内省には自責思考が不可欠

 内省型リーダーシップでは「すべては自分の責任」という自責思考の下、常に「自分はどう考え、行動すればよいか」を問い続ける。電車が事故で止まって遅刻した場合も自分に責任があるとする。「自分が30分前に着くようにしていれば回避できた」と考えるのだ。実際、こうしたリスクを考慮して常に予定時刻の30分前に到着する習慣を身につけている人もいる。

 自責思考を前提とするリーダーは、組織の現状は「自分の鏡」であると考える。今までの自分の思考や言動が引き起こした結果だと見なすのである。自分の部下が育たないのであれば、部下の能力が低いのではなく「自分が人材育成や権限委譲をしてこなかった結果、こうなった」と考える。

 その上で「他人は変えられないが、自分だったら変えられる。自分を変えれば他人が変わる」との観点で対策を練る。前述の電鉄会社のA社長は部長に対して「そんなに重要なミーティングだったら、君が部下を迎えに行けばいいだろう」と言ったそうだ。部長クラスの人間がわざわざ迎えに行けば、ほとんどの部下はミーティングの重要性を身に染みて理解するだろう。

 部下が育たないと悩んでいるのなら、一定期間良質な教育研修に派遣する方法が考えられる。そのために上司はどのような行動を取るべきか。研修中の人員減や機会損失をカバーするために、人員を一時的に増やしたり単価を上げたりする。あるいは部下の評価軸を増やすのも有効だろう。プロジェクトの実績に加えて、技術面での進歩や新しいアプローチ、若手の育成なども評価軸とすることで自己啓発を促すのである。

 自分自身が勉強している姿を見せるのも効果的だ。筆者のクライアントであるCIO(最高情報責任者)は毎週本を1冊読み、月曜日にブックレポートを部下全員にメールで送っている。

他人を変えることより確実

 他人をコントロールするリーダーシップには限界がある。他人が変わるかどうかは他人次第で不確実であり、その人の自由意志に任せるしかない。

 これに対し、内省型リーダーシップではまず自分を変える。主導権を握るのは自分であり、常に自分の意志で実践できる。その意味では、最も確実な究極のリーダーシップとみなすこともできるだろう。

 内省型リーダーシップは日常生活でも効果がある。自己と他者の思考パターンに対する認識が深まると、家族をはじめとするプライベートな人間関係の改善につながる。「家族は自分の言うことを聞いてくれない」などと嘆く前に、まず自身について振り返ってみてほしい。家族の言葉に真剣に向き合っているだろうか? 「今は忙しい」「仕事で疲れている」などと理由をつけて、これまで耳を傾けてこなかった。こんな覚えはないだろうか。

 自責思考を貫こうとすると、どうしても苦々しい思いをしなければならない。かなりの困難さを伴う。それでも自分が変わることで家庭の平和を取り戻せるのであれば、そのメリットは計り知れない。経営学者ピーター・センゲ氏も著書『最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か』で「仕事の成功と家庭の平和は不可分だ」と述べている。

 最後に、リーダーとしてさらなる成長を目指す読者の皆さんに内省的な問題提起をしたい。「あなたが偉大なリーダーとして、自分の組織や顧客に対してさらに貢献するために、今取りかかるべき自己変革は何だろうか」。

 物事がうまく進まないとき、その理由を組織や制度、あるいは他人のせいにするのは簡単である。しかし、まずは内省型の質問を常に意識してほしい。こうした内省型リーダーシップの姿勢が身につくと、人生に多くのメリットをもたらす自己実現が成し遂げられるのである。

永井 恒男(ながい・つねお)氏
野村総合研究所 コンサルティング事業推進部 イデリアチーム 事業推進責任者 上級コンサルタント
経営コンサルタントとして活動後、2005年に社内ベンチャー制度を活用しエグゼクティブ向けコーチングと戦略コンサルティングを融合した新規事業「イデリア(IDELIA)」を立ち上げる。現在、一部上場企業を中心に40社以上の経営者に対してサービスを提供している。
出典:日経コンピュータ 2008年9月22日号 pp.128-133
記事は執筆時の情報に基づいており、現在では異なる場合があります。

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