Webサイトのテーマと内容,サイトやメニューの構成,宣伝方法にいたるまで,企画のベースには,一貫する「アイデア」がある。この企画のアイデア―――漠然と「企画案」とか「提案内容」と呼ばれることもある―――を見つけることが,企画という仕事の肝だ。

アイデアがわく人と,わかない人には決定的な違いがある

 良い企画のアイデアさえ見つかれば,後は技術と知識で膨らませて,ユーザー層,制作目的,訴求効果といった項目に落とし込み,企画書の体裁に仕立てるだけだ。この作成作業自体は,暗記と反復練習次第で,比較的容易に習得できる。

 ところが,こと「発想」に関しては,知識の丸暗記はあまり役に立たない。制作会社から「制作技術は学べるが,発想は学べない」という声を聞くことがある。手順をマニュアル化して伝えられるものではないので,後進の育成が難しいのだ。

 筆者から見ると,アイデアがわき出る人と,アイデアがわかない人では,次の三つの点が異なる(図1)。後で詳しく述べるが,特に決定的に違うのが3)である。

1) データの蓄積
   アイデアがわかないと嘆いている人は,アイデアのモトになるであろう外からのデータを,頭の中にうまく取り込めていない。

2) データの管理
   いつか役立つかもしれないデータを,現時点の生活には不必要だという理由で,すぐに削除してしまっている。

3) データの活用
   頭の中に蓄積されているデータのうち,企画のテーマに直接関係のあるデータにしかアクセスできておらず,他の有用なデータを活用できていない。

 つまり,最初の2段階で使えるかもしれないデータをどんどん捨ててしまい,残ったわずかなデータも有効利用できていないのだ。今回は,以上の3段階の状態を改善する方法について見ていこう。

図1●アイデアがわき出る人と,アイデアがわかない人の違い
図1●アイデアがわき出る人と,アイデアがわかない人の違い

アイデアをわき立たせるための三つの方法

1) データの蓄積~アイデアのネタの登録~

 私たちは,日々の生活で触れるすべてのデータを取り込みはしない。頭の中に登録すべきデータかどうかを無意識のうちに判別している。例えば,お気に入りの音楽の流れる店内で,目の前に座る友人が全く関心のないテーマについて長々と話し始めると,意識は話よりも音楽へと向かうことがあるだろう。

 アイデアのモトになるかもしれない多くのデータが,個人の嗜好(しこう)や価値観というフィルターを通して登録される。関心のないデータはフィルタリングされ捨てられていく。いきおい頭の中のデータベースは,ひどく偏ったものになってしまう。

 データベースに大量のデータを蓄積するには,データに触れる際の姿勢を見直すことが必要だ。ポイントとなるのは「傾聴」である。関心があろうがなかろうが,一言も漏らさないように誠心誠意聞くことを心がけよう。

 また,地に足のついたデータや,異分野のデータを取り入れることも必要だ。地方紙やフリーペーパーや雑誌に目を通したり,何か一つテーマを決めて徹底的にリサーチしてみるのもよい。そして,外の景色,季節の気配など,五感で感じるあらゆるデータを,可能な限りフィルタリングすることなく取り込んでおこう。

 こうして,データが次々登録されて増えていくと,頭の中では,無意識のうちに,フォルダに分けて管理するようになる。このフォルダの多い状態を「引き出しが多い」ともいう。

2) データの管理~即時性のないデータの保管~

 私たちは「今の生活や仕事には関係ない」データを,ないがしろにしがちだ。せっかく蓄積されたデータを,即時性と実用性でフィルタリングしてしまい,現時点で必要ではないデータを削除してしまう。ところが,企画の仕事では「そういえば,あのとき,たしか…」といった関連データが役に立つケースが多いのである。

 例えば,「売り上げをもたらしてくれるわけではない」風の音というデータを記憶していれば,家電販売店のWebサイトのエアコン商戦に新しい視点を持ち込めるかもしれない。「明るく楽しい生活には無用の」生きる哀しみを記憶していればこそ,グループホームのWebサイトをより温かい印象に変えることができるかもしれない。

