AWSとVMwareが手を組み「VMware Cloud on AWS」を開始した。オンプレミス環境をからめて、複数クラウドを使い分ける「マルチクラウド」が現実味を帯びる。クラウドベンダーの最新戦略から、クラウド活用のトレンドを探った。

(森山 徹)

 基幹系システムの取り込みを狙い、AWS(Amazon Web Services)と米VMwareが新たなサービスを投入した。2017年8月に始まった「VMware Cloud on AWS」は、AWSのデータセンターからVMware製品をマネージドサービスとして提供。オンプレミス(自社所有)環境で稼働するVMware製品ベースのシステムをそのままAWSに持ち込めるのが売りだ。

 米Gartnerの調査によれば、IaaS(Infrastructure as a Service)の世界シェア(2016年)はAWSが44.2%を占め、独走を続けている。それでもVMwareと組んだのは、1社ではカバーできない領域があるからだ。背景には、オンプレミス環境を含め、複数のクラウドサービスを使い分ける「マルチクラウド」が現実味を帯びてきたことがある。

 データの重要度によって置き場所を変える、データ分析や人工知能(AI)といった特定用途に強みを持つサービスを使い分ける、ディザスタリカバリー(DR)用途でリスク分散するなど、マルチクラウドのニーズは様々。これまでのクラウド利用を通じてノウハウを蓄積してきたユーザーは、1社のサービスにこだわらず、適材適所を考えるようになっている。

 「選ばれるクラウド」として生き残るため、クラウドベンダーはサービスの強化はもちろん、魅力的な料金プランでユーザーにアピールする。Microsoft Azureは、仮想マシンの可用性を引き上げるなど、エンタープライズ向け機能を強化してきた。米Oracleは2017年9月、クラウドへのライセンス持ち込みや新料金体系などを発表。米Googleのエンタープライズ分野進出も、マルチクラウド活用を盛り上げる。

 マルチクラウドを軸に沸騰するクラウド市場。主要クラウドの最新動向を押さえ、選択指針を探ろう。

オンプレとクラウドの巨人がタッグ

 新たなマルチクラウド戦略を打ち出しているのがVMwareだ。サーバー仮想化製品「VMware vSphere」を旗頭に全世界50万社の導入実績を誇る同社は、自社のパブリッククラウド「VMware vCloud Air」を展開してきた。しかし2017年4月に同事業からの撤退を決断、日本では同サービスの直接提供を2017年3月に終了した。

 このままでは、オンプレミス環境で獲得した顧客が、他社クラウドへの移行を機にVMware製品から離れてしまう。それを防ぐ一手が、他社クラウドでVMware製品を簡単に使えるようにする施策。クラウド最大手AWSとサービス化したのがVMware Cloud on AWSである。VMwareの年次イベント「VMworld 2017 US」で提供開始を発表した(図1)。

図1●AWSからVMware製品をオンデマンド提供する「VMware Cloud on AWS」
出所:VMware
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 AWSにとって、オンプレミス環境のVMwareユーザーを、見込み客リストに加えられるメリットは大きい。AWSへの移行を阻む障壁の一つは、オンプレミス環境で稼働中のシステムを改変する手間にある。VMware Cloud on AWSであれば、仮想マシンのフォーマットを変換することなく、VMware製品で構築したシステムをそのままAWSに移設できる。しかも「(運用管理ツールの)VMware vCenterを使った、オンプレミス環境と同じ運用をAWS上で実現できる」(AWSのアンディ・ジェシーCEO)ので、新たなスキルを身に付ける必要もない。AWSへの移行の障壁は、格段に下がるという。

「VMworld 2017 US」でVMware Cloud on AWSを紹介する、米VMwareのパット・ゲルシンガーCEO(左)、米AWSのアンディ・ジェシーCEO
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VMwareの知識だけで構築できる

 VMware Cloud on AWSのサービス概要を見てみよう。同サービスは、VMwareのクラウド基盤ソフト「VMware Cloud Foundation」をAWS製の物理サーバーに導入し、AWSのデータセンターから提供する。Cloud Foundationは、仮想サーバーのVMware vSphere、仮想ストレージ「VMware VSAN」、仮想ネットワーク「VMware NSX」などで構成。利用者はVMware vCenterで管理する。

