小規模病院とケアサービスの複数施設を効率運営するための情報システム

院内開発でここまでできる! 志田病院のチャレンジ

2017/12/07 13:00
増田 克善=日経デジタルヘルス

佐賀県鹿島市の医療法人天心堂 志田病院(48床)は、院内のほとんどの情報システムを職員自らの手で開発・運用してきた。電子カルテ導入に踏み切れない小規模病院が医療の効率化に迫られ、ユーザーメードで医療IT化を進展させた好例である。医療現場のスタッフが要望する“自らの業務にフィットしたツール”を実現するため、3人のシステム開発担当者が、FileMakerプラットフォームによる開発手法を習得し、年間300件にも及ぶカスタムアプリケーションの開発・運用を行っている。

 志田病院は、1925年(大正14年)の開院以来、90年を超えて佐賀県鹿島市の地域医療を支えてきた。地域のかかりつけ医療機関として一次医療(総合診療)の一端を担うとともに、亜急性期から慢性期の入院医療を提供してきた。介護保険制度の開始以降は、隣接地にグループホーム、小規模多機能型居宅介護、デイケア(通所リハビリテーション)、デイサービス(通所介護)などの施設を併設し、医療と介護のサービスを一体的に提供している。

 近年の介護療養病床の廃止・転換政策の推進に伴い、療養型病院からの脱却を図るため、これまでに9回にわたり病床配置の見直しを繰り返してきた。現在、全48床のうち28床を回復期リハビリテーション病棟に、20床を地域包括ケア病棟(地域包括ケア病床12床、療養病床8床)へと転換している。

 同病院が特に取り組みを強化してきたのが、リハビリ部門の体制充実と在宅復帰支援である。リハビリセンターを併設してスタッフを充実させるとともに、医療ソーシャルワーカーを5人配置して、入院時点から、退院と在宅復帰へ向けた取り組みを行っている。その結果、在宅復帰率は療養病床を除いて9割前後を達成している。

志田病院 理事長・院長の志田知之氏

 「医療政策が変わる中で、長期にわたって地域社会を支え続けられる持続可能な医療の提供を目指して試行錯誤してきた結果です。在宅療養支援病院でもあり、在宅患者の急性増悪の受け入れ体制を維持しつつ、グループのデイケア・デイサービスなどとの連携や、地域の介護サービス事業者との連携を強化しながら在宅復帰に注力、少ない病床を効率的に運用しています」。理事長兼院長の志田知之氏は、こう自負する。

 同病院は2006年頃からFileMakerをプラットフォームとして開発を内製化してIT化を推し進めてきた。その背景には、さまざまな制度対応に伴う業務管理の増大や、関連施設の増加・連携強化に伴って、多職種職員の情報共有が重要性を増してきたことがある。「効率的な医療・介護を実践していく上で、ITは欠かせない要素でした」(志田氏)という。

現場職員と一致団結したシステム化推進

 志田病院と介護サービス事業所の業務支援システムは、医事会計システムと介護報酬の請求に関わるシステム用のWindows端末5台以外は、MacOS端末96台とiOS端末(iPad)にて運用されている。当初の開発は、職員の勤務表管理や施設・部署ごとの日報など総務・事務部門のツールが主だったが、次第に受付業務、病棟看護、オーダリングなど診療業務支援も含めた病院全体のIT基盤として活用されるようになってきた。

 「当初、50床に満たない小規模病院では、導入コストも含めて電子カルテシステムの選択肢がほとんどなく、導入に踏み切れませんでした」(志田氏)。そうした状況が、業務システムの独自開発に傾倒した背景になった。医学生の頃からMacintoshを利用し、愛好してきた志田氏が現病院を継承して病院改革に乗り出したとき、「病院情報システムもMacOS上でFileMakerをデータベースとして構築できるのでは」と考え、以来、開発に取り組んできた。

 「あったら便利」と考える小さなツールを積み重ね、改修しながら利用してきたシステムは、「業務上、なくてはならないツール」へと変わってきた。管理者向けメニュー画面を見ると、その機能数は100を優に超える。患者受付システムや会計待ち表示システムなどベンダー製医事会計システムの周辺ツールなどもすべてFileMakerで構築されており、病院の至る所でMacBook AirやMac Pro、iPadなどが業務端末として利用されている。

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医事や病棟などあらゆる部門でFileMakerによるシステムが稼働
(左から受付システム、会計待ち表示、病棟看護システム)

 診療業務の基幹系システムとしては、オーダリングシステム、病棟看護(経過記録)システム、オーダリングの注射オーダーと連携したベッドサイドでの3点認証の仕組みなど、業務効率化と安全性向上に関わるシステムなどが揃う。さらに、併設する健診センターのシステムも患者データベースに統合されている。

FileMakerによる患者データベースには基本情報から外来・入院・検査・リハビリなど全情報が一元化されている。
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 現在、システム開発は、事務部システム開発主任の田中徳文氏を中心に、石橋幸治氏と白仁田博美氏を加えた3名が専任SEとして携わっているが、白仁田氏はFileMaker開発歴が2年未満だという。理事長と副理事長が参加して月1回開催される情報管理委員会では、年度計画に基づいて開発するシステムの検討や進捗が議論されるほか、各部門の現場職員から出された新システム開発依頼や既存システムの改修依頼などの優先度の検討や進捗チェックなどが行われている。こうした要望案件は、システム開発エントリー済み一覧で管理されているが、「小さな改修要望も含めると年間300件ほどに及び、作業が追いつかないのが現状です」(田中氏)という。

