デンソー電子基盤技術統括部担当部長の神谷有弘氏
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 クルマの低燃費競争を背景に、車載電子機器の小型・軽量化が加速している。そこで技術者の頭を悩ませているのが、熱設計だ。車載電子機器がコンパクトになるほど、高耐熱・放熱設計は難しくなる。ここに、部品構成の多種多様さが車載電子機器の熱設計の難しさに拍車をかける。「技術者塾」において「車載電子機器の高耐熱・放熱設計を事例解説」の講座を持つ、デンソー電子基盤技術統括部担当部長の神谷有弘氏に車載電子機器の熱設計の勘所や学ぶポイントなどを聞いた。(聞き手は近岡 裕)

──車載電子機器を対象とした熱設計の講座が「技術者塾」で人気です。今、車載電子機器の熱設計の分野では何が起きているのでしょうか。

神谷氏:熱設計の大切さを改めて技術者に認識させたのは、デジタル家電がピークを迎えたときでしょう。薄型テレビが大画面になり、液晶パネルなどの放熱をどうするかという課題が浮上しました。これをきっかけに、車載電子機器の放熱設計にも多くの技術者の目が向けられるようになりました。

 クルマは今、低燃費とそれを支える車体の軽量化に向けて開発が加速しています。この動きに合わせて、車載電子機器の小型・軽量化のニーズが以前に増して高まっており、より小さく設計することが求められています。ところが、車載電子機器を小型化すると表面積が小さくなる。同じ消費電力の場合、表面積が小さくなると放熱が難しくなります。結果、従来の放熱設計が通用しないケースが出てくるのです。事実、そうした事例が最近増えてきました。

──小型・軽量化の流れは、スマートフォンなどの携帯機器やウエアラブル機器などでも同じだと思います。こうしたデジタル製品と車載電子機器では熱設計に差があるのですか。

神谷氏:デジタル製品(民生品)の場合、比較的構造がシンプルです。主要部品は回路基板とディスプレー、電池、筐体程度で、専用の冷却系がない場合が普通です。おまけに、スマートフォンではあまり小型化すると画面が小さくなって使いにくくなる。軽量(薄型)化もいきすぎると壊れやすくなります。つまり、構造がシンプルで小型・軽量化にも限りがあるため、熱設計の方向性が見えやすいと言えます。

 これに対し、車載電子機器は構造が複雑である上に、小型化の余地は大きい。しかも、機器によって部品の構成が違います。そのため、小型化のための選択肢がたくさん存在する。そして、それに応じて熱設計も変える必要があるのです。

 確かに、回路設計(半導体)を見直すことが小型化の原理・原則(基本)であることは民生品と同じです。しかし、車載電子機器の場合、回路設計の他にパワーデバイスやチップセット(複数の集積回路)、部品、冷却系、さらにはアクチュエータなども考慮する必要がある。部品を代替するにしても、信頼性によって選ぶ部品も異なってきます。こうした複雑な条件を踏まえながら、熱設計と組み合わせた小型化を進めていかなければなりません。

 車載電子機器によっては単純な小型化を求めずに、パッケージに収めることを狙うものもあります。例えば、モーター機能付き発電機「ISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)」。コントローラーまで含めて1つのパッケージングに収めた機器です。このISGでは全体をできる限り小さくしつつ、パッケージングされた複雑な構成の熱設計を考える必要があるのです。

 つまり、車載電子機器の熱設計には「こうすればよい」という定石の方法はなく、たくさんある選択肢の中からベストの方法を見いだす必要があるのです。車載電子機器の熱設計の難しさはここにあります。