ケアプロが実践、「訪問看護師×SNS」で働き方改革

社内SNS「Talknote」を活用、大規模ステーションの課題を解消

2017/12/18 09:30
小谷 卓也=日経デジタルヘルス

訪問看護師の業務負荷を、社内SNSの活用で削減する。そんな取り組みを、ケアプロが実践している。規模の大きい訪問看護ステーションならではの情報共有の難しさを克服し、看護師1人当たりの業務時間を1日30分~1時間ほど減らしたという。訪問看護ステーションの大規模化がこれからの潮流となりつつある中、その際に生じる課題をITの活用で解消した同社の事例を追った。

2011年4月に山陽自動車道の一部のサービスエリア(SA)とパーキングエリア(PA)において実施された「ワンコイン健診(現:セルフ健康チェック)」の様子

 創業時から駅ナカやスーパー、ショッピングセンターなどで500円で気軽に血液検査ができる「ワンコイン健診(現:セルフ健康チェック)」を手掛けてきたケアプロは、2017年12月に創業10年を迎えた。同社がこのセルフ健康チェック事業とともに、もう一つの柱として手掛けているのが、訪問看護事業である。現在、東京都の中野区と足立区にある2つの訪問看護ステーションを運営している(中野のステーションには居宅介護支援・ケアマネ事業所を併設)。

 ケアプロの訪問看護ステーション特徴の一つは、その規模だ。中野と足立のステーションに、それぞれ15人もの常勤看護師を抱える。24時間対応できる体制を備えることや重症者の対応件数、一定の常勤看護師数などの要件を満たす場合に2014年度診療報酬改定から評価されることになった「機能強化型訪問看護ステーション」でもある。

 ただし、ステーションが大規模になると、それに伴う訪問看護師の業務課題も生まれてくるという。「看護師が2~3人のステーションならまだしも、7~8人を超えてくると、情報共有の進め方が大きな課題になる」。ケアプロの前田和哉氏(ケアプロ訪問看護ステーション東京 在宅医療事業部 事業部長)は、こう語る。

「検索」に多くの時間が割かれる

 ケアプロではかねて電子カルテを導入し、PC端末だけでなく全スタッフに貸与したiPhone(当初はiPad)からいつでもどこでも電子カルテの閲覧や記入をできるようにしてきた。訪問看護の領域では紙カルテが主流の中、これだけでも先駆的な情報共有の取り組みといえる。

全スタッフに貸与したiPhone(当初はiPad)からいつでもどこでも電子カルテの閲覧や記入をできるようにしている(写真提供:ケアプロ)
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 しかし訪問看護師の間では、患者の近況や申し送りなど、カルテに記入する情報とは別に共有をするべき情報が少なくない。年間約300人(常時200人+100人の入れ替わり)もの患者に対応しているケアプロの訪問看護ステーションの場合は、なおさら多くの情報が飛び交う。

 こうした情報共有に、既に導入している電子カルテを活用することは難しいという。「(訪問看護領域の)電子カルテはレセプト請求のための必要最低限のチェックボックスが用意されている仕様のものが多く、記載欄は十分用意されていないため、その他の共有情報を書き込めない」(前田氏)。

 そのためケアプロでは、電子カルテ以外の共有情報のやり取りに電子メールを利用していたが、課題があったと前田氏は振り返る。いまだ多くの訪問看護ステーションで実施されているFAXでの情報共有よりは優れているとはいえ、情報の「検索」に訪問看護師の多くの時間が割かれていたというのだ。「例えば、新しい患者を担当する場合、その患者の過去の情報を調べる。ところが、電子メールの受信ボックスに混在している多くの情報の中から、知りたい情報を患者別や時系列別に検索することがとても大変で、時間がかかっていた」(前田氏)。

 電子メール自体の検索性がそれほど高くないという点はもちろんだが、理由はそれだけではない。患者名はメール件名に入れることが多いというが、例えば「斉藤さん」の「斉」の字が数種類あったり、外部(社外)への誤送信対策として「山田花子(仮名)」という患者の名前を「山○花○」にしていたりする。「とても検索で引っかからなかった」と前田氏は指摘する。

