WinHECが終わると,Longhornプロジェクトに奇妙な沈黙がおとずれた。MicrosoftがWinHECを台無しにしたことを思うと,今でも心が痛む。WinHECは,これまでの過ちを克服したLonghornという製品を印象付けるすばらしいパーティになるはずだったのだ。しかしその代わり,Longhornは突然,不確定要素の多い製品となってしまった。プロジェクトの状態はその後も相変わらずだったが,2005年後半には次々とマイルストーンがリリースされ,事態は大きく進展する予定だった。

 そうこうしているうちに,6月,MicrosoftはLonghornでRAW(非圧縮画像)ファイルをサポートすると発表した。しかし,これは後にデマであることが判明した。Windows VistaはRAW形式を全くサポートしていないのだ。その代わり,Microsoftはカメラ開発者がWindows Vista互換のRAWフィルターと変換機能を簡単にリリースできるようにした。

 Microsoftはまた,IE 7の新しいRSS購読機能とRSSプラットフォームおよびデータ保存機能を使って,LonghornでRSSをサポートすることを発表した。これらの機能はすべて,後にWindows XPにも導入されることになって,Windows Vistaのユニークな特徴の1つを,全くユニークなものでなくしてしまうこととなる。

 6月,Microsoftはまた,.NETベースのコマンド・ラインおよびスクリプト環境である「Monad」(開発コード名)の最初のベータをリリースした。Monadは元々,Longhornの機能の一部として計画されていたが,ご想像の通り,Windows XPとWindows Server 2003ユーザーも利用できるようになり,次第にLonghornから削除されてしまった。

謎のプロジェクト「MAX」

 6月後半,Windowsユーザー・エクスペリエンスの大家であるHillel Cooperman氏が,「Project M」という開発コード名の,Microsoftの極秘プロジェクトに参加していることが判明した。この小さなグループの直接の上司は,MicrosoftのWindowsシェル担当副社長であるChris Jones氏で,ベータ2以降に搭載される予定となっている謎の多いLonghornシェルの改良を行っていた。筆者の知る限りでは,このグループの成果物はリリースされることはなく,Project Mは写真共有用の奇妙なアプリケーションである「Project Max」となった(訳注:Microsoft MAXも2006年末に開発が中止された)。

 そのころ,Longhornベータ1は,Microsoft史上で「OSのベータ1としては最高の出来」と言われていた。ビルド5048に失望した筆者にとって,それはすばらしいニュースだった。しかし,Project Mのメンバーによると,この情報は筆者が期待していたほどではない,ということだった。

2005年7月:ベータ版の招待状が送付される

 7月初旬,Microsoftは最初のLonghornベータ版の招待状をテスターに送付した。「あなたをWindowsのプレリリース・テスティングにご招待します」と書かれたその電子メールを受け取った受信者は,興奮に躍り上がった。次のQ&Aが提供された。

Q:Windowsコードネーム「Longhorn」とは?

:コードネーム「Longhorn」はWindowsの次期バージョンであり,これまでにリリースされた中で最もセキュアで直感的なWindowsだ。Longhornによって,ユーザーはコンピュータをより効率的かつ信頼して使えるようになり,ユーザーの目標達成や興味の追及に大きく貢献する。Longhornは新しいツールを提供し,システムと情報の整合性を保護し,情報を視覚化して整理し,検索を容易にする。また,アプリケーション,デバイス,システム間の統合性を向上する。

 Longhornは次の主要な領域で高度な機能を提供する。

・信頼性,効率性,展開,使いやすさなど,オペレーティング・システムの根本機能
・ユーザーがPCをよりスマートに操作でき,ホーム・ユーザーに新たなエクスペリエンスを提供するための主要な改良
・開発者が画期的なアプリケーションを開発しやすくなる次世代の開発者プラットフォーム

 7月初旬,Longhornビルド5023がオンラインで漏えいした。このビルドは,新しいファイル・コピー・アニメーション,分類されたコントロール・パネル,最終版に近いIE 7のUI,新しいスタート・メニュー・レイアウトなど,Windows Vistaの最新ビルドではおなじみの機能を搭載していた。ここでもまた,存在した機能が削除されるという神秘現象が起こった。このときMicrosoftは,例えば内容によってウインドウに特定の色が適用されるというように,Explorerウインドウの下部にある[詳細]ペインの色を変えられる方法を模索していた。しかしその後,Microsoftはこのアイディアを取りやめてしまった。現在のWindows Vistaの[詳細]ペインは常に明るい青になっている。

2005年7月:製品名が「Windows Vista」に決まる

 同じ7月,筆者は家族と休暇中だったが,MicrosoftのPRを一手に担うWaggener Edstrom氏という友人が,電話で取り乱しながらLonghornに関するニュースを伝えてきた。筆者は彼らに休暇中であることを伝えていたが,彼は筆者がこの情報を知らずにはいられないはずだ,と言った。筆者は携帯電話を耳にあて,Dellのラップトップ・コンピュータを膝に乗せ,ホテルのバルコニーに座って子供たちがプールで泳ぐのを眺めながら--,Longhornが「Windows Vista」という名前になることをGreg Sullivan氏から知らされたのだ。

 筆者は大笑いした。嘘だろう?そんな冗談で,休暇の邪魔をしようというつもりか?