 ベータプログラムでVMware Cloud on AWSを検証した野村総合研究所(NRI)クラウドサービス本部 クラウド基盤サービス一部の西岡典生氏は「パブリッククラウドの知識なしに、VMwareの知識だけで環境構築できた」と話す。

 利用者は、物理サーバーの台数をオンデマンドで増減できる。物理サーバー上で稼働させる仮想マシンのスペックや台数は利用者が指定するので、うまくサイジングできれば費用対効果は高まる。

 AWS製の物理サーバーは2CPU/36コア、512Gバイトのメモリー、フラッシュストレージ(キャッシュが3.6Tバイト、容量は10.7Tバイト)を搭載。利用可能なノード数は最低4、最大16である(図2)。

図2●「VMware Cloud on AWS」のサーバースペックと利用料金
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 VMware Cloud on AWSの課金は、物理サーバー単位だ。オンデマンドでの利用は1時間当たり8.3681ドル。長期契約割引があり、1年間が5万1987ドル(オンデマンドに比べた割引率は約30%)、3年間が10万9366ドル(同50%)である。

 オンプレミス環境でVMware製品のライセンスを持っている顧客には「Hybrid Loyalty Program」と呼ぶディスカウントをVMwareが適用。利用している製品によって割引率は異なるが、最大25%が割り引かれる。

 

IBMや富士通もVMwareを拡販

 NRIの西岡氏はVMware Cloud on AWSのユースケースとして「AWSを活用したVMware環境のグローバル展開、DR対策、一時的なコンピュータリソースの調達、老朽化したデータセンターの移行」などを見据えている。

 こうしたニーズに応えるべく、AWSをはじめとするクラウドやオンプレミス環境に、vSphereやVSAN、NSXを広く行き渡らせるのがVMwareのマルチクラウド戦略だ。米IBMとは2016年2月の提携に基づき、IBMクラウドでVMware製品を簡単に配備できる「IBM Cloud for VMware Solutions」を提供中。2017年9月には、世界で1400社以上が採用していると発表した。

 VMware Cloud Foundationのクラウドへの拡販に向けて、2017年9月にパートナー制度を強化。従来のパートナープログラム「vCloud Air Network」を「VMware Cloud Provider」に名称変更。VMware Cloud Foundationのフレームワークを採用したパートナーを「VMware Cloud Verified」で認定する(写真1)。

写真1●「VMware Cloud Verified」認定でVMware製品をクラウドに拡販
出所:VMware
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 最初の認定パートナーとして米CenturyLink、富士通、IBM、仏OVH、米Rackspaceの5社を発表。富士通は、2017年度第4四半期(2018年1~3月)から、同社のクラウドサービス「FUJITSU Cloud Service K5」上で、VMware Cloud Foundationの提供を始めると2017年8月末に発表した。

ハイブリッド運用が高度に

 オンプレミス環境のインフラ整備では、個別にソフトウエアを導入する従来型に加え、仮想化ソフトや管理ツールをあらかじめサーバーに導入したアプライアンス「HCI(Hyper Converged Infrastructure)」を選択するユーザーが増えている。HCIは、手早くインフラを用意できるし、拡張も容易だ。

 vSphereやVSANをあらかじめ導入したVMware製品ベースのHCI製品は、米DELL EMCの「Dell EMC VxRail」や中国Lenovoの「Converged HX Series」などがある。VMworld 2017 USではこれらに加えて、米Hitachi Data Systemsや富士通、台湾Quanta Cloud Technologyの製品が発表された。

 オンプレミス環境とクラウドに同じソフトウエアスタックを配置すれば、両環境を適所で使い分けるハイブリッドクラウドが実現できる。こうしたハイブリッドクラウドは、米MicrosoftやOracleなども充実を図る(図3)。

