ベンチャー3社競演、バイエル薬品の第2回「Grants4Apps」

メトロネット、ナノティス、ファミワン――大賞は…

2016/12/07 15:30
小口 正貴=スプール

 バイエル薬品が展開する「Grants4Apps Tokyo」。ベンチャー企業や医師、アプリ開発者などを巻き込んだ、デジタルヘルス領域でのオープンイノベーションプログラムだ。バイエル薬品が毎回課題を設け、それに対しデジタルヘルスによる優れた課題解決策を提示した企業やチームを表彰する(関連記事)

 第1回は「服薬アドヒアランスを改善する革新的な解決方法」をテーマとして開催。慶応義塾大学 医学部 循環器内科の木村雄弘氏らによる「飲み忘れゼロ!プロジェクト」が最優秀賞(大賞)を獲得した(関連記事)。これに引き続き、第2回は「ベターライフのための革新的なモニタリングソリューション」をテーマに実施。2016年12月2日に、第2回表彰式が東京・京橋のイベント会場で行われた。

 数多くの応募の中から最終選考に残ったベンチャー3社(メトロネット、ナノティス、ファミワン)がプレゼンテーションを行い、大賞を競った。果たして大賞に選ばれたのは…。3社のプレゼンテーションと表彰式の様子を見ていこう。

熟練医師の問診ノウハウを詰め込む

 最初に登壇したメトロネットは、筑波大学のNPO法人「筑波総合診療ネットワーク」との産学連携によって2015年12月に設立されたベンチャー企業。こうした背景から、冒頭に代表取締役社長の福田哲夫氏が簡単な挨拶をし、続くプレゼンテーションは顧問を務める筑波大学 地域医療教育学教授の前野哲博氏が担当した。

メトロネット。奥が代表取締役社長の福田氏、手前が筑波大学教授の前野氏
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 同社が目指しているのは、健康ナビシステムの事業化。具体的には医師が鑑別診断を行う際の思考をシミュレートした臨床推論アルゴリズムを開発。本アルゴリズムを搭載するアプリケーションソフトを開発中で、既に「問診ナビ」の名前で特許を出願している。代表の福田氏は「セルフメディケーション、プライマリケアにおいて、医師から手軽にアドバイスを受けられる業界初の健康サポートツール」を自負する。

 概要を説明した前野氏は、総合診療科の医師として地域住民に最も近い立場で日々の診療に携わる。冒頭、前野氏は「一般の人が体調不良になった場合、適切な行動を取るためには専門的な医学知識が必要」と力説しながらも、その知識がないために受診が必要なのに我慢してしまったり、夜中に気軽に受診してしまう“コンビニ受診”が頻発したりしている現状を指摘。「この問題をデジタルヘルス技術を用いて解決したい」と述べた。

 予定されるアプリの画面には「頭痛」「関節痛」「しびれ」などといった主訴(患者が最も強く訴える症状)が24項目表示され、該当する項目を選択した後に「いつからですか」「どこが痛みますか」「急に始まりましたか」などの質問に答えていく。医師として25年の経験を持つ前野氏のノウハウを集約したもので、「総合診療科である私が外来で聞きたいことを、聞きたい順番に、聞きたい選択肢で表示されるように作成してある」(前野氏)とした。

開発中のアプリ入力画面イメージ
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 質問に答えた結果により、レッドフラグ(すぐに受診すべき)、イエローフラグ(できるだけ早く受診すべき)、グリーンフラグ(少し様子を見てもよい)の3段階のアドバイスが出力される。一般利用者の教育を兼ねている点もユニークだ。「例えば秒単位で突発する頭痛の場合、くも膜下出血を疑うべき。その場合、なぜ疑わなくてはならないかが表示されるので、利用者の学習ツールとしても利用できる」(前野氏)。

 医療従事者にとっても利点がある。それぞれの質問項目をフレーズでつなぎ合わせて1つの文章として出力する機能を備えており、その内容をカルテに貼り付けて医師が使える質を担保している。「病院に行った際にすぐに見せれば、瞬間的に医師が最もほしい情報が適切に伝わる。あるいは医師がいない介護施設、または在宅で患者が不調な場合、電話で文章の内容を伝えれば、医療者は重要な情報をすぐに入手することができる」(前野氏)。質問の内容は一言で済んでしまう平易なものだけに、翻訳も容易。外国人とのコミュニケーションツールとしても有効だとした。

 なお、この健康ナビシステムはあくまでも病院にかかることをアドバイスするツールであり、前野氏は「医師の決断を肩代わりするものではない」ことを強調。今後はデータベース化を図りながら、より一層アドバイスの精度を高めていきたいとした。

チップとアプリで簡易にインフルエンザ検査

 続いて登壇したナノティスも、2016年6月に設立されたばかりの若いベンチャー企業。壇上に立った代表取締役 CEOの坂下理紗氏は、「ナノティスとは、ナノテクノロジーと健康に気づく“notice”をかけ合わせた造語」と社名の由来を説明した。

ナノティス代表取締役 CEOの坂下氏
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 同社が提供するのは、「どこでも誰でも迅速健診」をモットーにしたインフルエンザ検査キットである。DNA検査や生体物質分析などに用いられるマイクロ流路を集積した使い捨てチップと、検査結果を可視化するスマートフォンアプリのセットとなる。

