グローバル市場の攻略は、国内企業にとって大きなテーマである。言語や商習慣の違い、時差など多くのハードルがある。2017年12月12日と13日に開催された、ネット事業推進企業のCTO(最高技術責任者)向けイベント「IVS CTO Night & Day 2017 Winter powered by AWS」では、グローバル市場を狙う企業にとって興味深いやり取りが交わされた。

 「CTO Night」は、アマゾン ウェブ サービス ジャパンが主体となって開催しているシリーズイベントで、国内のCTOのスキル向上と交流を深めることなどを目的としている。インフィニティ・ベンチャーズおよびWiLとの共催となる今回のイベントでは、初めての試みとしてサンフランシスコ周辺に拠点を置くスタートアップ企業3社の経営トップを招き、経営者が直面する諸課題について意見を交わすことになった。「現地一線のスタートアップ流の考え方を共有してもらいたい」というのが、主催者の狙いだ。

写真 IVS CTO Night & Day 2017 Winter powered by AWSの様子
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 同イベントに登壇したのは、いずれも企業向けのソフトウエア開発支援サービスやツールを提供する3社のトップで、米Algoliaの共同創業者でありCTOを務めるJulien Lemoine氏、米CircleCI CEO(最高経営責任者)のJim Rose氏、米LaunchDarkly CEOのEdith Harbaugh氏である。Algoliaはサイト内検索のSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)、CircleCIはCI(継続的インテグレーション)ツール、LaunchDarklyは機能管理プラットフォームをそれぞれ提供する。

 3氏のディスカッションは、元楽天取締役の安武弘晃氏(現、カーディナル合同会社 代表社員)が進行し、製品開発のプロセス、経営者の役割、チームづくりなど多岐にわたる話題を取り上げた。中でも興味深かったのが海外展開に対する3氏の考え方だ。

 例えば、「国内市場」と「国外市場」の区別や進出のタイミングについて。日本では一般的に、国内市場で実績を積み、地位を堅めてから、米国やアジアをはじめとする国外市場を目指すことが多い。

 これに対して、英語圏でサービスを始めた企業の考え方を明確に示したのがLaunchDarklyのHarbaugh氏。同氏は「意図してグローバル企業になったわけではない」という。小さなスタートアップ企業としては、多言語化など製品の現地対応には限界があるという主旨だ。しかし、製品の価値について英語で記事を書いたり、公の場を使って発言するなどしているうちに米国外からも引き合いが増えていったという。特にオーストラリアでは、強力な推進者がネット上にいて、口コミで広がった経緯を紹介した。

 もともとフランスのパリで創業したAlgoliaの考えは、日本企業に近いものだ。「国際企業としてみてもらいたかったので、早い段階で英語圏にアプローチした」(同社のLemoine氏)。社名もグローバル市場を意識して命名した。「どの言語でも共通の発音となる『golia』を社名に入れることにした」(同)。結果的に、フランスのユーザーは全体の10%だけ、それ以外はフランス国外という。

 売り上げの35~40%が米国外市場というCircleCIのRose氏は、ネット上のツールを使うことで国外の顧客を「結果的に」つかむことになったという。「そもそも我々が顧客について分かるのは、GitHubのIDだけ。それが誰で、どこにいるのか知ることはない」。

 同社は現在、製品のローカライズに取り組んでいるが、社員の現地採用においては同社の課題解決方法が役に立っているという。「当社は、お客さんと一緒に課題を解決するようにしている。意図したわけではないが、その作業を繰り返すうちに製品に精通し、社員になった人もいる」という。

 言語の壁については、今回登壇した3社がいずれも開発者向けのツールを扱うこともあり、「技術を扱っていると、英語がデフォルトになる」と障壁は比較的低いと考えている。しかしLemoine氏は「フランスやドイツなど大手企業には、英語を理解しない人が多い」と言い、こうした国では現地採用を進めているとした。

 日本市場や開発者コミュニティについては、一様に評価する声が並んだ。「最先端技術を理解しているので、市場参入しやすかった」「開発者コミュニティが強力で活発」(Rose氏)、「今回の来日で、今後の投資対象だと考えるようになった。日本国内の活動や製品を日本以外の国にも紹介していきたい」(Lemoine氏)といった具合だ。

 イベントを通じて日本企業のCTOらとやりとりしたというLaunchDarklyのHarbaugh氏は、「彼らは創造性があって頭がいい。言葉は違っても課題は共通だと感じた」とし、登壇者としても交流を楽しんだ様子だった。