本コラムは、数々のイノベーションで広く知られる3Mグループにおいて、大久保孝俊氏が体得したイノベーション創出のためのマネジメント手法を具体的に紹介します。大久保氏は、自身で幾つものイノベーションを実現しただけでなく、マネジャーとして多くの部下のイノベーションを成功に導きました。

 最近、ある企業の研究所長から顧客の課題を解決するためのブレーンストーミングについて相談を受けた。「何回やっても、良いアイデアが出てこない」と、彼は話す。ブレーンストーミングは、何人かで集まり、あるテーマに沿って自由に議論しながら連想を広げ、アイデアを創出する発想法だ。日本でも広く行われているが、「良いアイデアが出てこない」という話もよく聞く。

アイデア創出を助けるものは何か

 図1は、アイデア創出のための教育プログラムを提供している米Stanford大学d.schoolがまとめたブレーンストーミングの8つの原則である1)。「質より量」や「突飛なアイデア大歓迎」など、皆さんも聞いたことがあると思う。こうした原則に沿って議論することはとても大事だが、原則を守ればアイデアが湧いてくるというものでもない。

図1 ブレーンストーミングの8つの原則1)
ブレーンストーミングで新しいアイデアを創出するためには守るべき8つの原則がある。この8つの原則は、米Stanford大学d.schoolがまとめたものを筆者が和訳した。
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 実際のブレーンストーミングにおいて、最も大切なのは質の高い参加者をそろえることである。ただし、ここでいう「質が高い参加者」とは勉強ができる人のことではない。顧客が困っている問題に直接かかわっており、それを自分の問題と捉えた経験がある人や、新しいアイデアに挑戦して失敗や成功を経験している人のことである(特に失敗の経験が重要だ)。さらに、こうした経験を踏まえた上で、自分たちの技術や組織の強みと弱みを身に染みて知っている人を加えてもよいだろう。いずれも、“経験の引き出し”を数多く持っている人である。

 筆者の経験からすると、経験のない人だけで長い時間かけて真剣に議論しても価値のあるアイデアが生まれる確率は低い*1。挑戦した経験がない人たちが集まって、マーケティング会社がまとめた顧客ニーズを眺めながらブレーンストーミングをしても、良いアイデアは創出できないのだ。だから、その研究所長には、「(上述のような)豊富な経験を持った人を加えてブレーンストーミングをすると有益ですよ」と答えた。

*1 これは経験を持たない人をブレーンストーミングから排除するという意味ではない。最初から経験豊富な人はいない。特に若手は経験が少ない。若手はブレーンストーミングに参加すること自体が経験になる。しかし、経験豊富な人が皆無の場合は、大きな成果は期待できない。

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