図3●ハイブリッドクラウドを推進するIT ベンダーの例
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 Microsoftは2017年7月、Microsoft Azureのサービスをオンプレミス環境で利用可能にする「Azure Stack」の受注開始を発表した。Azure Stackは、 Microsoft Azureと同様のソフトウエアをサーバーにあらかじめ組み込み、Dell EMC、米HPE、Lenovoなどハードウエアパートナーが販売する。ソフトウエアはMicrosoftと契約を結び、従量課金で利用できる。

 IaaSを構成する仮想マシンやネットワーク、ストレージなどは出荷時に組み込み済み。PaaS(Platform as a Service)については、ユーザーが必要なサービスを選択してIaaSに導入する形態をとる。アプリケーション実行基盤「Azure App Service」やイベント駆動型コード実行「Azure Functions」、コンテナ管理「Azure Container Service」などを用意する。

 Microsoft AzureとAzure Stackの併用により、オンプレミス環境とクラウドのどちらで実行するかを意識せずにアプリを開発し、最後にデプロイ先を決めるといった運用スタイルが可能になる。

低コストを訴求するOracle

 Oracleは、10月に開催した年次イベント「Oracle OpenWorld 2017」で、自社クラウドへの移行促進策を前面に打ち出した。ライセンスや利用料金の優遇など、コストの低さを訴求しているのが特徴といえる。

 その一つが、オンプレミス環境でユーザーが所有するミドルウエアライセンスをクラウドに持ち込み可能にする「Bring Your Own License(BYOL)」の拡充だ。これまでも「Oracle IaaS」への持ち込みは可能だったが、移行先に「Oracle PaaS」を選べるようにした。BYOLを利用してPaaSへ移行することで、運用コストを大幅に下げられるという。対象製品は、「Oracle Database」のほか、「Oracle Exadata Database Machine」「Oracle WebLogic Server」「Oracle SOA Suite」など多岐にわたる。

 一つの契約で、IaaSやPaaSのサービスを自由に選択可能にする「Monthly Universal Credits」は、クラウドサービスの使い勝手を高める新料金プランだ。サービスの組み換えは自由で、選んだサービスについて時間単位で利用料金が計算され、前払いしたクレジットプールから差し引かれる。これまでの従量課金制「Pay As You Go(PAYG)」に比べて月額利用料の割引が大きくなる。ユースケースとしては、人事、給与、分析処理など、予測可能なワークロードや長時間実行されるアプリケーションを想定している。

顧客データセンターにクラウド

 Oracleがクラウドと呼ぶサービスには、二つの提供形態がある。一つは、データセンターからサービスを提供する、いわゆるパブリッククラウド。IaaSとPaaSから成る「Oracle Cloud」は、国内では2017年3月に富士通のデータセンターからサービスを提供開始した。

 もう一つの「Cloud at Customer」は、Oracle Cloudと同じ仕様のクラウド環境を顧客のデータセンター内に構築する。MicrosoftのAzure StackやIBMの「Bluemix Local System」と設置形態は同じだが、ソフトウエアの保守などをネットワーク経由でOracleが行う点が異なる。

 料金はOracle Cloudと同じく従量課金型。システムやデータを社外に出したくないと考えるユーザーを顧客のデータセンター持ち込んだCloud at Customerへ移行させるのがOracleの狙い。Oracle CloudとCloud at Customerを併用すれば、ハイブリッドクラウドも運用できる。

 クラウド移行の促進に向けて、同社は大規模ユーザーのクラウド移行を支援するITアーキテクトの育成を加速している。「Oracle製品の利用状況を把握したうえで、開発環境だけをクラウドに移すのか、Cloud at Customerがフィットするのか、あるいはSaaSに移行したほうがいいのかなど、クラウドアーキテクチャーをアドバイスする」(日本オラクル クラウドソリューション営業統括の竹爪慎治氏)。

アプリ視点でセキュリティ対策

 マルチクラウド時代の到来をにらみ、複数のクラウドを一元的に監視、管理するサービスも増えている。一例が、VMwareがVMworld 2017 USで発表した「VMware Cloud Services」だ。各種管理機能をSaaS(Software as a Service)として提供するもので、オンプレミスで稼働するVMware環境や、AWSやAzureといったパブリッククラウドをまとめて管理できる(表1)。