システム開発は事務部システム開発主任の田中徳文氏(中央)を中心に、石橋幸治氏(左)、白仁田博美氏(右)の3人が担当

 開発したシステムの運用事例やシステム運用に基づいた研究成果は、病院経営に関する学会などで積極的に発表しており、病院を挙げて積極的に取り組んでいることが見て取れる。「小さな病院ながらもシステム化推進の参考になればと、学会報告を奨励しています」(志田氏)。

日々の業務に欠かせないシステムに

 数多くの業務でさまざまなシステムが稼働しているが、中でも利用頻度の高いものの1つが検体検査、画像・生理検査、迅速検査、健診用検査などのオーダリング機能だ。例えば、画像検査のオーダーでは、撮影指示内容を入力するとカルテ記載する指示情報と患者用QRコードのラベルがプリント出力される。前者は、紙カルテに手書きする代わりに貼り付けるもの。後者は患者が放射線部門に持参する用紙に添付するものだ。放射線部門にはRIS(放射線科情報システム)が導入されていないため、モダリティーの付属システムとして実装したQRコードリーダーでオーダー情報を読み取り、撮影する仕組みだ。

診療で頻繁に利用される画像検査オーダーの画面
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画像検査オーダーの場合、モダリティーで指示情報を読み込むためのQRコードと紙カルテに貼付する指示書が出力される。
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 撮影されたDICOM画像は、各モダリティよりPACS(DCM4CHEE)に送られ、MacOSとiOSで動作するOsiriX(オザイリックス)にて閲覧することができる。

 病棟で日常的に利用されるのは、経過記録システムと注射実施時の患者・薬剤・実施看護師の3点認証システムである。看護師はベッドサイドでiPadを片手に、ベッドヘッドに添付されている患者情報のQRコードと、薬剤のバーコード、看護師のバーコードをバーコードリーダーで読み取り、注射オーダリングと照合した上で注射を実施する。MacOS上で稼働するオーダリングシステムと3点認証用のシステムのすべてを自主開発し、低コストで運用している医療機関はきわめて珍しいと言えるだろう。

病棟のスタッフステーションでは全看護師が、患者の経過記録システムに詳細な情報を記録
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病棟の注射では3点認証システムが稼働。注射オーダーと患者・薬剤を照合チェックする。
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新たな制度対応を効率化するシステムを開発

 回復期リハビリテーション病棟で高い有用性を発揮しているのが、新たに開発されたFIM(機能的自立度評価表)アウトカム管理システムだ。2016年度の診療報酬改定で回復期リハビリテーション病棟入院料にアウトカム評価が導入され、実績指数の公表が義務付けられた。リハビリの効果が一定水準を満たさない場合には、疾患別リハビリテーション料の算定を6単位までに制限するというもの。猶予期間を経て2017年4月に完全実施に移行したことに対応して開発された。

FIMアウトカム管理システムでは、日々リハビリ実績指数を確認できるほか、実績指数対象者から除外すべき患者も入棟時にひと目で判断できるよう工夫されている。
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 FIMアウトカム管理システムでは、日々リハビリ実績指数を確認できるほか、実績指数対象者から除外すべき患者も入棟時にひと目で判断できるよう工夫されている。

 実績指数を管理するためには、同病棟のすべての患者を対象に、入棟時のFIM得点、退棟時のFIM得点、入棟から退棟までの日数などを記録し、決められた算定式で算出する必要がある。石橋氏は、「病棟全体の実績指数が日々、何点になっているかを把握するために開発しました。また、算定要件から患者を除外する場合があるため、除外対象者がひと目で分かる仕組みを設けました」と説明する。管理画面では、各患者のリハビリによるFIMの増加(利得)状況がひと目で分かるように、FileMakerのWebビューア機能を使ってグラフ表示するなど、現場の要望に応じて細かな工夫が実装されている。

患者個々のFIMの推移を、グラフなどを用い詳細に管理できる。
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 「開発期間は約2カ月」(石橋氏)だったというが、多くの施設がExcelなどを使い、手作業で苦労して計算して報告書を作成しているもので、FIMアウトカム管理システムの運用成果は非常に大きい。成果は日本医療マネジメント学会などで発表した。

 システムの導入・開発コストを抑えるためだけでなく、必要な機能を迅速に開発・改修できるFileMakerプラットフォームの利点を生かし、数多くのシステムを院内開発で進めてきたが、志田氏は、「今後は経営上のデータなどもリアルタイムに見られるようにし、小規模病院に適したデータ分析を実現していきたいと考えています」とし、民間医療施設としての経営効率性の向上と、患者中心の医療の質向上や在宅医療推進をさらに加速させる意欲を示した。

■病院概要

名称:医療法人天心堂 志田病院
所在地:佐賀県鹿島市大字中村2134番地4
理事長・院長:志田知之氏
設立:1955年9月(医院開院は1925年)
病床数:48床(回復期リハビリテーション病床28床、地域包括ケア病床12床、療養病床8床)
関連施設:グループホーム「さくら荘」、小規模多機能ホーム「くすの木」、デイケア「きんもくせい」「あすなろ」、デイサービス「花水木」「さざんか」、介護予防サロン「こもれび」
主要導入システム:ファイルメーカー「FileMaker Pro、FileMaker Server、FileMaker Go」