テクノロジーの進歩はスタートアップが牽引する――。近年のIT業界における傾向は、量子コンピュータの分野にも当てはまる。米国やカナダでは量子コンピュータのスタートアップが次々と現れ、大手IT企業に負けじと独自のハードウエア開発に乗り出している。

 「我々が開発中の量子コンピュータは拡張性が高く、既に50個以上の量子ビットを実現している」。米メリーランド州に本拠を置くスタートアップIonQのDave Moehring CEO(最高経営責任者)は2017年12月上旬にシリコンバレーで開催された「Q2B Conference」に登壇し、同社が開発中の「イオントラップ型」の量子コンピュータの利点を訴えた(写真)。

写真●米IonQのDave Moehring CEO(最高経営責任者)
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 現在、米IBMや米Google、米Microsoft、米Intelといった大手IT企業が量子コンピュータの開発にしのぎを削っているが、スタートアップによる独自の量子コンピュータ開発も盛んだ()。大学などの研究者が自身の研究成果を商用化するために起業し、有力ベンチャーキャピタル(VC)が数十億円規模の資金を投じている。

表●量子コンピュータを開発する主なスタートアップ
方式ハードウエア所在地企業名調達額
量子ゲートイオントラップ米国IonQ2200万ドル
量子ゲート超伝導米国Quantum Circuits Inc(QCI)1800万ドル
量子ゲート超伝導米国Rigetti Computing6920万ドル
量子アニーリング超伝導カナダD-Wave Systems2億ドル

有力大学からスピンアウト

 IonQもそうしたスタートアップの1社だ。IonQは米メリーランド大学のChristopher Monroe氏と米デューク大学のJungsang Kim氏という二人の量子コンピュータ研究者が、10年以上前から研究を進めてきたイオントラップ型量子コンピュータを商用化するために、2016年に起業した。

 量子コンピュータは、「0」と「1」の両方が同時に存在する「量子ビット」を使用する。IBMやGoogleは量子ビットを超伝導デバイスで実現している。それに対してIonQは「捕捉イオン」によって量子ビットを実現し、イオン列にレーザーを照射することで量子ビット間の「量子もつれ(エンタングルメント)」などを操作する。なおIBMやGoogle、IonQが開発しているのは、量子ビットを複数組み合わせた「量子ゲート」を使う「量子ゲート方式」の量子コンピュータである。

 IonQはイオントラップ型量子コンピュータを2018年に商用化する予定だ。Moehring CEOは同社のハードウエアが量子ビットを増やしやすいという意味での「スケーラビリティ(拡張性)」に優れており、ラボでは既に50個以上の量子ビットを実現していると主張する。またイオントラップ型では全ての量子ビットの間で相互に「量子もつれ(エンタングルメント)」を発生させられる点が、他社に比べて優れているのだという。

 IonQが興味深いのはその出資者だ。同社にはシリコンバレーの有力VCであるNew Enterprise Associates(New Enterprise Associates)や、米Alphabet(Googleの親会社)のVC部門である米GV、さらには米Amazon.comが出資し、2017年7月までに2200万ドルもの資金を調達している。

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