表1●VMware Cloud Servicesの概要
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 注目したいのは、マルチクラウドでのセキュリティ確保に注力している点だ。ネットワーク仮想化ソフトVMware NSXのクラウド版である「NSX Cloud」は、オンプレミスとクラウドを問わず、アプリケーションに対しネットワーク接続とセキュリティポリシーを一元的に適用できる。

 VMwareはそのほか、仮想化環境やクラウドで稼働するアプリ向けの新セキュリティ製品「VMware AppDefense」の提供も開始した。「攻撃者の不正操作を見張るのではなく、アプリが本来の稼働状態(Intended State)にあるかどうかを監視する」(VMware セキュリティ製品担当シニア バイスプレジデントのトム・コーン氏)。本来の稼働状態と実際の稼働状況のかい離を検知すると、アラートを出す。VMware NSXにネットワーク設定の変更を指示し、攻撃をブロックするような対策も可能だ。

 マルチクラウドの活用が進めば、アプリの稼働場所が移り変わる可能性がある。そのとき、従来と同じセキュリティポリシーをいかに適用できるかが課題になる。インフラではなくアプリに着目した、運用管理機能のマルチクラウド対応が今後も進みそうだ。

クラウド選択の定石は「A+1」

 マルチクラウドといっても、やみくもにサービスを併用するわけではない。現状のベンダー動向を踏まえると、「A+1」と呼ぶべき活用法が見えてくる。「A」は、AWSまたはAzureを指す。どちらかのクラウドをベースに使い、必要に応じて他のクラウドをプラスするのが、A+1の考え方だ。

 広範なIaaSとPaaSを提供する、AWSとAzureの拡張路線は似ている。サービスの充実と合わせて、企業システムで求められる信頼性や可用性、セキュリティなども向上させてきた。さらにここにきて、AWSを追い上げるAzureが積極性を増している。9月に開催した開発向けイベント「Microsoft Ignite 2017」では、「Availability Zones」や「Reserved VM Instances」といったAWS相当のサービスを次々と発表。AWS後追いの姿勢を明確に示した(図4)。

図4●Microsoft Ignite 2017でAzureに加わった「AWS相当サービス」
仮想マシンだけでなくデータベースサービス(RDS)などでも利用可能
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 AWSとAzureは、一方が先行して新サービスを出しても、いずれは他方がキャッチアップしてくる。どちらか1つを選ぶことはあっても、両者を併用する理由はそう多くはないだろう。プラス1の候補は、AWSやAzureにはない、あるいはAWSやAzureよりも優れたサービスを持っているクラウドだ。Googleのデータウエアハウス「BigQuery」や、IBMのAIサービス「Watson」などが一例である。

 実際、AWSとGoogleを組み合わせて利用するのが富士ゼロックスだ。従来はAWS一本で開発してきたが、開発者のニーズに押される形で、GCP(Google Cloud Platform)の利用環境を整え、併用できるようにした。

 同社がGCPの採用に踏み切ったのは、約500人の開発者への社内アンケートの結果が大きい。「自分のプロジェクトで利用してみたいクラウドは何か」を尋ねたところ、得票率40%を集めたAWSに続いて同27%でGCPが続いた。オンプレミス環境に分析基盤を持つ部署からは「GoogleならGPUサービスが安く使えそう」、モバイルアプリの国外展開を検討する部署からは「ロードバランサーをグローバルで持っているGCPが向いているのでは」といった声が寄せられたという。

Googleがエンタープライズシフト

 ここ数年、エンタープライズ分野への傾注を強めるのがGoogleだ。VMwareの共同創立者兼CEOだったダイアン・グリーン氏を2015年にクラウド事業のトップに迎え、潮目が大きく変わった。

 2016年にはGCPの東京リージョンをスタート。2017年7月に開催したイベント「Google Cloud Next'17 in Tokyo」では、グリーン氏が日本市場の好調ぶりをアピール。NTTコミュニケーションズやKDDI、ソフトバンクとの業務提携を矢継ぎ早に発表し、エンタープライズに注力する姿勢を改めて示した。