 毎年多くのインフルエンザ患者が発生するが、その多くは小児だという。しかし、検査結果が出るまでに待合室でウイルスに罹患するリスクも結構高く、坂下氏は「痛みと時間を伴うインフルエンザ検査の問題を解決したかった」と語る。加えて医療従事者も一定の時間を取られてしまうことから、その手間を軽減することも視野に入れている。チップとアプリによるソリューションは現在開発中だが、将来的には次のような利用方法を考えている。

 「パッケージを開け、チップを出してそれを舐める。スマートフォンのアプリでチップを撮影すると、1分以内に結果が表示される。QRコードを読み取るような感覚で、インフルエンザにかかっているかどうかがわかる。患者は痛みを伴わず、医師がカルテを書いている間に結果が出るため、これまでにないイノベーションがもたらされるはずだ」(坂下氏)。

ナノティスのインフルエンザ検査キットのイメージ
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 チップのコア技術には自信を持っており、「弊社が独自に開発を進めているノウハウは低コストかつスピーディに量産できる可能性がある」(坂下氏)と強調する。共同研究のパートナーにはMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)研究の第一人者である東京大学生産技術研究所の藤田博之研究室を迎えた。2016年8月31日に米国特許仮出願を完了済みだが、日本国内では規制の壁があり、どのように発展させていくかは未知数だ。だが日本でも個人が使えるようになった暁には、ドラッグストアやネット通販でチップを購入して、「絆創膏のような感覚で自宅に配備しておける」(坂下氏)とした。

 スマートフォンと連動することで、検査データをクラウドで運用できるのもポイントだ。このデータを活用し、世界地域別の流行予測や服薬量のモニタリングへも応用が利くとする。一方でインフルエンザ検査は入口に過ぎないという。「例えばジカ熱、デング熱などほかのウイルス性疾患、または、がんやバイオマーカーへの応用ができると考えている。理想としては個人が自宅で簡易にがん検診を行うことを可能にしたい」(坂下氏)。さらには農業や畜産業への展開なども想定する。その上で坂下氏は「ライフサイエンス、医学への全く新しいイノベーションを起こしていきたい」と力強く結んだ。

“妊娠しやすい生活習慣”をアドバイス

 最後に登壇したファミワンは、「妊活・不妊治療」に特化したソリューションを提供する。プレゼンを行った代表取締役社長の石川勇介氏はまず、「日本国内では約6組に1組の夫婦が実際に不妊治療の検査を行ったことがある」とのデータを示した。これは国立社会保障・人口問題研究所による「第15回出生動向基本調査(2015年)」から明らかになったものだ。

ファミワン代表取締役社長の石川氏
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 また、日本産科婦人科学会が公表した統計では、2014年に実施された体外受精の回数は約39万回に上る。「体外受精の件数は爆発的に増えているが、出生数はさほど増えていない。40歳を超えると出産に至る確率が10%以下になるためだ。治療している40%以上が40歳以上との現実もある」(石川氏)。そこでファミワンでは、「妊活を科学する観点で貢献したい」(石川氏)との思いから、妊活のためのパーソナライズドサポートサービス「FLIPP(フリップ) 妊娠力判断」を2016年7月から開始した。

 サービスの内容は「食事」「運動」「夫婦関係」「ストレス」「生活習慣」の5項目から100問を設定し、質問に答えながら自身の妊娠力を判断していくというもの。ただし、あくまでも“アドバイス”であり、診断・治療でないこところは最初に登壇したメトロネットと同じスタンスだ。設問に関しては、聖路加国際大学の不妊症看護認定看護師教育課程専任教員である川元美里氏が監修した。ここで収集したデータを、データ解析のスペシャリストである東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授の山崎俊彦氏が解析する。

妊活パーソナライズドサポートサービスのイメージ
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 「より多くのデータを収集し、ビッグデータ解析とAIによってアドバイスと精度向上を図っていきたい。何よりもまず、治療者が妊娠に近づくためのレコメンドの精度を上げるのが目的だ」(石川氏)。

 現在は生活習慣のアンケートをベースとしているが、先々はウエアラブルデバイスからの日常生活の生体データ、実際の不妊治療時のデータなどを融合してさらに妊娠に役立つ情報を出していきたいとする。不妊治療は時間的・身体的な問題に加え、金額的な負担も大きいことから、石川氏は専門家が監修するこうしたサービスを少しでも役立ててほしいと話した。

大賞は…、そして次回テーマは…

 3社のプレゼン後、バイエル薬品の関係者が審査を担当し、「大賞」「グッドテクノロジー賞」「ヘルシーライフ賞」を発表した。

表彰後の記念撮影。左端はプレゼンターを務めたバイエル薬品の高橋氏
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 大賞に輝いたのはナノティス。プレゼンターを務めたバイエル薬品 オープンイノベーションセンター センター長の高橋俊一氏は、「検査の簡便性と、きちんと技術に裏打ちされたチップ性能の高さ。今後の展開やプレシジョンメディスン(精密医療)の可能性には、製薬企業としても興味がある」と高く評価した。そのほか、グッドテクノロジー賞はファミワン、ヘルシーライフ賞はメトロネットが受賞した。

 Grants4Apps Tokyoは2017年も2回の開催を予定。次回のテーマが「データサイエンスチャレンジ」であることが発表された。デジタルヘルス分野におけるデータ分析の精度を競うもので、これまでとは異なり、ある種の競技会の様相を呈している。応募開始は2017年3月となっている。