235MWの巨大メガソーラーが完成、試運転を開始

500haの塩田跡地を再開発、90万枚を敷き詰める

2018/06/05 05:00
金子憲治=日経BP総研 クリーンテック研究所

「かつての入り江がよみがえった!?」

 岡山県の南東部に位置する瀬戸内市は、2004年11月に邑久町、牛窓町、長船町の3町が合併して発足した。同市にある「牛窓オリーブ園」では、瀬戸内海を望む小高い丘の山頂周辺、約10haに約2000本のオリーブが栽培されている。

 牛窓周辺は豊かな自然と瀬戸内海の多島美を堪能できることから「日本のエーゲ海」とも呼ばれる。オリーブ園の展望台に上がると、海側には、眼前の前島とその背後に小豆島を望める(図1)。その背後の陸側には、稼働済みサイトで日本最大のメガソーラー(大規模太陽光発電所)を見渡せる。出力235MWを誇る「瀬戸内Kirei太陽光発電所」だ。

図1●牛窓オリーブ園の展望台から眺めた瀬戸内海
(出所:日経BP)
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 「かつての入り江が戻ったようだ」――。土地の古老は、かつての錦海湾が、よみがえったかのような印象を持つ人も多いという。

 実は、メガソーラーの事業用地は、1950年代後半に錦海湾を干拓して生まれた。そのほぼ平坦な土地に約92万枚の太陽光パネルを敷き詰めた。展望台から見ると、多結晶シリコン型の青いパネル群が面につながり、海のように見える(図2)。

図2●牛窓オリーブ園の展望台から見た「瀬戸内Kirei太陽光発電所」
(出所:日経BP)
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 「瀬戸内Kirei太陽光発電所」は、今年2月28日に連系変電所と中国電力の設備を接続する「受電」作業が完了した。2014年11月の着工後、約3年半で発電設備の建設を終えたことになる。

 今後、約半年間にわたって試運転を重ね、今秋に商業運転を開始する予定という。事前に決めていたスケジュールでは、「2018年後半に試運転、2019年の運転開始」と公表しており、当初の予定よりも前倒しで商用運転に入る見込みになってきた(関連記事)。

「環境保全」と「安全安心」

 錦海湾の干拓地では、かつて製塩事業が営まれていた。「錦海塩田」として知られ、東洋一の規模を誇った。約500haの干拓地に海水を引き込み、水分を蒸発させる天日採塩法で生産した。だが、70年代に入ると製塩業はイオン交換法に転換が進み、競争力がなくなった。製塩会社は塩づくりから撤退、干拓地を活用した産業廃棄物処理に活路を求めた。

 しかし、2009年にこの製塩会社は倒産。その後、2010年12月に瀬戸内市が塩田跡地を買い上げた。干拓地はいまでも常時、ポンプで海水を汲み出さないと、陸地として維持できない。市による干拓地とポンプ施設の買い上げは、干拓地周辺の市民生活を守るための、まさに「苦渋の選択」だった。

 荒地となっていた広大な干拓地の再利用が課題となった。ゴルフ場や空港など、再開発を巡って様々な構想が出ては消えるなか、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を利用したメガソーラー事業に託すことになった。

 メガソーラープロジェクトは、連系出力186MW、太陽光パネル容量約235MWの国内最大級の「太陽光発電事業」を核に、塩田跡地の浸水対策などを強化する「安全安心事業」、塩性湿地特有の多様な生態系を保全する「環境保全事業」という3つの事業からなる。

 安全安心事業では、長さ1640mに及ぶ堤防と排水ポンプの補強などを実施し、市に寄贈した。同事業は、地域住民の安全だけでなく、メガソーラー事業の災害リスクを低減するためにも重要だったため、発電設備に先駆けて着工・完工した(図3)。

図3●増強工事の終わった堤防
(出所:日経BP)
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 また、環境保全事業では、海沿いエリアに生息する動植物への影響を最小限に抑えるため、約16haの「錦海ハビタット」を整備した。干拓地は塩田事業が廃止された後、40年以上経つ。その間、海沿いには、雨水と海水の混じり合う塩性湿地となり、ヨシ原、小川、ヤナギ林などの混在する独特の生態系が形成されている。