 これまでGoogle Cloudの利用は、開発者が多くを占めた。セキュリティや機械学習、AI、データ分析といった領域でイノベーションを起こすのが、Googleのミッションだったといえる。こうしたテクノロジーリーダーの立場だったGoogleが、エンタープライズ領域に注力し始めたわけだ。最新テクノロジーを使いやすく提供されれば、先行するAWSやAzureも安穏としてはいられなくなる。

 Google Cloudに精通したパートナーの輪を広げる動きも出てきている。例えばKDDIは、データ分析をターゲットにGoogleとの協業を深める。BigQueryや画像コンテンツ分析の「Google Cloud Vision API」といったGCP上のデータ分析関連サービスを活用する。

 コンテナ活用で先行しているのも、Googleの注目点だ。GCPは、Dockerコンテナ管理ツール「Kubernetes」を利用する「Google Container Engine(GKE)」をマネージドサービスとして提供している。

 米Pivotal SoftwareとVMwareは2017年8月に、GKEと互換性があるコンテナ管理ツール「Pivotal Container Services(PKS)」を発表した(写真2)。PKSは、PivotalとGoogle Cloudのエンジニアが3月に始めたオープンソースソフト開発プロジェクト「Kubo」の商用版という位置付け。PKSとGKEの間では、コンテナアプリのポータビリティが提供される。

写真2●コンテナ管理ツール「Pivotal Container Services(PKS)」が登場
「VMworld 2017 US」で協業について語る、米VMwareのパット・ゲルシンガーCEO、Pivotal Software のロブ・ミーCEO、Google Cloud Platformのサム・ラジャイ氏、Dell Technologiesのマイケル・デルCEO(左から)
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 クラウドベンダーのマルチクラウド戦略の王道は、デファクトを握った製品・技術を場所を問わずに広め、相互運用できるようにすること。MicrosoftやOracle、VMwareなどは、いずれもこの戦略に沿っている。利用する側にとっては、選択の幅が確実に広がる。各社の戦略を見極め、活用を進めていく必要がある。

データで見るクラウドの今

 クラウドサービスの利用はどれぐらい増えているのか。どのベンダーのサービスが使われているのか。調査会社のレポートを基に、クラウド市場の現状を見ていこう。

グローバルIaaS市場は31%拡大

 まず、IaaSの利用動向だ。米Gartnerが2017年9月に発表した調査によれば、2016年のグロバールのIaaS市場は221億ドル(1ドル=110円換算で、2兆4310億円)。2015年の168億ドル(同1兆8480億円)に比べて、31%拡大した(図A)。

図A●IaaSのシェア(2016年)はAWSが44.2%で圧倒
出所:Gart ner(2017年9月)
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 同社のリサーチディレクターは、「クラウドサービスの市場は、他のどのIT市場よりも急速に成長している。成長の多くは、従来型のクラウドではないサービスから奪ったもの」と分析。「IaaSへの需要は引き続き強く、IaaSの高成長がPaaSやSaaSの需要をけん引している。IaaSは今後5年間で最速の成長が見込まれる」と、活況が続くとする。

 クラウドベンダーごとのシェアを見ると、AWS(Amazon Web Services)が44.2%を獲得し他を圧倒。2015年の39.8%から4.4ポイント伸ばした。「Amazonは、クラウドネイティブのスタートアップから、従来型アプリをそのままクラウドへ移行したい中堅企業、クラウド型へ変革したいエンタープライズ企業まで、幅広いユースケースを持って最も多くの顧客にサービスを提供することで、この地位を得た」。リサーチディレクターはこう分析する。

 IaaS市場シェアの第2位はMicrosoft。7.1%のシェアを獲得し、2015年に比べて61%伸びた。リサーチディレクターは「Microsoftは、IaaS機能の開発、および手堅い販売とマーケティングを通じて、IaaSプロバイダーとしての地位を固めた」と評価する。

