メガソーラービジネス

「10の雑草リスクに備えよ」、緑地雑草科学研究所・理事に聞く(前半)

メガソーラービジネス・インタビュー

2016/07/27 00:00
金子憲治=日経BPクリーンテック研究所

緑地雑草科学研究所(福井県鯖江市)は、雑草問題の解決のために専門知識や情報提供、対策の提案などを行っている特定NPO(非営利活動法人)。企業会員37社のほか、個人会員約100人が属し、そのうち16人が雑草に関連した博士号を持つ専門家集団だ。同研究所で理事を務める伊藤幹二氏(マイクロフォレスト リサーチ代表)と伊藤操子氏(京都大学名誉教授)に、メガソーラーにおける「雑草リスク」などについて聞いた。

緑地雑草科学研究所・幹事の伊藤操子氏と伊藤幹二氏(出所:日経BP)

――日本各地でメガソーラーが稼働して数年経ち、予想以上に雑草が繁茂して、その対策に苦しんでいます。

伊藤(幹) これまで海外で稼働し始めたメガソーラーの多くは、比較的、乾燥した地域に設置され、もともと植物が育ちにくい環境でした。それに対し、日本のメガソーラーは、雨の多い高温多湿の環境下にパネルを設置することになります。

 アジアモンスーン気候の地域に本格的にメガソーラーを設置・運営するのは、世界で初めてになると思います。雑草対策を疎かにすると、どうなるのか。これは明らかです。

――メガソーラー関係者から、雑草対策に関して、相談を受けたことはありますか。

伊藤(操) メガソーラー事業者からの問い合わせは多く、実際に大手デベロッパーなどの担当者が研究所を訪ねてきて、相談を受けました。共通しているのは、雑草対策について、「どうすればいいのか」、「どの除草剤を使えばいいのか」など、具体的な「答え」を初めから聞きたがることです。

 しかし、雑草対策はそんなに簡単なものではありません。「ツールを示しておしまい」、というわけにはいきません。雑草が引き起こすリスクにどこまで対応するのか、サイト内や周辺環境の状況など、それなりの事前調査を経て、対策を決めていきます。詳しくは後述しますが、まずは、具体的な対策に至るまでのプロセスが重要です。

「雑草害」は5大生物害の1つ

――メガソーラー事業者は、「雑草」を甘く見過ぎているということですか。

図1●公園に繁茂するクズとヨモギ(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

伊藤(幹) 実は、世界的に見ると、日本は、メガソーラー事業者に限らず、雑草対策への意識が非常に低い国なのです。

 そもそも人類は、歴史的に「5つの生物害」に苦しんできました。虫害、病害、鳥害、獣害、そして、「雑草害」です。ほかの4つの害がある程度、克服されてきたのに対し、雑草害は、根絶が難しく、いまだに多くの場所でその対策に追われています。農業が典型ですが、身近な場所では、ゴルフ場、公園などもそうです(図1)。

 一般的に命にかかわる深刻な「生物害」というと、蚊がデング熱を媒介するなど、虫害や病害を思い浮かべますが、鳥害、獣害も含め、その背景には、雑草の繁茂があります。虫や鳥獣の多くは草を食べるので、雑草によって誘発されるのです。

 雑草害というと、花粉によるアレルギーなど直接的な害をイメージしますが、蚊のように疫病の伝搬動物の食べ物になったり、農業病害虫の宿主になったりするなど、間接的な害が非常に大きいのです。

――日本では、雑草は身近な存在で、生えてきたら刈ればよい、というイメージです。

緑地雑草科学研究所の伊藤幹二・理事(マイクロフォレスト リサーチ代表)(出所:日経BP)

伊藤(幹) 日本では、かつて雑草を畑にすき込んで、肥料に活用してきた歴史もあり、雑草を迷惑な存在と思いつつも、極端に害悪視していないのが事態です。

 一方世界では、雑草は「病害虫の宿主」との認識に立って、「人的被害の最も大きい生物害」と位置付けています。ペストのように「根絶すべき存在」ととらえ、徹底した管理に取り組んでいます。それでも人類は、いまだに雑草害を完全に克服できていないのが実情です。

 雑草の防除に使われている化学薬剤の金額は、全世界で年間約4兆円に上り、農業資材の中で最も大きくなっています。日本でも、農業分野で使用される化学薬剤の金額は年間で約1500億円を超えています。

 日本では、雑草を「生物害」と捉える認識が薄く、特に雑草と動物が関係する感染症の拡大に無関心です。植物防疫法に雑草は含まれず、雑草の持ち込みや放置、そして不適切な管理に法的な制限がなく、「科学的な雑草管理」という考え方が広まっていません。

「最良管理慣行」の策定を

――欧米先進国では、どんな方法で、雑草を管理しているのですか?

