一言でCRMと言っても指し示す分野は幅広い。SaaSとしては、営業担当者を支援するSFA(営業支援)、コンタクトセンターを支援するCTI(コンピュータ・テレフォニー・インテグレーション)などのサービス、メールマガジンなどによるネットマーケティング支援サービスが代表的である。今回は米セールスフォース・ドットコムの躍進で注目されるSFAを中心に分析する。ネットマーケティング支援サービスは対象外とした。

 「1ユーザー当たり月額1万5000円」。SaaS型で提供されるSFAの月額利用料は、セールスフォース・ドットコムが提供する「Salesforce CRM」の主力プランである「Enterprise Edition」が事実上の“業界上限価格”という位置付けになっている。

 対抗馬の一つであるSAPはこれを3000円上回る月額1万8000円に設定しているものの、他の競合各社の場合、セールスフォース・ドットコムを下回る価格設定が主流である。ライトナウ・テクノロジーズの「RightNow CX」は1万3750円、マイクロソフトの「Dynam-ics CRM」は8000円、日本オラクルの「Oracle CRM On Demand」は7609円という価格で提案している。各社の価格設定には多少の違いはあるものの、セールスフォース・ドットコムの1万5000円を意識しているのは間違いないだろう。

 初期費用についてはケース・バイ・ケースだ。営業活動は事業内容や取引先の業態などによって異なるため、非定型で決まった使い方がないからだ。それでも大まかに言うと、中堅以上の企業がSaaS導入するときには、「1000万円弱のSI費用がかかるのが一般的」(日立ソフトウェアエンジニアリングの山本重樹SaaSビジネス部長)だという。

 SFAはSaaS事業者と契約すれば即使えるというわけではない。現実には各企業の業務に合わせて、企業、顧客、製品・サービスなどの軸でデータを整理し、ユーザーが分析するための利用画面を使いやすいようにカスタマイズしたり、分析するデータのテーブルなどを作成したりしなければならない。

 つまり、標準メニューにある機能やデザインを超えた要求の内容次第で、追加費用が大きく変わることになる。SI費用はSaaS事業者やITサービス企業が人月計算で請求するのが一般的だ。設定にかかる期間も「1カ月で終わる事例もあるが、3カ月から半年かかる事例も少なくない」(山本部長)。

 こうした初期費用を抑えるため、一部のユーザー企業はSaaS事業者が用意する専用ツールを用いて自社で初期設定を行っている。ただし、「データテーブルをどのように作るかなど、項目マッピングの経験のある人でないと難しい」(日本オラクルの藤本寛CRM On Demand統括本部長)とハードルは高い。ほとんどの企業ではITサービス企業に任せることになる点に注意したい。

 SFAでは要件を決めきれない企業が多いという問題がある。そこで生きてくるのがSaaSのメリットを生かしたプロトタイピングだ。標準メニューにある機能をユーザーに紹介しながら、必要な機能と不必要な機能を洗い出し、ユーザーの目の前で具体的な利用イメージを確認しながらプロトタイプを作ることができる。SaaS事業者とユーザー企業の間でそれぞれのイメージにブレが発生しづらいプロトタイピングであれば、ユーザー企業が本当に望む要件を引き出し、より正確な要件定義を作成しやすい。

 プロトタイピングの段階で満足のいく要件を反映させても、運用をしていくうちに修正や改善をしたい部分が出てくることも考えられる。日本オラクルではこうした需要を見込んで、1ユーザー当たり月額2000円で追加開発を継続的に依頼できるオプションサービスを提供している。導入後の要望にも柔軟に対応できるサービスを用意することで、要件を決めきれないユーザー企業の需要にもサービスのすそ野を広げようとしている。

 あまり多くはないが、従来のSFAから乗り換えるというケースもある。その場合はデータ移行の問題が生じる。考慮しなければならないのは、「100人以下の利用者なら顧客マスターと商品マスターをCSVのデータ形式で手動移行できるが、それを超える規模になると手動では難しい」(日立ソフトの山本部長)ことだ。その場合は移行ツールを使ってユーザー自身が作業するか、ITサービス企業に作業を委託する。

表1●SaaS型営業支援の料金
この記事は「日経コンピュータ」2010年2月27日号を転載したものです。表にある情報は雑誌掲載時点のものです。
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