 とにかくSullivan氏は,マーケティング的に「接続性(Connected) 」,「明瞭さ(Clear)」,「信頼性(Confident)」がWindows Vistaのキーワードだと説明した。Microsoftは,Windows Seven,Windows 7.0,Windows 7などの他の名前も検討したが,このWindowsの次期バージョンの可能性と方向性を明瞭に打ち出しているのはVistaである,と思うに至った。「われわれは大量の情報,通信,やるべきことの中で生きている。誰もが,余計なものを省き,重要なものに集中できるようPCを自分に合わせたいと思っている。それを可能にするのがWindows Vistaだ。世の中を分かりやすくして,大切なことに集中できるようにする」とMicrosoftのグループ副社長であるJim Allchin氏は述べた。

 Jim Allchinは製品名についても言及した。「わたしはその名前が気に入っている。Vistaは,新製品の可能性を正確に言い表し,Windowsで成し遂げられるすべての可能性のイマジネーションを駆り立てる。ユーザーのやる気を引き出すのだ」。次第に筆者は,Vistaという名称に慣れていった(当然のことながら,かつてPentiumがそうであったように,現在Vistaは一般的な用語になっている)。

2005年7月:ベータ1がリリースされる

 Windows Vista(かつてのLonghorn)ベータ 1,別名「ビルド5098」はその月の下旬にリリースされた。それには,Windows Vistaの最終バージョンに含まれているのと非常によく似たインストール機能が搭載されていた。また,(もちろん後に削除されたが)気の利いたネットワーク共有機能,(不思議なことに,改良版のリリースが約束されていたにもかかわらずAeroの最終バージョンとほぼ同じだった)Aero Glass,(これも最終版と驚くほど似ている)新しい電力管理とボリューム・コントロール用の通知ポップアップ,(最初は非難の的だったが今は受け入れられている)インプレース・フォルダ拡張が付いた新しいスタート・メニューなども搭載されていた。ベータ1には気の利いたシェル機能があったが,Listと同様,後にWinFSと一緒に不採用となった。

 筆者のWindows Vista ベータ1のレビューは,ビルド5048への反応と比べるとそれほど手厳しいものではなかった。「Windows Vistaベータ1は,筆者が4月のWinHEC 2005でビルド5048に期待していたのものだった。その点において,これはビルド5048ほどひどく失望するようなものではない。しかし,PDC 2005のビルドも,ベータ2も,製品の最終版も,エンドユーザーへの細やかな配慮に欠けているため,平均的なユーザーがワクワクするようなものではない。仮想フォルダがソートされるのを見るのはなんとなく楽しく,特定のドキュメント・フォルダ構成をすぐに作りたがる筆者は,フロイトが言うところの肛門性格であるため,常にこの整理システムを使いたいと思う。ベータ1は,可能性と約束に満ちており,それはよいことだ。筆者が唯一失望したのは,こららの機能は約2年前に既に発表されていたものであり,もっと目新しい機能がほしかったということだった」

 Microsoftに対して公平に言えば,Windows Vistaベータ1は,Windows XP(Whistler)のベータ1よりも,はるかに多くの新機能を搭載していた。問題なのは,Whistlerベータ1は,当時まだまっさらな状態だったが,Longhornはこれまでにも多くのビルドが提供されていたことである。テスター,レビューア,アナリストたちは進捗を楽しみにしていたのだ。

 2005年7月下旬に開かれた毎年恒例の「Microsoft Financial Analysts Meeting」は,ご想像の通り,Windows Vistaについての議論で占められた。MicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏は,「Windows Vistaは最初の次世代製品であると考えている。ハードウエア市場で成長しているのは,PC市場とサーバー市場だ。この2つは今後も成長していくだろう。われわれにはそのチャンスがある。興奮するような技術革新があれば,ソフトウエア市場でもハードウエア市場以上の成長をけん引できるのだ」と述べた。また彼は,MicrosoftがWindows Vistaの「エンタープライズ・バージョン」をリリースすることも明かした。興味深いことに,その日のエグゼクティブQ&AでVistaは一度も登場しなかった。

 7月も終わろうとしていたとき,筆者はWindows Vistaの新しいスクリーンショットを入手した(写真5)。これらの画像は,VistaのUIが向上し,最終版に近づきつつあるとMicrosoftが考えていることを物語っていた。

写真5●2005年7月のスクリーンショット。製品版とほぼ同じである
[画像のクリックで拡大表示]

2005年はWindows Vistaにとって重要な年となったが,最も重要な出来事はまだ起こっていなかった。

 次回:2005年後半に続く。

Windows IT Pro, (C)2007. Penton Media, Inc.

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