試作したペロブスカイト太陽電池の断面写真と、正孔抽出層に用いたCuSCNの結晶構造
上からAu電極(白っぽい部分)、rGO層(視認できない)、CuSCN層、ペロブスカイト層、TiO2層、FTO層となる。β-CuSCNの結晶の図で、赤い玉は銅(Cu)原子、黄色は硫黄(S)原子、灰色は炭素(C)原子、青色は窒素(N)原子を指す。この結晶を別の角度から見ると、CuとSで構成するグラフェンのような6員環の網の目構造になっている。(写真/図:M. Ibrahim Dar/EPFL)
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 スイスの大学Ecole Polytechnique Federale de Lausanne(EPFL)は、これまでになく長寿命のペロブスカイト太陽電池(PSC)を開発した。変換効率は20.2%と高く、それでいて非常に高価な材料は用いていない。学術誌「Science」に論文が掲載された。

 EPFLが開発したPSCセルは、フッ素添加の酸化スズ(FTO)基板上に電子輸送層のTiO2層、光吸収層のペロブスカイト層、正孔抽出層の銅チオシアン酸(CuSCN)、安定化のための還元型酸化グラフェン(rGO)、そして金(Au)電極を積層したもの。

正孔輸送/抽出層材料のコストが1/1000に

 ポイントは大きく2つある。1つは、CuSCNとその成膜だ。これまで高効率PSCのペロブスカイト層と電極との間にはspiro-OMeTADという有機系の正孔輸送材料が用いられていた。ところが、spiro-OMeTADは1gが5万円超と非常に高価である。しかも、寿命の点でも課題があった。spiro-OMeTADは緻密な層を作るのが難しく、多数開いた“穴”から水分やドーピング材料、電極の金属成分などが侵入してペロブスカイト層を痛めるのである。

 このため、安価でしかも高効率、長寿命を実現できるspiro-OMeTADの代替材料の探索が続けられている。その中で、CuSCNは、正孔の移動度の高さ、材料コストの安さ、高温耐性の高さ、そして電極との間での正孔の流れやすさの点で非常に高い性能を示す材料であることが以前から知られ、注目されていた。CuSCNの価格は1gで約50円超。spiro-OMeTADの約1/1000である。

 しかし、これまでは深刻な課題があった。CuSCNをPSCに用いると、CuSCNの溶媒が肝心のペロブスカイト層を溶かしてしまうのである。このため、変換効率はあまり高まらず、寿命についても、短さが課題とされるspiro-OMeTADよりも短くなってしまっていた。

 今回、EPFLの研究チームが採った戦略の1つは、「速く乾かす」ことだ。用いた溶媒は、極性溶媒のジエチルサルファイド(DES)で、ペロブスカイト層の上に普通に塗布すると同層を溶かしてしまう。このため、基板を1分間に5000回(rpm)と高速に回して、その上にCuSCN/DEGの液滴を落とし、短時間に乾燥させる手法を採った。この結果、ペロブスカイト層をほとんど傷めずに約60nm厚のCuSCN層を均一に成膜することに成功したとする。これで変換効率は約20%と大幅に向上した。