衛星写真を解析することで、原油生産量や小売業の客足などをいち早く割り出す――。米国の投資家はSF映画のような手法を駆使して投資判断をしている。彼らが頼るのはシリコンバレーのAI(人工知能)スタートアップ、米Orbital Insightだ。2017年11月に日本進出を発表した同社の凄さに迫ろう。

 2016年第1四半期を境に、サウジアラビア政府が発表する原油貯蔵量の数字が現実の数字と乖離し始めた。同国の原油貯蔵量は政府が発表したデータよりも、本当はずっと多い――。英国の経済紙「Financial Times(FT)」は2017年11月上旬、政情不安で揺れる中東の大国の“秘密”を暴く記事を掲載した。

 サウジアラビア政府と言えば、外国人の入国を厳しく制限するなど秘密主義で知られる。そんな同国政府がひた隠しにする原油貯蔵量データを報道機関に明かしたのは、匿名の政府要人か、石油メジャーか、それとも大国の情報機関か。実はFTが記事で言及した“ネタ元”は、米マウンテンビューに本社を構えるスタートアップのOrbital Insightだった(図1)。

図1●サウジアラビア政府発表の原油貯蔵量(緑)とOrbital Insightの予測量(青)
出典:米Orbital Insight
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 Orbital Insightは、衛星写真をAIによって解析することで、地球上で展開されるさまざまな経済活動の最新状況を割り出すサービスを提供する。原油貯蔵量であれば、世界中にある2万4000個以上の原油タンクの「浮き屋根」に着目する。原油タンクの屋根は固定式ではなく、原油の上に浮いている。そのため原油タンクを上から観察すると、石油タンクの壁面の影の大きさから浮き屋根の高さが分かり、そこから原油タンクの残量が分かる(図2)。

図2●原油タンクの影の形
出典:伊藤忠商事/スカパーJSATのプレスリリース
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 同社は原油タンクの影の大きさなどから残量を割り出す画像解析エンジンを機械学習ベースで開発。米DigitalGlobeや欧州Airbus、米Planet Labsといった民間の衛星会社から購入した世界中の衛星写真を分析することで、原油タンクの残量を月次や週次といった高頻度で割り出している。

半分しか知られていなかったサウジの原油タンク

 そもそも経済協力開発機構(OECD)に加盟するような先進国は、原油貯蔵量などの経済統計を正確に発表しているが、サウジアラビアのようなOECD非加盟国の場合は、政府が発表する経済統計が不正確だったり、そもそも原油タンクの数や場所自体が明らかにされていなかったりする

 例えば、Orbital InsightのAIが衛星写真をもとにサウジアラビアの原油タンクをくまなく探し回ったところ、石油業界の調査会社が過去に割り出した数の2倍に相当する原油タンクが同国にあることが分かった。さらに2014年以降の衛星写真を解析すると、AIが導き出した同国の原油貯蔵量と、サウジアラビア政府が国際機関のJODI(Joint Organizations Data Initiative)に報告してきたデータとに不整合があることが判明した。

 サウジアラビア政府は原油価格が下落し始めた2016年第1四半期から現在までの間に、同国の原油貯蔵量が25%も減少したというデータを公表していた。しかし実際には、同国の原油貯蔵量は減少するどころか増加していたのだ。Orbital Insightのような民間企業が政府機関よりも正確なデータを算出することで、投資家はより正確なデータに基づいて投資判断ができるようになった。

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