 「錦海ハビタット」は、整備した後は、人の手を加えずに、自生の生き物によって生態系が維持されることを目指している。そのため、基本的には人が立ち入らない区域とし、自然観察のための遊歩道なども整備していない(図4)。

図4●塩性湿地の生態系を維持する「錦海ハビタット」
(出所:日経BP)
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 堤防やポンプの補強、湿地保全といった、本来、市の財政負担になる事業を民間資金で実施した点に、錦海塩田跡地の再開発プロジェクトの画期的な側面がある。

インリーにTMEIC、トリナにGE

 プロジェクトの事業体は、特別目的会社(SPC)「瀬戸内 Kirei 未来創り合同会社」で、同SPCには、米GEエナジー・フィナンシャルサービス、東洋エンジニアリング、くにうみアセットマネジメント、中電工が出資した。総事業費1100億円のうち約900億円を融資でまかなった。三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行の3行を幹事銀行とした28金融機関が参加したプロジェクトファイナンスを組成した(図5)。

図5●牛窓オリーブ園から見た「瀬戸内Kirei太陽光発電所」
(出所:日経BP)
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 EPC(設計・調達・施工)サービスは、東洋エンジニアリングと清水建設が担当し、太陽光パネルは、中国トリナ・ソーラー製と中国インリー・グリーンエナジー製。パワーコンディショナー(PCS)は、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製(630kW機・146台)と米ゼネラル・エレクトリック(GE)製(1000kW機・94台)を設置した(図6)。

図6●インリー製パネルとTMEIC製のPCS
(出所:日経BP)
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 約265haの広大な建設サイトには、約90万枚ものパネルが整然と並ぶ。インリー製パネルにはTMEIC製PCS、トリナ製パネルにはGE製PCSという組み合わせで直流回路を組んだ。2種類のパネルとPCSを採用したのは、規模の大きさを考慮し、1社の製品に絞ることのリスクを回避したという。

 パネルが出力した直流は、PCSで交流に変換後、約100カ所のサブ変電所に集電して22kVに昇圧し、サイト北側の電気管理棟の横に設置された主変圧器に集められる。ここで110kVに昇圧後、約16kmにおよぶ自営線による地下ケーブルを通じて中国電力の西大寺変電所に送られる(図7)。

図7●主変電設備から地下ケーブルで送電
(出所:日経BP)
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 サイト内を一巡すると、2タイプの基礎工法で施工されているのが分かる。コンクリートの置き基礎とコンクリートパイルの杭基礎だ。盛り土になっている産廃処分場跡地は掘削できないため、置き基礎にし、それ以外のエリアは杭基礎を基本にした。

 杭基礎の施工では、メガソーラーで一般的な鋼製杭ではなく、「ハレーサルト」製のコンクリートパイルを採用した。ハレーサルトとは、セメントの一部に高炉スラグの微粉末などを使用し、耐塩害性、耐凍害性、耐硫酸性を向上させた長寿命コンクリートだ。

 事業用地の土壌を分析したところ、高い塩分濃度に加え、嫌気性の硫酸塩還元バクテリアを多く含むことが分かった。こうしたバクテリアの代謝生成物によって、鋼材や一般的なコンクリートは腐食のリスクが高くなる。ハレーサルトはこうした環境下でも、耐腐食性が高く、下水の設備などに多く使われてきた(図8)。

図8●「ハレーサルト」製のコンクリートパイルによる杭基礎
(出所:日経BP)
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ヌートリア対策に金網

 巨大メガソーラーでは、広大な敷地に、いかに速くかつ正確に基礎を設置していくかが、工期を達成するポイントになる。こうした施工技術では、青森県六ケ所村で148MWのメガソーラー建設で実績のある清水建設などのノウハウが生かされた(関連記事)。

