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スタジアムとアリーナが拓く未来

監督から経営者 FC今治“岡ちゃん”挑む「地方創生第2幕」

2017/12/27 05:00

内田 泰

 サッカーの日本代表監督として、1998年のフランス大会で史上初となるFIFAワールドカップ(W杯)への出場を導き、2010年の南アフリカ大会では再び監督を務めてベスト16の成績を残した“岡ちゃん”こと岡田武史氏。同氏は現在、JFL(日本フットボールリーグ)に所属するサッカークラブ、FC今治を運営する「今治.夢スポーツ」の経営者(代表取締役会長)として日々、奔走している。

 2017年9月、FC今治は約5000人を収容する、J3仕様のスタジアム「ありがとうサービス.夢スタジアム」を愛媛県今治市内にオープンした。しかしこれは、岡田氏が描く構想の“第1ステップ”に過ぎない。2014年11月にFC今治のオーナーに就任した当初は「サッカーのことしか考えていなかった」と振り返る同氏だが、現在では65歳以上の高齢化率が約33%にも達し活気を失いつつある今治の街を再び元気にするための壮大な構想を描く。その核となるのが、新たに建設を計画する健康とスポーツをテーマにした「複合型のスマートスタジアム」である。

 「第二創業期」を迎えたFC今治は、今治市に活気を取り戻すための構想実現に向けて次々と新規事業を立ち上げていく方針だ。そのために今治.夢スポーツは2017年12月21日、新規事業を成功に導くプロの経営人材の公募を転職サイト「ビズリーチ」で開始した(詳細はこちら)。募集するのはサッカー以外の事業を運営する「クラブ事業本部」を統括する執行役員で、業務内容はマーケティング、スポンサーシップ、イノベーション、アドミニなど多岐にわたる。公募の締め切りは2018年1月17日である。岡田氏に、複合型スマートスタジアムを起点にした“今治再生”のビジョンを語ってもらった。(聞き手=日経テクノロジーオンライン 内田 泰)
FC今治の試合の様子。現在、JFLに所属する(写真:FC今治)
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当初求めた「岡田メソッド」実践の場

 

 正直言って、今治に来た当初はサッカーの事だけを考えていました。別に今治でなくても、日本人が世界で勝つための型「OKADA METHOD(岡田メソッド)」*1を、16歳までの若い選手に落とし込めるチームをどこかで作りたいと思っていたのです。

*1 サッカーのプレーを「原則」として整理し、その原則から導き出されたプレーの「KATA(型)」を含む「プレーモデル」をバイブルとし、そこから導き出された基本的な「トレーニングプログラム」、「コーチング理論」、「ヒューマンルーツプログラム」 「フィジカル」「コンディショニング」「ゲーム分析法(KPI評価)」。岡田氏が考案した。

 実際、Jリーグの3つのチームが「全権を任す」と私を誘ってくれましたが、それを実現するには既存の指導法やシステムをいったん全部つぶさなくてはいけない。だったら10年かかってもいいから、一からできるところが良いと考えていました。

 たまたま、仕事を手伝っていた先輩がサッカーが好きでアマチュアチームを今治で所有していました。それで、やりたいのなら株式を51%取得してくれということで、FC今治のオーナーになり、今治市に移住しました。2014年のことです。

 ところが、今治市に住んで街を歩いてみたら、中心街にあったデパートの跡地が更地になっていたり、駐車場になっていたりしました。そして、港に通じる商店街には誰ひとり歩いていない。その時感じたのが、FC今治がたとえ成功しても“立っている場所”がなくなってしまう、ということでした。

サッカーだけでは限界がある

今治.夢スポーツ 代表取締役会長の岡田武史氏
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 では、どうしたらいいのか。最初は「今治モデル」を考えました。サッカーでFC今治を頂点として、少年団や中学・高校生を含むピラミッドを作る。そこに所属するチームには、岡田メソッドを体得した指導者を無償で派遣。頂点の今治FCが強くなれば、全国、そしてアジアから育成に入りたい若者や子供たちが来る。そして指導者も勉強しに来る。

 外から来た若者たちは、高齢者だけが住む家にホームステイして世代を超えて交流する。気がついたら、人口16万人弱の今治市がコスモポリタンとなって活気を取り戻す。これが今治モデルです。

 ところが、サッカーだけでは限界があることに気づきました。サッカーで人が集まると言っても、せいぜい何十~何百人にしかなりません。しかも、将来目標とするJ1に昇格するときには1万5000人収容のスタジアムが必要となるので、そこに「複合型スマートスタジアム」を建設したらどうかと考えました。

スタジアムは“祭りの場”

 最近、日本ではスタジアムを建設するというとコスト面ばかりが注目されて批判を浴びたりします。しかし、行政が税金を投入して“実力値”以上のスタジアムを造るのが時代遅れというだけで、スタジアムが不要ということは全くない。スタジアムはある意味、“祭りの場”なんです。

 欧州へ行けば、ほとんどの街に「ドーモ前広場」「市庁舎前広場」などがありますが、日本にはそれがありません。昔は寺社仏閣がその役割を果たしていましたが、街が大きくなったことでその役割を賄えなくなった。でも、そういう場があれば、普段は散らばっている人たちが年に1回、祭りのために集い歴史を積み重ねていくのです。

 だから、年間数十試合のサッカーの試合をやるためだけのスタジアムは、これからは要らないと思っています。スタジアムを常に人が集まる“場”にしなければいけない。

 イタリアのサッカー強豪のユベントスは以前、「スタディオ・デッレ・アルピ」と呼ばれた6万7000人収容の陸上トラックを併設したスタジアムをホームにしていました。現在はそれを取り壊し、2011年~2012年シーズンから、ショッピングモール、レストランなどを併設する4万2000人収容の複合型スタジアム「ユベントス・スタジアム」をホームにしています。

 スタジアムを複合化することで大きな変化があったようです。以前、イタリア人の観客は試合開始の15分前にスタジアムに来て、試合が終わったらさっさと帰って行ったそうです。それが、新スタジアムでは試合の2時間前から人が来てそこで過ごし、試合後も1時間半ほど人が残るようになりました。

 さらに、100マイル(160km)より遠方から訪れる人の割合が、以前の10%以下から55%に急増したそうです。サッカー好きのイタリア人でさえ、わざわざ100マイル離れた場所からは来なかったのに、「半日過ごせる場」にしたらそれが大きく変わったのです。

 これは我々にとって貴重な情報でした。今治市は人口が16万人弱しかいません。1万5000人のスタジアムを満員にしようと思ったら、周辺の西条市、新居浜市などを合わせた50万人でも無理。バックヤードに100万人が必要になります。でも、スタジアムを複合型にして、隣接するイオンモールなどと組んでエリア全体で半日過ごせる場所を造ればいけるのではないか、という考えに至りました。

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