IP電話の弱点は,そのしくみと実現技術の特徴に密接に関係している。その特徴とは,「IP化」と「集中化」の二つだ。そこで,IP電話の弱点を押さえるために,二つの特徴を中心にIP電話のしくみをおさらいしておこう(図1-1)。

図1-1●IP電話ネットワークのしくみと構成要素
図1-1●IP電話ネットワークのしくみと構成要素
IP電話ネットワークは電話音声をIPパケットにしてやりとりする。
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IPネットワークをそのまま使う

 まずはIP化からだ。

 IP化とは,IPネットワークをそのまま使って音声をやりとりすること。IP電話の音声パケットは,ほかのアプリケーションのIPパケットと一緒になりながら,IPネットワークの中を通って相手の電話機まで送られていく。

 IP電話機は音声を送るとき,データに変換した音声を短い時間に区切り,RTPヘッダーとUDPヘッダーを付けた上でIPパケットを作る。RTPは,音声や動画など連続したデータを転送するためのプロトコル。UDPは,IPネットワーク経由でデータを転送するだけの単純なプロトコルである。

 Webアクセスやメールの送受信など,アプリケーションの多くは,UDPでなくTCP を使う。TCPは,相手まで確実にデータを送り届けるために,転送中になくなったデータを再送する再送制御などの機能を備える。

 一方のUDPは再送制御などの機能を持たない。迅速に音声を届けなければならないIP電話にとって,時間のかかる再送制御は逆効果。そこでIP電話機は,再送制御のないUDPで音声データを送る。UDPを使うということは,確実にデータをやりとりする機能を持たないIPネットワークをそのまま使うことを意味している。実はこのことが,IP電話の弱点につながる。

 音声パケットを受信したIP電話機は,パケットから音声データを取り出し,前後のパケットのデータとつなぎ合わせて連続した音声に戻す。こうしてIP電話は成り立つ。

 IP電話の構成要素も確認しておこう。IP電話では,IP電話機以外の端末も利用できる。IP電話アダプタ経由でIPネットにつないだ既存の電話機や,IP電話用ソフト(ソフトフォン)をインストールしたパソコンなどがある。

 IP電話と加入電話網の仲立ちをするのがVoIPゲートウエイと呼ぶ装置だ。企業でIP電話システムを構築する場合,拠点ごとにVoIPゲートウエイを設置することが多い。地域の市外局番から始まる電話番号で,各拠点が加入電話からの着信を受けるようにするためだ。

SIPサーバーが欠かせない

 次は集中化だ。IP電話は,電話の音声をパケットにして送るだけでは成り立たない。相手を呼び出したりするしかけも必要になる。集中化とは,この電話をつなぐ処理が少数のSIPサーバーに集まっていることを指す。

 SIPサーバーは,IP電話システムになくてはならない存在である。登録しているIP電話機の電話番号と所在(IPアドレス)の対応表を管理して,電話をかける側のIP電話機の依頼に応じて相手の電話機を呼び出したり,通話が終わったら電話を切ったり,通話の記録を保存したりする(図1-2)。

図1-2●相手を呼び出すためにSIPサーバーが働く
図1-2●相手を呼び出すためにSIPサーバーが働く
従来の電話と同じように電話番号を使って通話するには,電話交換機に相当するSIPサーバーが必要。SIPサーバーは,IP電話機の所在を管理し,呼び出しを仲介する。
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 SIPサーバーを中心に,IP電話で通話が始まるまでの流れを見ていこう。

 IP電話機はSIPサーバーに認識してもらわなければ,電話を利用できない。そこでIP電話機は,まずSIPサーバーに自分の存在を登録する(図1-2の1)。これでIP電話が利用できるようになる。

 ユーザーがIP電話機から電話をかけると,そのIP電話機はSIPサーバーに接続を依頼する(同2)。SIPサーバーは接続依頼に含まれている電話番号を見て,相手の電話機を呼び出す。相手のIP電話機で受話器が上がると,SIPサーバー経由で呼び出しが成功したという情報が発信側のIP電話機に送られる。その後,両側の電話機は通話用の音声パケットを直接やりとりする(同3)。

 SIPサーバーは,呼び出す相手が自分の管理するアドレス対応表にないとき,呼び出し要求をほかの装置に転送する機能も持つ。例えば,IP電話機から加入電話網に発信する場合,呼び出し要求をVoIPゲートウエイに転送する。また,複数のSIPサーバーがあるIP電話システムでは,異なるSIPサーバーに登録するIP電話機を呼び出す場合もある。そのときは,SIPサーバー間で呼び出し要求を転送する。

 SIPサーバーは,従来の内線電話網の交換機(PBX)と同じように,拠点ごとに置くことも可能だが,IPネットワーク経由でアクセスできれば,ほかの拠点にあっても差し支えない。このため,実際には1カ所の拠点にSIPサーバーを置き,それを企業内全体で利用するケースが多い。つまり,処理が集中するわけだ。

 IP電話ではこのように,少数のSIPサーバーが多数の拠点のIP電話機にとって欠かせない役割を果たす。このことがIP電話の弱点につながる。

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