社内SNSで「患者ごと」にグループを設定

Talknoteでの「グループ」機能を使った投稿イメージ。設定したグループごとに、投稿された情報に対してコメントが整理・蓄積される(写真提供:トークノート)
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 こうした課題を解消すべく、ケアプロは2015年末、情報共有に特化したツールを取り入れた。導入したのは、トークノートが提供する社内SNS「Talknote」である。このアプリを、PC端末からだけでなく、前述の全スタッフに貸与しているiPhoneからも使えるようにして、電子カルテ以外の情報共有に活用することにした。

 Talknoteは、いわゆるLINEのようにチャットで情報共有する「メッセージ」機能に加え、「グループ」と呼ぶ情報共有機能を備える。これは、設定したグループごとに情報の投稿と、各投稿に対するコメントが整理・蓄積される機能。いわばFacebookと同様のインタフェースと言える。

 このグループ機能を、ケアプロは情報検索の課題解消のために用いた。一般にTalknoteが企業に導入される場合、グループは部署・プロジェクト・会議体などの単位で設定されることが多いというが、同社の場合は「患者ごと」にグループを設定して活用している。

左は部署・プロジェクト・会議体などの単位でグループを設定した一般的な使用イメージ。これに対してケアプロは右のように「患者ごと」にグループを設定してしている(写真提供:左はトークノート、右はケアプロのデータに本誌がダミー患者名を付記したりマスキングを施したりした)
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 例えば、「山田花子(仮名)」というグループがあり、その患者(山田花子)に関する「血圧低下の件について」「患部の状況について」などといった投稿と、その投稿に対するコメントを訪問看護師が書き込んだり閲覧したりできるという具合だ。もちろん、文章だけでなく写真を添付することもできる。

文章での投稿例。内容はダミー(写真:ケアプロ)
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写真を交えた投稿例。内容はダミー(写真:ケアプロ)
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 この仕組みの導入によって、検索の負荷は大幅に解消されたと前田氏は語る。「導入から3カ月で目に見える効果が出てきた。訪問看護師の業務時間は、1日30分~1時間ほど削減できた」(同氏)。実は、ケアプロの訪問看護ステーションは、新卒看護師を積極採用していることでも知られており、看護師の平均年齢は29歳と極めて若い。普段からこうしたツールに慣れ親しんでいる世代のスタッフが多かったことも、ツールの浸透に奏功したようだ。

副次的な効果も…

 社内SNS導入の効果は、単に訪問看護師の業務負荷低減だけにとどまらなかったという。その一つが、コミュニケーションの向上である。特に、中野と足立の訪問看護ステーションは距離的に少し離れているが、お互いのステーション間の情報共有や連携も活発かつスムーズになったと前田氏は言う。

 加えて、「管理職の残業も1時間ほど減った」とケアプロの佐藤祐一郎氏(ケアプロ訪問看護ステーション東京 在宅医療事業部 総務室 室長)は語る。規模が大きい同社のステーションでは、管理職による看護師の業務管理にも大きな負荷がかかっていた。Talknoteの基本機能として備わっている「タスク管理」では、アプリ内でタスクを依頼・管理でき、優先度や完了状況がひと目で分かるようになっている。この機能の活用により、「管理業務が効率化した」(同氏)というわけだ。

ケアプロの前田氏(左)と佐藤氏(右)
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 最近では、SNS機能を付加(内包)した電子カルテも出てきているが、ケアプロは「UI(ユーザーインタフェース)などを考慮しても、必要な機能に特化した専門ツールを使ったほうが良い」(前田氏)との考えがあったとする。前述のタスク管理の効率化なども、専門ツールだからこそ得られた効果といえるのかもしれない。

 なお、Talknoteには「オーバーワーク検知」(アプリへのアクセス状況から実働時間を検知)や「アクションリズム解析」(アプリへのアクセス時間帯や投稿量などのリズム変化を解析)といった機能も備えている。これらの機能についてケアプロは、「活用方法を検証している段階」(佐藤氏)だという。

 2018年度診療報酬・介護報酬改定に向けた議論では、訪問看護ステーションの大規模化推進が論点の一つとなっている。今後、ステーションの大規模化は大きな潮流になるといえるだろう。こうした中、ケアプロが実践する取り組みは、大規模化に伴う情報共有のあり方を考える上での参考となりそうだ。