を中心にSaaSを売り込んでいる。

 直販営業の強化に向け、米国では社内に「Class of」という営業スタッフ教育機関を設立した。社員4500人以上に、クラウドに関する知識や直販営業のノウハウをたたき込んだという。

「18c」はクラウド版を先行

 オラクルのクラウド重視の姿勢は、OOWで発表したOracle DBの最新版「Oracle DB 18c」にも表れている。

 5年ぶりのメジャーアップデートとなる18cに関して、同社は2017年12月にデータウエアハウス(DWH)版のクラウドサービスを、2018年6月にOLTP(オンライントランザクション処理)版のクラウドサービスを開始すると発表。現時点でオンプレミス版の出荷時期は明らかにしておらず、「クラウドファースト」での提供となる。

 メジャーアップデートであるにもかかわらず、運用管理性を中心にアピールしたのもクラウド重視の姿勢を示している。エリソン会長は18cが「世界初の全自動DBだ」と強調。機械学習を全面的に採用して、性能チューニングの自動化機能や、不審なDBアクセスを遮断するセキュリティ機能などを実現した。クラウド版はソフトウエアの更新やサーバーの増設なども自動化し、DBを止めずに作業を完了できるとしている。

 オラクル社内の雰囲気も変わり始めた。オンプレミスのソフトウエア販売が中心だった時代は、顧客と大型の契約を結ぶことを重視していた。だがクラウドの世界は、顧客がサービスをいつでも使い始められ、いつでも止められる。「売りっぱなし」は成立せず、契約後も顧客を継続的に訪問して満足度を高め、クラウドサービスの利用量を増やしてくれるよう努力し続けなければならない。

 そこでオラクルが注力しているのが、米セールスフォース・ドットコムが先鞭をつけたことで知られる「カスタマーサクセス」の取り組みだ。顧客のクラウド導入の成功を支援することで、クラウドの利用促進を目指す。

 2017年6月に日本オラクルのCEOに就任したフランク・オーバーマイヤー氏は「クラウドや顧客のビジネスをどれだけ理解しているかが、営業部門の社員を評価する指標の1つになっている」と明かす。「顧客の成功をどれだけ支援できるか」までが営業部隊に問われ始めているのだ。

 これまでオラクルとは縁遠かったスタートアップ企業などにオラクルのクラウドサービスを売り込む動きも加速している。そのために新設したのが「オラクル・デジタル」という営業組織だ。「ミレニアム世代の顧客が多数を占めるスタートアップの心をつかむことに特化した組織」(オーバーマイヤーCEO)であり、オフィスの作りもスタートアップ風だ。

 「顧客とアイデアを共有するという視点で、オラクル以外のテクノロジーを勧めることもある」(同)という。インドのバンガロールで始め、2017年に日本でも開始。「日本では従来型の営業部門に影響を受けないよう、オフィスのフロアを分けている」(同)。

(写真提供:オラクル)
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日本は無償のコンサルで移行支援

 全社を挙げてのクラウドシフトに合わせて、日本オラクルもクラウド強化を急ぐ。まず変えたのは営業体制だ。新年度の開始に当たる2017年6月に、大手顧客を対象とするクラウドソリューションの営業統括組織を設置するとともに、中堅中小企業にオラクル・デジタルを展開する体制も整備した。

 クラウドソリューション営業統括は、Oracle DBの利用企業を中心とした既存顧客にクラウド利用を促す役割を果たす。「IT部門の中期経営計画の立案を支援するコンサルティングサービスを無償で提供している」と竹爪慎治クラウドソリューション営業統括執行役員は話す。

 同組織は2つのグループから成る。「インサイト」と「クラウド・エンタープライズ・アーキテクト」だ。

 インサイトは経営コンサルティング経験者を中心にした組織で、クラウドとオンプレミスを使い分ける最適なアーキテクチャーなどを提案する。必ずしもオラクルの製品やサービスを前提にはしないという。クラウド・エンタープライズ・アーキテクトはインサイトの提案を受けて、より詳細な実装方法などを検討する。

 両組織とも「要員は10人以上」(竹爪執行役員)といい、拡大しているもようだ。販売パートナーが提供するサービスとの関係については「実装までは手掛けないので競合にはならない」(同)と話す。

 無償のコンサルティングサービスに加えて、日本オラクルが用意するクラウド移行の切り札が「Oracle Cloud at Customer」だ。顧客やパートナーのデータセンター(DC)内にクラウド専用のハードウエアを設置し、そこからオラクルのPaaSやIaaSを利用する形態のクラウドサービスを指す。

 従量課金制を採用し、オラクルがリモートで運用する。処理能力の拡張範囲は専用機の能力によって上限があるが、それ以外は通常のクラウドサービスと同じメリットを受けられる。

パートナーは様子見から脱せず

 オラクルが日米ともに急ピッチでクラウドシフトを進めるなか、様子見の姿勢を続けるのがOracle DBなどを販売する日本のパートナー企業だ。

 日本オラクルは「パートナー企業とも話し合ってクラウドシフトを推進している」と言うが、現状ではオラクルのPaaSやIaaSの販売に積極的なパートナーは多くないとみられる。

 オラクルのパブリッククラウドの販売に積極的な1社が富士通だ。2017年4月から、同社のDCを通じてオラクルのパブリッククラウドの提供を始めた。同時に富士通のクラウドサービス「FUJITSU Cloud Service K5」のメニューの1つとして、オラクルのDBサービス「Oracle Database Cloud Service」を選べるようにした。富士通の宮沢健太MetaArc戦略統括部長は「立ち上がりは予想より緩やかだったが、順調に顧客を獲得できている」と話す。