 基礎の位置を決めるのに、GPS(全地球測位網)と独自の治具を使った。GPS距離測定器を使って、治具を置く位置を正確に決めると、複数の杭の位置が同時に決まるという方式だ。瀬戸内市のサイトでは、置き基礎の場合は3つ、杭基礎では前後6本で、1つのアレイを構成する。そこで、GPSで治具2カ所の設置座標を合わせて位置を決めることで、1アレイ分の杭6本を打ち込む位置を同時に確定させた。

 サブ変電所の設備設置では、外来種の「ヌートリア」への対策に気を配ったという。ヌートリアは、大型のげっ歯類(ネズミ)で毛皮目当てに日本に持ち込まれ、近畿や中四国に多く繁殖しているといわれる。噛む力が強く、稲や畑を荒らすだけでなく、電気設備などに侵入してケーブルを食いちぎるなどの被害が報告されている。

 そこで、サブ変電所のPCSやリングメインユニットの下部など、ケーブルが保護管からむき出しになる箇所にヌートリアが入り込まないように、出入り口になりそうな開口部すべてに金網を取り付けたという(図9)。

図9●ヌートリアの侵入を金網で防ぐ
(出所:日経BP)
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 こうしたサイト内の設備工事のほか、連系変電所から中国電力・西大寺変電所までの約16kmもの自営線の敷設工事も大掛かりなものとなった。公道下への地下ケーブルの埋設工事には、事前に自治区の了解を得る必要がある。自営線のルートは48自治区にまたがったため、各区の会長や工事関連の役員など約100人と交渉し、承諾を得ていったという。

 河川を超える箇所では、当初、架空線にすることで進めたが、地域関係者からの要望で、推進工法によって川の下にケーブルを通し、景観に配慮したという(図10)。

図10●16kmの自営線を通じて西大寺変電所で系統連系
(出所:日経BP)
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毎月広報誌を近隣に配布

 建設規模が大きく、工期が長くなることもあり、工事期間中の周辺住民に対する配慮にも力を入れたという。工事の進捗状況をまとめた広報誌を毎月作成し、近隣住民に配るなど、情報の積極的な提供に取り組んだという。

 サイト現場の工事では、ピークで1日約400人が建設工事に従事したという。作業者の出身地は、51%が瀬戸内市内、36%がそのほかの岡山県内、13%が岡山県外だった。商業運転開始後の発電設備のO&M(運営・保守)は、中電工が中心となって運営し、電気管理棟には、8人程度が常駐することになるという(図11)。

図11●電気管理棟の外観
(出所:日経BP)
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 「瀬戸内Kirei太陽光発電所」は、完成済みのメガソーラーで国内最大というだけでなく、自治体や地域と連携しつつ、自然環境にも配慮する、というメガソーラー、そして再生可能エネルギーのあるべき形を具現化している点でもたいへんに注目される。

 今後、発電事業だけでなく、自治体や近隣住民、自然環境に配慮しながら、いかに地域と共生していくかが、問われることになる。

●設備の概要
名称瀬戸内Kirei太陽光発電所
発電事業者特定目的会社(SPC)「瀬戸内 Kirei 未来創り合同会社」(米GEエナジー・フィナンシャルサービス、東洋エンジニアリング、くにうみアセットマネジメント、中電工が出資)
総事業費約1100億円
融資三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行の3行を幹事銀行とした28金融機関が参加したシンジケートローンによるプロジェクトファイナンス(約900億円)
住所岡山県瀬戸内市邑久町尻海4382-3外(錦海塩田跡地)
敷地面積約500haの塩田跡地のうち、約260haに発電設備を設置
土地所有者瀬戸内市
貸付料工事期間は年額1億円、売電開始後は年額4億円、地域振興に関する事業費16億円(総額101億円)
出力太陽光パネル容量・約235MW、連系出力186MW
着工日時2014年11月7日起工式
商業運転開始時期2018年秋
EPC(設計・調達・施工)東洋エンジニアリング、清水建設
O&M(運営・保守)中電工
太陽光パネル中国トリナ・ソーラー製、中国インリー・グリーンエナジー製(合計約92万枚)
パワーコンディショナー(PCS)東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製、米ゼネラル・エレクトリック(GE)製(合計約240台)
接続箱ABB製(約5000台)