 金銭,効率,五感の満足にのみ価値を見いだすことをやめれば,売り上げに直結しない,生活に関係ない,目や胃や自己愛を満足させてくれないデータであっても,自動的に削除することは減るだろう。

3) データの活用~データの検索と組み合わせ~

 頭の中にフォルダ分けして蓄積されているデータの中から,使えそうなデータを検索して組み合わせることによって,アイデアが生まれる。

 具体例は次回に説明するが,アイデアの捻出方法は,実用新案の発想方法と何ら変わらない。発想力の正体とは,手持ちのデータの新しい組み合わせ方を思いつく能力のことだ。「使えるかもしれない」データをどれだけ蓄積しているかが,アイデアの量を決める。そして,データの組み合わせ方がアイデアの質―――独創性―――を決める。データの検索結果の組み合わせがアイデアとなり,アイデアを実務で生かせる形に加工したものが企画となる。

 企画のテーマに直接関係のある名前のフォルダにしかアクセスできなければ,他のフォルダに蓄積されているはずの有用なデータを検索して活用することができない。「頭の中のすべてのデータを検索対象とするには,すべてのフォルダに対してアクセス権を設定して「読み込み可能」にする必要がある。すべての「引き出し」を開け放して,データを見渡しやすい状態にするわけだ。

 アイデアが出ないという人は,この「すべてのフォルダへのアクセス権の設定」ができていない。検索対象が限られると,データの組み合わせも限られてしまうので,型破りな発想が生まれにくいのだ。「すべてのフォルダへのアクセス権の設定」の制御,つまり,「頭の中にあるすべてのデータを検索対象に出来る状態」を,自分の意志で作ることができれば,アイデアがわき始める。

アイデアを捕まえるための心の状態を作ろう

 では,そのような状態を作るには,どうすればよいのだろうか? その状態になれる時間と場所は,古来より,馬上・枕上・厠上と言われている。

 昔と現代では生活が違うとはいえ,同じ人間である。共通項があるはずだ。筆者は,アイデアの出やすい状態というのは,脳波や血流や脳内物質の状態に関係があると実感している。

 筆者の場合,アイデアがわく状況は,自転車(MTB)に乗っているときと,目が覚める前のウトウトしているとき,入浴中である。これは筆者に限らない。プログラマの相方は,プログラムのビルドエラーが出て解決策のアイデアが必要なとき,事務所内をウロウロ歩き回る。

 自転車や歩行や入浴などで血の循環がよくなり,脳が活動し始めた段階で,1個の問題(ここでは,企画のテーマ)について徹底的に考え詰める。このとき,考える行為を途中でやめたり,端折ったりしないことである。考えて考えて考え抜くことだ(ただし,一回の考える時間には上限を設けたほうがよい)。筆者の経験では,考え過ぎてヒートアップすると,頭の中のすべてのフォルダが開いてデータが飛び交い始めるような状態になるようだ。

 そこでさらに考える作業を継続すると,熱暴走したマシンが停止するように,ヒートアップした脳の働きが停止し,思考が停止する空白の一瞬が訪れる。その瞬間,頭の中を飛び交っていたデータ同士が出会う。それは,輪を描いて踊っていたフォークダンスの音楽が終わり,眼の前にいる相手と手を取り合うような状況である。例えば「食品」と「日曜大工」といった,全く関連性のないフォルダのデータが出会い,結びつく。そうして,新しい組み合わせが生まれるわけだ。

 この新しい組み合わせ―――ひらめき―――は,向こうから訪れる。言葉では「アイデアを出す」とは言うものの,実際は「アイデアが訪れる」といったほうが正しい。アイデアは捕まえるものではなく,いつでも捕まえられる態勢で待つものだ。

 アイデアが訪れた状態でマシンに向かうと,実務に戻ったことにより,ヒートアップしていた頭はクールダウンされる。すると,アイデアを冷静に眺めて,企画として使えるかどうかを的確に判断できるようになる。

 だから,発想力を高めるには,以上のような状態を作る生活をすればよいのである。ひらめく状況を何度か体験すると,意識的に同じ時間と場所に身を置くことで,アイデアが出る状態を作り出すことができるようになる。

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