 現時点で日本にあるオラクルのパブリッククラウドのDCは富士通が提供している拠点だけ。オラクルが設置したDCはない。日本オラクルは「富士通のDCを借りて提供している」という見解だが、富士通と競合するパートナーや富士通と取引のないユーザー企業にとっては使いにくいのが実情だ。

図 日本オラクルと日本のユーザー企業、国内のパートナー企業にとっての課題
米オラクルのクラウドシフトにどう対応するか
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多様な選択肢を提供するのが強み

 日本のユーザー企業にとって、オラクルのPaaSやIaaSは有力な選択肢になり得るか。AWSの導入などを手掛けているノーチラス・テクノロジーズはこの数カ月で、オラクルのクラウドを基幹系で活用できるかを検証するベンチマークテストを実施してきた。同社の神林飛志会長は結果について「十分に利用できるレベル」と評価する。

 「PaaSはOracle DBが使え、IaaSは仮想マシンを搭載しないベアメタルのサービスがある。基幹系に限れば日本企業の要求を十分満たすと思う。日本企業にとっては基幹系を載せられるクラウドの選択肢が増えたと考えていいのではないか」と神林会長はみる。

 一方でライセンス費用の値上げなど、ユーザーがオラクルに抱く懸念をどう払拭するかも課題だ。「脱オラクル」を検討するユーザーも少なくない。

 これに対し、日本オラクルの石積尚幸副社長は「どのような顧客のクラウド化も支援できる」点を強調する。「米シカゴのDCを利用するのか、富士通が提供する東日本のDCを利用するのか、それともCloud at Customerを使うのか。様々な拠点から同一のサービスを提供しており、顧客に多様な選択肢を用意している」(同)。

「月単位」で課金

 オラクルはクラウドサービスの利便性を高める取り組みを続けている。その1つが2017年9月に米国で発表した「Universal Credits」だ。PaaSやIaaSなどサービスの種類を問わずに適用できる事前購入式のクラウド使用権である。従量課金に比べ料金が割安になるほか、契約を一本化できる、一定額の契約なので予算を作りやすいといったメリットがある。

 発表当初、Universal Creditsの購入単位は「月単位」または「年単位」だった。ユーザー企業は1カ月または1年単位でクラウドの使用量を予測し、それに応じた量の使用権を購入する仕組みだった。しかし1カ月後の2017年10月に、Universal Creditsの購入単位を月単位に限定した。年単位の使用権は顧客にとってムダが生じやすいというのが直接の理由だ。

 同社の営業スタッフに対する意識改革の狙いもある。営業担当者は金額が大きくなる年単位の使用権販売に傾きがちだが、使用権を月単位に限定すれば、顧客の元に通い続けて適切な量の使用権の購入を勧める行動を取らざるを得なくなる。Universal Creditsは「時期は明らかにできないが日本でも導入する」(日本オラクル)という。

 米オラクルは子会社を日本の証券市場に上場させる異例の戦略を採り、日本に根差した会社としてビジネスを成功させた。日本オラクルの株式上場から19年弱。日本にオラクル旋風を再び吹かせるには、クラウドシフトを望みつつためらう日本のユーザー企業を支援する具体策が求められる。

日本企業はクラウド移行に強い意志 直販営業にはシフトしない

日本オラクル CEO フランク・オーバーマイヤー 氏

 日本オラクルのCEOに就任して4カ月でトヨタ自動車やパナソニック、日立製作所、NTTといった大手顧客30社を訪問し、日本のユーザー企業がクラウドへ移行するという強い意志を持っていることを学んだ。日本のユーザー企業が保守的だったり、クラウド移行で他国に出遅れていたりすることは決してない。

 一方で日本企業の多くが、クラウドに移行するためにどのようなステップを踏めばいいのか悩んでいるのも確かだ。日本オラクルやパートナーであるシステムインテグレータは、ユーザー企業の「クラウドジャーニー」を全力で支援し、適切な選択肢を提供しなければならない。

 現在はクラウドを熟知する「クラウドエキスパート」を多く育てようとしている。オラクルが全世界で展開するクラウドエキスパートの養成講座「Class of」を、日本でも展開していく。日本はパートナーによる間接販売が重要なので、当社の社員だけでなくパートナーの社員にもトレーニングを提供し、エキスパートを育てていく。

「顧客を知ろう」と言い続ける

 当社の社員には「顧客を知ろう(ノウ・ユア・カスタマー)」と言い続けている。ユーザー企業のIT投資計画やITインフラの構成だけでなく、ビジネスの現状やIoT(インターネット・オブ・シングス)への意欲などを理解する必要がある。顧客を知るだけにとどまらず、とにかく何度も訪問せよ、と言っている。

 当社の営業担当者は以前は製品ごとに異なっており、顧客が適切な質問相手を考える必要があった。今の営業担当者は当社の製品サービスに関するあらゆる質問に応じられなくてはならない。営業担当者の成績は受注額に加えて、担当者が持つ価値や知識で評価する。自社のサービスだけでなく、AWSやセールスフォース・ドットコムなど競合のサービス、そして顧客のビジネスをどれだけ知っているかが問われる。

 中小企業やスタートアップ企業は「オラクル・デジタル」が開拓する。若い会社やミレニアム世代が多い会社を、新しい営業アプローチやプレゼンテーション手法で獲得する営業組織だ。既存の営業組織からの独立性を維持するため、オフィスのフロアも分けたほどだ。このオフィスに来れば、新しいオラクルを体験できるだろう。

 米国のように直販営業にシフトすることは日本では考えていない。この4カ月で、日本におけるパートナーの重要性を学んだ。日本のパートナーは過去30年間、常にOracle DBの最高クラスのエキスパートだった。同じようにクラウドのエキスパートになってもらいたい。

出典:日経コンピュータ 2017年10月26日号 pp.38-45
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。