「環境保全」と「安全安心」

 錦海湾の干拓地では、かつて製塩事業が営まれていた。「錦海塩田」として知られ、東洋一の規模を誇った。約500haの干拓地に海水を引き込み、水分を蒸発させる天日採塩法で生産した。だが、70年代に入ると製塩業はイオン交換法に転換が進み、競争力がなくなった。製塩会社は塩づくりから撤退、干拓地を活用した産業廃棄物処理に活路を求めた。

 しかし、2009年にこの製塩会社は倒産。その後、2010年12月に瀬戸内市が塩田跡地を買い上げた。干拓地はいまでも常時、ポンプで海水を汲み出さないと、陸地として維持できない。市による干拓地とポンプ施設の買い上げは、干拓地周辺の市民生活を守るための、まさに「苦渋の選択」だった。

 荒地となっていた広大な干拓地の再利用が課題となった。ゴルフ場や空港など、再開発を巡って様々な構想が出ては消えるなか、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)を利用したメガソーラー事業に託すことになった。

 メガソーラープロジェクトは、連系出力186MW、太陽光パネル容量約235MWの国内最大級の「太陽光発電事業」を核に、塩田跡地の浸水対策などを強化する「安全安心事業」、塩性湿地特有の多様な生態系を保全する「環境保全事業」という3つの事業からなる。

 安全安心事業では、長さ1640mに及ぶ堤防と排水ポンプの補強などを実施し、市に寄贈した。同事業は、地域住民の安全だけでなく、メガソーラー事業の災害リスクを低減するためにも重要だったため、発電設備に先駆けて着工・完工した(図3)。

図3●増強工事の終わった堤防
(出所:日経BP)
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 また、環境保全事業では、海沿いエリアに生息する動植物への影響を最小限に抑えるため、約16haの「錦海ハビタット」を整備した。干拓地は塩田事業が廃止された後、40年以上経つ。その間、海沿いには、雨水と海水の混じり合う塩性湿地となり、ヨシ原、小川、ヤナギ林などの混在する独特の生態系が形成されている。

 「錦海ハビタット」は、整備した後は、人の手を加えずに、自生の生き物によって生態系が維持されることを目指している。そのため、基本的には人が立ち入らない区域とし、自然観察のための遊歩道なども整備していない(図4)。

図4●塩性湿地の生態系を維持する「錦海ハビタット」
(出所:日経BP)
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 堤防やポンプの補強、湿地保全といった、本来、市の財政負担になる事業を民間資金で実施した点に、錦海塩田跡地の再開発プロジェクトの画期的な側面がある。