本コラムは、数々のイノベーションで広く知られる3Mグループにおいて、大久保孝俊氏が体得したイノベーション創出のためのマネジメント手法を具体的に紹介します。大久保氏は、自身で幾つものイノベーションを実現しただけでなく、マネジャーとして多くの部下のイノベーションを成功に導きました。

 今回から「イノベーションの設計図 個の設計編」に入る。これまで解説してきた「イノベーションの設計図 組織の設計編」は、組織やシステムに焦点を当ててきたが、個の設計編では、マネジャーや部員という個がテーマである。なぜ個の設計編が必要なのか、まず組織の設計編の要諦を振り返りながら、その理由を説明していこう。

組織の設計ではやる気を起こさせる

 組織の設計編の要諦は、「イノベーションに挑戦する『人』を、どのようにしてマネジメントの力で育成していくか」および「イノベーションに挑戦する『組織(人の集合体)』を、どのようにしてシステムの力で醸成していくか」である。その根底にある考え方は、「人を操るのではなく、感激させてやる気を起こさせる」ことだ。すなわち、「しなければならない」という恐れの感情を、「したい」という喜びに満ちた挑戦する力に変えることである。

 新しいことに挑戦する場合、過去の成功体験と将来への不安が邪魔をして、一歩踏み出すことを躊躇(ちゅうちょ)させ、結果として現在の“場”にとどまりがちになる。こうした状況では、他社の成功事例や、それを導いたマネジメント手法はあまり参考にならない。

 なぜなら、それは全て過去のもので、しかも現在の課題とは状況が異なるからである。そのため、組織の設計編では他社の事例や手法よりも、近年急速に発達してきた脳科学の知見を重視した。科学的な視点から人間の本質を知り、その本質に根差したマネジメントを実践するためである。

 しかし、適切なマネジメントとシステムがそろっていても、それらを実際の挑戦に活用できない人がいる。これはとても重要で冷徹な現実である。組織の設計編では、その人を「不燃性の人材」と表現した。いくらマネジャーが支援しても「燃えない人」だ。加えて、「安心」した状態ではマネジメントとシステムが効果的だが、「不安」な状態ではほとんど効かないという人もいる。