自動車に数多くの半導体デバイスが搭載されるようになり、EMC性能の確保は難しくなるばかりだ。また、自動運転やセンサー技術の進化により、より高速なインターフェースを用いた通信が必要となっている。日経BP社は「車載機器のノイズ対策/EMC設計 マスターシリーズ」と題した全3回のセミナーを、技術者塾として開催(詳細はこちら)。その第1回となる「EMC設計のためのシグナルインテグリティー解析技術」が2018年2月23日に開催される(詳細はこちら)。本講座で講師を務める河村隆二氏(イノテック 設計解析ソリューション部 部長)に、ノイズ対策のポイントや、今後のニーズに対応するために必要なことなどを聞いた。(聞き手は、田中直樹)

河村隆二氏
(イノテック 設計解析ソリューション部 部長)

――「ノイズ対策、EMC(Electromagnetic Compatibility)設計に悩んでいる」「トラブルが起きてしまったが、少しでも早く解決したい」という切実な声を多く聞きます。

 ノイズ対策、EMC設計では、基礎をしっかりとマスターして、本質を理解することが大変重要です。しかし現実には、これまでの経験や勘に基づいた対策が取られるケースや、ICメーカーからの指示をそのまま適用する設計が多く見受けられます。EMCの設計においても、EMCの要素であるシグナルインテグリティー(SI)、パワーインテグリティー(PI)への取り組みにおいても共通しています。

 今回の講座では、SI/PI/EMCの基礎事項をしっかりとマスターし、これまで実施してきた設計の技術的な裏付けを獲得することで、今後の設計をより良くしていくためのベースを築くことを目指します。SI/PIでは、解析結果や実測結果に基づいて原因究明や改善をしていきますが、解析結果や実測結果の意味を正しく理解できる力を身に付けることによって、原因究明までの時間や改善のためのコストを削減することが可能です。

 こうした理由から、私はこれまでの講座でも、受講者の皆さんが基礎をしっかりとマスターできるように心掛けてきました。これまでの受講者からは、「2~3年前にこの知識があれば、こんなにトラブル解決に時間がかからなかったのに」「過去のトラブルがなぜ解決できたのか。その理由が技術的に理解できた」といった声を実際にいただいています。

――SI/PI/EMCのスキルは、今後さらに重要になっていくのですか。

 データ転送速度の増加やそれに伴う消費電力の抑制のニーズが高まることで、SI/PI/EMCに関する知識や理解はますます必要になってきます。

 データ転送速度の増加に伴い、信号の立ち上がり時間はどんどん速くなります。そのため信号間のクロストークノイズやDRVとRCV間の配線トポロジーに伴う反射も増大し、波形のマージン確保が難しくなってきています。さらに、ハイエンド領域では信号の伝送速度は10Gビット/秒を超え、高周波固有の信号の減衰はより顕著になっています。LSIからの引き出し部、線長調整のためのミアンダ配線、ビアや部品の実装パッドなどの微小な配線経路上のインピーダンス不連続すらも無視できなくなってきます。

 一方、電源電圧は1.0Vを下回り、電源電圧の揺れに対する許容度がますます厳しくなっています。また、入出力バッファーの同時動作によって、信号波形にひずみが生じる同時スイッチングノイズの影響が顕著になり、アナログ電源やPLL電源のようなノイズ感度が高い電源へのノイズ伝搬に起因する問題も発生しています。コスト削減の要求も高まり、基板の層数削減、基板サイズの小型化、両面実装から片面実装に変更、よりコストの安い部材を使用、対策部品を増やすことなく設計を最適化することで問題箇所を改善するといったことを検討する必要があります。

 これらに対処するために、SI/PI/EMCの基礎技術は今後ますます必要とされます。私が所属する部門ではSI/PI/EMCの対策を専門に行っていますが、顧客からのノイズ対策の依頼数が年々増加していることからも、これらの該当技術の必要性を肌で感じております。

――知識の習得と理解を進める上でのキーポイントは。

 実設計においては、SI/PI/EMCのいずれも、さまざまな要素が組み合わさった結果として現れます。

 SIであれば、伝送速度、LSIに供給される電源、ドライバーの回路の統計的なばらつき、信号配線パターン、終端抵抗値、レシーバー部の負荷容量、外気温度や湿度などです。PIにおいては、電源電圧値、LSIのパッケージ形状、LSIのスイッチング電流値、レギュレーター回路や配置場所、パスコンの定数や配置などです。EMCにおいては、信号配線や電源配線によって構成される疑似アンテナ、ノイズ源となるLSIの過渡電流、基板に接続されるケーブルやフィルター回路などです。原因特定のためには、これら一つひとつの要素を分解して、それぞれが信号波形に対してどのような影響を与えるのかを理解することが必要です。

 また、SI/PI/EMCは体系的には別なものではありますが、物理的には同じ発生メカニズムで生じる現象であったり、SIに対しては良好な効果がある対策方法だとしても、EMCとしては悪化する結果をもたらすといった相反する関係にある要素などもあります。それぞれの関係性を正しく理解することが重要なポイントといえます。