データが世界中を流れる新しい時代。ルールのあるべき姿とは何か。プライバシー技術の国際標準化の動きに詳しく、米OpenID Foundation理事長などを務める野村総合研究所上席研究員の崎村夏彦氏は「ガバナンスの刷新」が必要だと主張する。イノベーションを阻害せずにセキュリティやプライバシーを確保しようとする米国のID戦略など、日本が政府のみならず企業も含めて着手すべき課題を挙げてもらった。

(聞き手は、大豆生田 崇志=日経情報ストラテジー


崎村さんは「ビッグデータ」よりも、サイバー空間上のアイデンティティとプライバシー技術の国際標準を作る方が世の中へのインパクトが大きいと指摘しています。

OpenID Foundation理事長の崎村夏彦氏
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 ビッグデータも、どんどんやればいいと思っています。ただし、いろいろなところで個人として発言しているのですが、ブレーキを付けないで走れるのは三輪車くらいです。F1カーが速く走れるのは強力なブレーキが付いているからであり、スピードを出すためには、まず、しっかりした「ブレーキ」となるルールを作らなければなりません。

すると現在、求められていることは何でしょうか。

 サイバー空間の出現に応じたガバナンスの刷新です。米国など各国はサイバー空間を特定の領域を持つ「第8の大陸」として認識し、戦略を打ち出しています。ところが日本では、サイバー空間を単なる「ツール」としてしか見ていません。高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)が2010年に打ち出した「新たな情報通信技術戦略」を見ても、情報通信技術はツールとだけ認識されています。ビッグデータについても最近の話のほとんどは、ツールとして使いこなしましょうと言っているだけです。

 金融業界では1980年代の終わりごろ、高度な数学的手法や数理モデルを使った市場分析で、投資戦略や金融商品の開発や運用をする「クオンツ」と呼ばれる人たちが登場しました。

 私も以前はクオンツとして、計算するのに1ヵ月はかかる当時としては巨大なデータを扱う仕事をしていました。しかし、クオンツによる先進的な金融テクノロジーを売り物にしていた有力クオンツ・ファンドの多くは、サブプライムローン問題やリーマン・ショックで多額の損失を出して姿を消していきました。いまのビッグデータは、あのころのハイプ(誇大広告)に似ています。データをいっぱい集めたら何か起きるのではないかというのは、そういった過去を知らない人のファンタジーです。

 重要なのはデータから仮説を引き出し、それをもとにきちんとした理論モデルを作って検証するというアプローチです。そうしないと、局所的な場面に過剰適応してしまい、しっぺ返しを食います。米国で意味があると考えられているビッグデータは、センサーデバイスからのデータをリアルタイムで処理したり、統計的に意味のある分析が可能になるだけの膨大なサンプル数を新たに取得できるようになった分野の話が中心です。日本でビッグデータとして騒がれている個人情報を使ったマーケティングは、昔ながらのデータベースマーケティングの延長線上にすぎません。

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