ソフトバンクによる米スプリント・ネクステル(以下スプリント)の買収は2012年10月15日、両社が合意したことでほぼ現実のものとなった。既に、買収の背景にある市場シェアや資金繰りなどは多く報じられている通りだ。本記事では、今回の買収協議に至った背景や、この買収交渉の見方について、7つの観点から整理してみたい。

(1)スプリントにとっては、ウェルカム

 スプリントは、数年来事業不振に陥っていたが、加入者数やARPUの回復基調が見られ、昨年より最悪期を脱しつつあるように見える。財務面では黒字体質になり切れていないものの、昨今の株価推移にも現れている(関連ページ)。

 一方で、スプリントは米国における携帯電話事業者として売上高は3位とはいえ、上位“2強”(米ベライゾン・ワイヤレス、米AT&T)との差は大きく、容易には埋まらない。加入者数やARPUなど、直接的な経営数値だけでなく、ネットワーク品質の評判やブランド力でも、スプリントは2強の後塵を拝している。その意味では、いまのスプリントは、ソフトバンクに買収された頃のボーダフォン・ジャパンと似ているかもしれない。

 さらに、現在米国4位の携帯電話事業者であるTモバイルUSAは、5位のメトロPCSコミュニケーションズ(以下メトロPCS)との合併に動いており、これが成功すれば、スプリント自身が米国内で買収する(もしくは、される)選択肢は、合併後のTモバイルUSAのみとなる。というのは、AT&TによるTモバイルUSAの買収が米規制当局からストップをかけられたためだ(関連記事1関連記事2)。“2強”がさらに強くなるような買収は当面否定されると見てよい。

 その意味では、当時“負け組”とされていたボーダフォン・ジャパンを買収し、2兆円の負債を抱えながら立て直したソフトバンクの孫正義社長の手腕に対する期待感をスプリント側が抱いても、まったく不思議ではない。

 また、米国の規制当局も、外資による買収を審査するプロセスにおいて好意的に判断する可能性はあるだろう。買収によりスプリントの財務改善が期待されれば、事業者数が減るリスクを下げることができるし、また世界的にはモバイル先進市場である日本のノウハウが米国に移植されることでスプリントの競争力向上が期待できると判断する可能性もあるだろう。

(2)ソフトバンクグループにとっては、成長戦略の一環

 一方、ソフトバンクグループの戦略として今回の買収交渉をとらえたとき、成長戦略の一環であると考えるとかなりしっくり来る。ソフトバンクは自社を単なる通信事業者ではなく「インターネットカンパニー」と表現しており、また「アジアナンバー1に」なるとも決算発表の場などで宣言してきた。実際、中国やインドへの投資を続けてきている。

 しかし、その多くはいわゆる上位レイヤー事業が主体である。一方、ソフトバンクグループとしての売上を支えるのは、国内の通信事業、とくに携帯電話事業であることは厳然たる事実である。アジア地域での投資は、成長戦略に基づく先行投資という印象が強いが、目先の成長を実現するには売上規模の大きな企業を買収するのが手っ取り早い。

 では、なぜ買収先が通信事業者なのかを考えてみたい。スマートフォン時代のICT産業の構造を大きく「上位レイヤー(コンテンツ、アプリ、プラットフォーム等)」「ネットワークレイヤー(通信網)」「端末レイヤー」の3つに分けて考えると、売上規模で言えば、「ネットワークレイヤー」> 「端末レイヤー」> 「上位レイヤー」となる。定期的に現金収入が入ってくる「ネットワークレイヤー」の事業は、顧客基盤をしっかり築くことができれば、事業の長期的な安定を図りやすい。

 その意味では、先進市場として規模も大きく、かついまだ成長を続ける米国通信市場での通信事業者買収は、成長戦略の文脈の中では合理的な選択肢のひとつとなる。

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