 3位はAlibabaで、2016年の成長率は127%。現在のボリュームリーダーで、中国のクラウドサービス市場で支配的な地位にあることを反映した結果だという。

 全体で見ると、「AWSは2016年の市場を独占、Microsoft Azureは勢いを増している。Googleは着実に利益を上げた」と総括できる。Gartnerによれば、IaaS市場は「ハイパースケールクラウドビッグ3」と呼ぶこれら3社の成長が顕著だ。今後は「競争圧力が高まるなかで、ハイパースケール以外のクラウドベンダーがサービスを通じて価値を提供してくる。Amazonはシェアの成長減退に直面するだろう」と予想する。

ランク下位からシェアを吸い上げ

 IaaSとPaaSを合わせた市場シェア争いはどうか。

 米Synergy Research Groupは2017年7月、IaaSとPaaSおよびホスティング型プライベートクラウドについて、第2四半期の市場シェア調査結果を発表した。市場の概観として「4大クラウドプロバイダーは全て、世界的なクラウドインフラストラクチャサービス市場のシェアを維持または拡大し続けている」と分析している。4大クラウドプロバイダーとは、AWS、Microsoft、IBM、Googleである。

 市場シェアはぞれぞれ、AWSが34%、Microsoftが11%、IBMが8%、Googleが5%だ(図B)。先のGartnerのIaaSシェアと単純比較すると、トップのAWSとそれ以下のプレイヤーの差は小さい。

図B●IaaS+PaaSのシェア(2017年第2四半期)はMicrosoftが伸びる
出所:Synergy Reserch Group
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 Synergy Research Groupによれば、MicrosoftとGoogleは、2016年第2四半期以降、四半期の売上高をほぼ倍増させており、両社ともに市場シェアを大幅に拡大している。直近4四半期の市場シェアの増加率を見ても、Microsoftがプラス3%と、最も伸びが大きい。「IBMは主にホスティング型プライベートクラウドサービスが好調だったことから、市場シェア8%を維持した」と分析する。

 4大クラウドに続く「Next 10」カテゴリーには、Alibabaや富士通、NTTやOracleなどの名前がある。Next 10クラウドプロバイダーのうち、AlibabaとOracleは最も高い成長率を達成している。

 首位のAWSもシェアを拡大している。Synergy Research Groupによれば、「継続的に見られる最近の傾向は、ランクが下位の規模のクラウドプロバイダーが、市場リーダーにシェアを譲っている」という。ハイパースケールのクラウドベンダーがシェアを拡大する流れは、今後も続くとする。

国内シェア1位もAWS

 国内市場に目を転じても、AWSとAzureの強さが目立つ。

 MM総研が2016年12月に発表した調査結果によると、国内のクラウドサービス(パブリックおよびプライベートクラウド)の市場規模は、2015年度が前年度比33.7%増の1兆108億円。市場は2020年度まで年平均27.4%で成長し、2020年度には3兆3882億円に拡大すると予測している。

 同調査において、パブリッククラウド(PaaS/IaaS)の市場シェア1位はAWSで34.1%。以下、Microsoft Azureが20.2%、Google Cloud Platformが10.8%、Fujitsu Cloud IaaS/PaaSが10.3%、さくらのクラウド(さくらインターネット)が9.0%、ニフティクラウドが8.1%の順で続く。MM総研は「今後も上位2社において、顧客獲得競争が一層激化することが予想される。国内ベンダーでは富士通が健闘している」と分析している。

 クラウドの利用動向で注目したいのが、次世代を担う技術である。その一つがDockerに代表されるコンテナ技術だ。IDC Japanが2017年5月に発表した調査結果によれば、国内でDockerコンテナを利用していると答えた企業は19%に上る(図C)。

図C●国内でもDockerコンテナの利用が増加(IDC Japan調査)
出所:IDC Japan
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 内訳は、「本番環境で使用している」企業は6.0%で、2016年の調査結果3.7%から2.3ポイント増えた。「開発/テスト/検証段階」の企業は13.1%で、2016年調査の5.2%から7.9ポイント増えた。「計画/検討段階から具体的な実装段階に入った企業が増加している」(IDC Japan)。Dockerを使用している企業の34.8%が管理にKubernetesを使用しており、主流になりつつあるという。

出典:日経SYSTEMS 2017年11月号 pp.38-45
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。