日本の電機メーカーが巨額の赤字に沈む中、サムスン電子の勢いが止まらない。2011年12月期の連結売上高は過去最高の165兆ウォン(約11兆5500億円)に達した。営業利益は、液晶テレビなどの価格下落を受けてもなお、16兆2500億ウォン(1兆1375億円)を確保した。

 サムスン電子の好調を象徴するのがスマートフォンだ。2011年10~12月期における主力機種「GALAXY」をはじめとするスマートフォンの販売台数は、前四半期に比べ3割増えた。3500万~3700万台を出荷したとみられ、米アップルとシェアトップの争いを繰り広げている。サムスン電子が2011年に韓国で出荷したスマートフォンとタブレット端末は合計で70種類を超える。アップルがiPhone 4SとiPad 2の2種類を出荷したのとは対照的に、画面サイズや付加機能の異なる製品を1週間に1機種以上のペースで矢継ぎ早に追加している計算だ。

 「新技術が常に創出されるデジタル時代においては、スピードが最も重要であり、新しい市場を開拓し続けなければなりません」。自社のWebサイトでこう宣言するサムスン電子は年内に、日本の家電メーカーが尻込みする有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)を使った大型薄型テレビを、他社に先駆け発売する。

スピードの秘訣はBRMSにあり

 韓国企業の強さの原動力がスピードにあるのは周知の通りだ。そのスピードの秘訣の一つに、ビジネスルール管理システム(BRMS)の活用がある。

 典型例が、サムスングループだ。グローバル経営を支える二つの重要システムで、BRMSという「加速装置」を導入している。二つのシステムとは、サムスン電子の工場などで使う生産系システムと、グループ全体で利用するバックエンドの人事・会計システムだ。
 BRMSがなぜ加速装置となるのか。それは、BRMSを導入すると詳細設計やプログラミング、単体テストの工数をほぼゼロに減らせるからだ(図1)。

図1●ビジネスルール管理システム(BRMS)の有無による開発期間の比較
新規開発とシステム保守の両方で詳細設計とプログラミング、単体テストの工程がほとんど不要になる
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 BRMSは業務ルールを実行するプログラムを自動生成する。人手による詳細設計とプログラミングが不要になり、単体テストの必要はなくなる。業務ルールの可視化も進むため、短縮効果は新規開発だけでなくシステム保守の際にも得ることができる。

 「サムスン電子は全世界にある39カ所の工場で現在、『MES2』と呼ぶ新しい製造実行システムを構築中だ」。サムスン電子のIT戦略に詳しい関係者は、こう明かす。

 MES(製造実行システム)は効率的な在庫や生産・品質管理を行うための情報系システム。生産管理システムと工場の生産設備の制御システムをつなぐためのシステムである。サムスンはこれまで米半導体製造装置大手のアプライドマテリアルズ製のパッケージソフトを使ってMESを構築・運用してきたが、「アーキテクチャーが古く拡張性やセキュリティーに加え、肝となる生産性向上に問題を抱えていた」(関係者)。

 今回、サムスングループのIT企業であるサムスンSDSと共同でMESを刷新。半導体やLEDといった部品素材だけでなく、モバイルや家電といった完成製品の生産にも使う。このMES2の中核にBRMSを導入するというのだ。

 「新製品の設計後、製造プロセスのシステム化をBRMSでこなす。これにより、製造工程の変更スピードが大幅に速まる。その結果、新製品の市場投入スピードが速くなる」と関係者は予測する。主力製品のスマートフォンや有機ELテレビがその恩恵を受けるのは間違いない。

バックオフィス系でも利用

 すでにブラジル工場で、MES2の稼働に向けた業務ルールの入力作業が終わっている。3月からは韓国・光州市の工場でも入力作業を開始。2013年に一部工場で稼働させ、その後数年をかけて全世界に展開していくとみられる。

 人事や経理、総務といったバックオフィス業務を支えるシステムでも、サムスングループはBRMSを使う計画だ。

 具体的には、進出先の法制度の影響を受けるなど、国によって異なる業務ルールをBRMSで実装する。拠点の新設や既存拠点の法制度対応などを迅速にこなすために、システムを内製するわけだ。ただし、世界共通の業務部分については、独SAP製ERP(統合基幹業務システム)パッケージをカスタマイズしないでそのまま使う。2012年の下期にも開発を始めるという。

出典:日経コンピュータ 2012年3月15日号 pp.30-31
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