“iPhone採用”で話題の有機ELディスプレー。その開発、製造で世界をリードする韓国メーカーが買収に意欲を燃やすベンチャー企業が日本にある。有機EL発光材料の九州大学発ベンチャー「Kyulux」だ。同社代表取締役(CTO)の安達淳治氏に、ビジョンや戦略を聞いた。

安達 淳治氏(あだち・じゅんじ)
1980年、大阪大学 基礎工学部 機械工学科卒。1980~2009年、パナソニック電工に所属。1994~1996年、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology)の化学工学科に客員研究員として出向。1996~2005 年、燃料電池、有機太陽電池等先端技術開発に従事。2005~2009年、マイクロマシンセンター/技術研究組合BEANS 研究所(副所長)。2009~2013年、九州大学 OPERA 戦略企画室 室長、福岡県産業・科学技術振興財団i3-OPERA 副センター長、。2013~2015年、九州大学 研究戦略企画室 教授、シニアリサーチアドミニストレーター。2015年3月より現職。
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──日本だけでなく、韓国や中国の有機ELディスプレーメーカーも、Kyuluxに熱い視線を送っています。まず、Kyuluxのビジョンについてお聞かせください。

 Kyuluxを設立した経緯からお話しすると、理解していただきやすいと思います。有機ELディスプレーはこれまで、大きな期待を集めながらも、なかなか市場が広がりませんでした。その理由の1つが、材料にあったと考えられます。

 スマートフォンなどのディスプレーとして十分な高輝度や低消費電力を実現するために欠かせないのが「リン光材料」という有機EL材料です。リン光材料はこれまで、強い特許に守られた1社が独占的に事業化していました。これは、莫大な収益をもたらすなど、その会社にとっては非常に良い結果になったと思います。しかし、その後の有機ELディスプレー技術の発展を遅らせる原因にもなったと感じています。

 どこかの企業がリン光材料を使いたいと思ったとします。しかし、ライセンス費用などが莫大で、巨額の費用を負担しないと使えないのが実情でした。例えば、あるベンチャー企業がリン光材料を用いる商品を開発する際に億単位の初期費用が必要だったと聞いています。これでは、良いアイデアがあったとしても、開発を進めることができません。そのため、有機ELにイノベーションがなかなか生まれてこなかったのです。

 Kyuluxの共同創設者である九州大学の安達千波矢教授は、「有機EL材料は世界中で使われないといけない」と唱えました。そして、全く新しい有機EL材料を開発しました。それが、TADF材料(熱活性化遅延蛍光材料)であり、TADFと蛍光材料を組み合わせた「Hyperfluorescence」です。この新材料を「広く世界で使ってもらいたい」という思いで、Kyuluxという大学発ベンチャーを興しました。誰でも安価に手に入れられるようにする。これが、我々のビジョンです。

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