日経Automotiveのメカニズム基礎解説「第10回:4輪駆動システム(上) 高速走行時の安定性高める、センターデフの違いで4種類」の転載記事となります。

 四つめの「多板クラッチ式」は、トランスファーで分配した駆動力を、多板クラッチの制御によって補助的な駆動軸に伝え、トルクを変化させるもの。多板クラッチの代表例が、電子制御式オイルポンプで作動する「ハルデックスカップリング」である(図5)。

図5 多板クラッチ式の例
図はAudi社が採用した最新のハルデックスカップリングで、専用ECU(電子制御ユニット)を備える。電動油圧によりクラッチディスクを押し付ける力を調整することで、トルク配分を変化させる。
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 多板クラッチ式は一見、ビスカスカップリング式に似ている。だが、ビスカスカップリング式が主の駆動軸が滑っていくほどにもう一方の駆動軸に駆動力を伝達するのに対し、この方式は多板クラッチを油圧や電動で制御するため、前後のトルク配分を自由に設定できる。補助的駆動軸にも常時駆動力を伝えられる(図6)。

図6 富士重工業の多板クラッチ式のシステム
チェーン型CVT(無段変速機)とフルタイム4WDを一つのユニットに収めている変速機。変速機後部で出力し、トランスファーを介してフロントデフまでシャフトで駆動力を伝達する。フロントデフまでは機械的に結合されていることから、基本はFFであることが分かる。トランスファーの後部に多板クラッチを設け、リアデフへのトルク配分を調整する。
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 同じ構造のまま制御パラメーターを変化させることでハンドリング性能なども自在に調整可能だ。このため現在、最も洗練された機械式フルタイム4WDの方式として高級車を中心に採用が進んでいる。

制御でシャシー特性を調整できる

 多板クラッチ式のフルタイム4WDを油圧、あるいは電動により制御して前後の伝達トルク制御に用いることで、エンジンの搭載位置やベースとなるレイアウトに関係なく自由なシャシー特性を与えることができるようになってきた。すなわちFFベースの4WDでもFR的なシャシー特性を与えることが可能なのだ。主たる駆動輪を前後どちらで設定するか、トルク配分の特性などのチューニングによりシャシー特性を大きく変えられる。

 実際にはエンジンの搭載位置など質量配分にも影響は受けるが、前輪タイヤへのトルク配分の比率が高ければFF車に近い直進安定性優先のシャシーとなる。後輪タイヤへのトルク配分が高ければ、前輪タイヤはコーナリングフォースにグリップをより多く使えるため、ハンドリング性能が向上するというわけだ。

 多板クラッチを完全に締結すると基本的には前後で50:50のトルク配分になる(さらにギアなどにより前後で差を付けている場合もある)。しかし主たる駆動輪側は変速機とギアによる結合をしており、常に駆動トルクの供給を受けている。

 任意に、あるいは自動的に前後のトルク配分が変化した場合、主たる駆動軸への駆動力は常に安定している。これにより、駆動トルクの変動によるハンドリング特性の変化は少なく、タイヤのグリップが失われつつある状態でも、高い安定性と操縦性を実現しやすいのである。

 多板クラッチは差動制限装置も兼ねるが、前後輪軸にはそれぞれデフギアが組み込まれるため、片輪が空転するほどの状態になると、残る駆動輪は駆動力を失ってしまう。それを防止しながら高い走破性を維持するため、低μ路での走行の際に備えて空転する車輪にのみブレーキをかけることで、他の3輪に駆動力を分配するECB(電子制御ブレーキシステム)を搭載して差動制限する車両も増えている。

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