伊藤(幹) 土地の用途区分ごとに科学的に最適な管理手法を策定しています。これは「雑草の最良管理慣行(Best Management Practice on Vegetation)」と呼ばれています。

 例えば、農地、林地、草地、ゴルフ場、道路敷、河川敷、鉄道敷、工業緑地、商業緑地、公共施設緑地、都市公園、市街地公園など、細かい土地用途ごとに、それぞれに最適な雑草管理マニュアルが定められています。そのなかでは、経済的損失が大きい「問題雑草」として根絶を目指す草種と、生態系上、残すべき草種を明確に区分けしています。

 これに対し、日本では雑草が関係する農業や健康、景観、環境、施設への被害を「生物被害」と認識しておらず、自主的な対応に任せているのが実態です。「雑草管理」に関する法律が存在しない唯一の先進国なのです。

――日本で、欧米のような「雑草の最良管理慣行」を策定したケースはありますか。

伊藤(操) こうした話をすると、その場では多くの担当者は分かってくれますが、会社に持ち帰って相談すると、「そこまでする必要はないとの結論になった」となることがほとんどです。数少ない先進例が、古くから線路の雑草に苦しんでいる鉄道会社です。

 JRグループのある企業では、線路脇や法面での雑草対策に、年間数億円を費やしており、斜面に群生したクズの除草作業などで、深刻な労働災害も発生しています。40度もの急斜面に繁茂した雑草を草刈機で除くのは、たいへんに危険な作業になります。

図2●線路わきに生えるクズやキク科などの雑草(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

 そこで、緑地雑草科学研究所も協力して、「線路雑草マニュアル」を策定して各地に配りました。その結果、クズなどの発生が数年間、抑えるなどの効果を挙げました。

 ただ、企業の場合、雑草対策に熱心だった担当者が異動で変わると、雑草管理が甘くなり、また、もとに戻ってしまうようなケースも目立ちます(図2)。

「雑草リスク評価」を10に分類

――メガソーラーでは、どんな雑草問題が発生する可能がありますか。

伊藤(幹) 緑地雑草科学研究所では、雑草がメガソーラーに及ぼす悪影響を10のリスクで分析し、評価しています(図3)。

図3●雑草リスク分析表の概要(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BPで概要版を作成)
クリックすると拡大した画像が開きます

 発電量に影響するケースは、背丈の高い草によってパネルに影ができることのほか、花粉や種がパネル表面に付着したり、パネルの下に草が繁茂し、熱がこもったり、風が通りにくくなることによる高温化でパネルの変換効率が低下する可能性もあります。表の(1)~(3)がそれにあたり、売電収入を低下させる原因になります。

 一方、(4)と(5)は、雑草に起因するアレルギー物質の飛散、害虫や鳥獣の繁殖、景観の劣化、表面掃流水による有機物の流出などで施設外の環境に悪影響を及ぼす場合です。こうしたリスクは、クレームの発生とその対応という形でランニングコストの上昇につながります。

 また、(6)~(10)は、専門知識の不足などにより、管理面で新たな負担が発生するリスクで、想定外のランニングコストとして、事業性に影響します。

高まるクレームリスク

緑地雑草科学研究所の伊藤操子・理事(京都大学名誉教授)(出所:日経BP)

――パネルに影を作って発電量が減るだけでなく、近隣住民からのクレームなど、コストアップにつながる潜在的なリスクも大きいわけですね。

伊藤(操) 例えば、私たちの分析・評価では、ゴルフ場よりも水田の方が雑草対策に使われる化学薬剤が多く、環境負荷はずっと大きいと考えています。しかし、一般的にはゴルフ場に散布する除草剤を危惧する声が多いでしょう。つまり、今までになかった施設は、悪者にされやすいのです。メガソーラーも、まさに新しい土地利用だけに、こうした評判リスクは大きいとみています。

――住宅地に近いメガソーラーでは、排水の問題や周辺環境の温度が上がるとの懸念を持つ近隣生活者が多いのが実態です。

伊藤(幹) 雑草を野放しにすることで、側溝や集水溝に有機物が堆積するなども問題が起こりますが、一方で、雑草対策だけを考えて、敷地全面をコンクリートで舗装してしまうと、周囲への温熱環境を悪化させます。

 重要なことは、近隣住民からこうしたクレームが入った場合に、どういった対策方針のもとに設計したのかを説明できることです。

 雑草対策のためにコンクリート舗装して欲しいという要望があっても、熱環境や表面流水に配慮すれば、コンクリートはマイナス面が大きいと反論できます。

図4●メガソーラーに繁茂するクズ(出所:日経BP)
クリックすると拡大した画像が開きます

――イノシシや野ネズミなどがメガソーラーサイトに侵入して、設備を損壊するなどのトラブルも、雑草の繁茂が関係していますか?

伊藤(操) メガソーラーでも繁茂しやすいクズの根は、イノシシの大好物です。フェンスの内外にクズを放置しておくことは、イノシシの侵入を誘引する可能性があります。

 かつてイノシシは、冬場に食べるものが減ることで繁殖が抑えられていましたが、クズの増加で冬を超えやすくなり、数が増えています(図4)。

「診断→治療→点検」のサイクル

――メガソーラーの雑草対策を策定する場合、こうした潜在的なリスクにどこまで備えるかによって、対策の在り方、かけるコストが変わってきますね。

伊藤(幹) メガソーラー施設における「最良管理慣行」を作成するには、まず施設内の現状の雑草植生と、施設周辺の植生状態を調査した上で、10のリスクの度合いを評価し、どこまで備えるべきか、検討し、具体的な対策を決めていきます。

 ただ、「1度つくったら、おしまい」というものではありません。リスクには1~2年の短期的な問題、3~5年の中期的な問題、10~20年の長期的な問題に分けて考える必要もあります。最初のリスク評価に基づいて実施した予防や治療が、どんな効果だったのかを調査・点検し、またリスク評価を行うというプロセスを繰り返すことが大切です(図5)。

図5●雑草リスク対策のプロセス(出所:緑地雑草科学研究所の資料を基に日経BP作成)
クリックすると拡大した画像が開きます

 同じ日本でもメガソーラーの置かれた環境は、すべて違います。それぞれの施設に合った「雑草の最良管理慣行」を作ることが必要です。ただ、策定までのプロセスは同じです。

(後半は7月28日に掲載)