利用者にとって最大のストレスの原因であるケーブルをなくす方向へと業界各社は進む。最大手オキュラスVRの動きに触発され、様々な企業が要素技術の開発の実用化を急ぐ。VRの家庭への普及に立ちふさがるハードルを下げられるか。

 今回はVR(仮想現実)のヘッド・マウント・ディスプレー(HMD)に焦点を当てて、主要なメーカーや新興企業各社の動きを基に進化の方向性を探っていく。現在のVR用HMDはPCに接続して高精細な映像のコンテンツを利用できるハイエンド型と、スマートフォンを装着して場所を問わず利用できるモバイル型に分かれる。前者は米オキュラスVRの「Oculus Rift」、後者は韓国サムスン電子の「Gear VR」が、それぞれ代表例だ。

 オキュラスVRがOculus Riftを発売したのは2016年3月。以降、台湾のHTC(宏達国際電子)やソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)が相次いでハイエンド型のHMDを発売した。最初のOculus Riftの発売から1年半以上が経つが、各社は次の世代となるHMDを発売していない。VR自体も業界関係者の期待ほどには普及していないのが実情だ。

使いにくさが普及のハードル

 VRの普及が期待より緩やかな理由を業界関係者に聞くと、HMDが高価で設定が難しいことと魅力的なコンテンツが不足していることの2つを、主な理由に挙げる人が多い。筆者自身はコンテンツよりも、HMDがより使いやすくなり、価格が下がらないと本格的な市場拡大は難しいと考えている。

 VRの利用体験を大きく損ねているのは、PCや位置捕捉センサーとHMDを接続するために必要な複数のケーブルだろう。HTCの「Vive」やOculus Riftを最初から設定した経験があれば、ケーブルがいかに煩わしいか分かるのではないか。位置捕捉センサーの設置やケーブルの長さを考えたPCの配置などは非常に面倒だ。スマホを持ち歩くのに慣れた利用者にとっては、VRのゲームをプレーしている最中に移動できる範囲をケーブルに制限されるのももどかしい。

一体型がトレンドに

 ストレスのない使い勝手を実現するため、主要なHMDメーカーもスタートアップも技術開発にしのぎを削っている。各社の取り組みから見えてくる進化の方向性は「一体型」だ。英語ではAll-in-oneやStandaloneなどと呼ぶ。外付けの位置捕捉センサーやPCなどに接続するケーブルが不要になり、スマホを取り付ける必要もなくなる。HMDだけでVRを体験できる、シンプルな利用形態だ。現在のHMDが利用者に与えるストレスをなくし、より快適に使えるようにするための形態と言える。

 一体型HMDを実現するポイントは大きく2つある。1つは位置捕捉センサーを外付けではなくHMDに内蔵すること。もう1つはPCやゲーム機と接続するケーブルをなくすことだ。

 ケーブルをなくすコードレス化は技術的なハードルが高い。現時点のHMDは高品質な映像を投影するための十分な処理性能を持たない。3次元(3D)映像のレンダリングをはじめとする画像処理はPCやゲーム機が担い、HMDは結果の映像を投影するという役割分担をしている。

 性能の問題を解決するには画像処理をPC側で実行する方式を維持しつつHMDに無線でデータを転送するか、あるいは画像処理をHMD側で実施するかのどちらかしかない。

 最初に動きを明らかにしたのはオキュラスVRだ。2016年10月に開いた開発者向けイベント「Oculus Connect 3」で「Project Santa Cruz」と呼ぶ開発計画を公表。一体型のHMDを開発していることを明らかにした。今のところ同社はビデオによるデモしか公表していないため詳細は不明だが、映像を見る限りは利用者が動く方向に連動した位置捕捉を可能にしている。ケーブルは付いておらず、HMDの中で画像を処理しているようだ。同社は2017年10月に開催した「Oculus Connect 4」で、このHMDを2018年に開発者向けに出荷すると明らかにした。

2016年10月に開催された「Oculus Connect 3」で発表されたProject Santa Cruz
(出所:米オキュラスVR)
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