好きになる

 プロフェッショナルとして成功するのは大変だと言われる。だが、そうではない。成功するまで続ければいいのだ。私は一時期、ナイキの社外取締役をやっていた。創業者であるフィル・ナイト氏はいつもこう言っていた。「事業を成功させるのは簡単だ。成功するまでやればいいからだ。最後にトライしたときに成功すればそれでいい」。

 私は「あなたが最後まで頑張れる理由は何ですか」と聞いた。そうすると彼は「好きだからだ」と言い、こう続けた。「私はスポーツが好きで、優れたアスリートと一緒に仕事をするのが好きなんだ。だから私はやる。電気会社の社長をやれと言われても、私にはできない。いまだに何で銅線の中を電子が走るのが分からないし、興味もない」。

 やっていることが好きかどうかは重要である。フィルがよく使っていた例はレストランの厨房の話だった。「レストランを開きたいと思ったとしよう。その時、厨房に1日23時間入ってメニューを改善できる人間か、就業時間の8時間で帰りたくなる人間か、よく考えてから決めるとよい。ずっと厨房に居られるくらい料理が好きな人間でなければレストランを始めるべきではない」。

 簡単に成功できることなど何もない。けれども、好きな仕事、好きなことに集中して取り組めば、成功への可能性は大きくなる。

 振り返ると、私もまさにフィルが言ったとおりのことをマッキンゼーで実践していた。最初の数年間はほとんど休みを取らず、週末もなく勉強した。「若くして会社の経営者に助言できるなんて、とても幸せなことだ」。興奮して自分の能力不足を補う努力をいとわなかった。誰しもそういう時期を持つことが必要だと思う。

本記事は日経コンピュータ 2008年3月24日号 創刊700号記念特集「創る」に合わせて、大前氏が寄稿したものです。日経コンピュータ700号には大前氏の寄稿のほか、英ダイソンのジェームズ・ダイソン創業者兼会長、青色発光ダイオードの発明者である中村修二氏、社会生態学者ピーター・ドラッカー夫人で編集者・弁理士・発明家であるドリス・ドラッカー氏のインタビューなどを掲載しています。ぜひご覧下さい。

大前 研一氏 ■大前 研一(おおまえ けんいち)

1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号を、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所を経て、1972年にマッキンゼー・アンド・カンパニー入社。以来ディレクター、日本支社長、アジア太平洋地区会長を務める。現在はビジネス・ブレークスルー大学院大学の学長として教育活動を進めるほか、経営コンサルタントや国家の経済アドバイザーとして提言を続けている。
写真=菅野 勝男

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