記事一覧

次世代福祉、コストから経済への転換

パラスポーツからヒーローを――「Team Xiborg」の挑戦

「記録」と「記憶」に残る選手を生み出す、テクノロジーと環境の進化

2016/11/24 00:00

久我 智也、浅野 智恵美

なぜ、障害者スポーツにヒーローが求められているのか

 2020年東京パラリンピックの開催まで4年を切り、障害者スポーツへの注目度は日増しに高まっている。それに伴って障害者スポーツを支援する企業も増えてきており、今、障害者スポーツを巡る環境は変わり始めている。しかし、障害者スポーツに関わる人々は、現在の状況を楽観視していない。「2020年以降もこの熱が持続するのか」「2020年に向けた一過性のものではないか」という疑念を抱いていることが多いのも事実である。

 熱を持続させるためには、国の支援や競技団体の地道な普及活動など、必要なことはいくつもあるが、その中でも最も分かりやすいのは「ヒーローの登場」だといえるだろう。「障害者スポーツ」「健常者スポーツ」という垣根どころか、「スポーツ」という枠自体を飛び越え、社会現象を巻き起こすような存在が登場すれば、否応なしに熱は高まる。もちろん、ヒーローが誕生したからといって手をこまねいていては、やはり一過性のものになってしまう危険性はある。しかし障害者スポーツがより高いレベルに進むためには、誰もが憧れ、目標とするような存在が求められている。

 では、障害者スポーツにヒーローが誕生するには何が必要となるのか。「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展(以下、超福祉展)」で行われた、スポーツ用義足「Xiborg Genesis」を開発するXiborgの執行役 井上友綱氏と、リオデジャネイロパラリンピックの陸上男子4×100mリレーで銅メダルを獲得した佐藤圭太選手(トヨタ自動車)によるシンポジウム「障がい者スポーツからヒーローを生み出そう」で、そのヒントが語られた。

ロンドン、リオと2大会連続でパラリンピックに出場している佐藤圭太選手。15歳までサッカーをしていたが、ユーイング肉腫の影響で右足の膝から下を切断。高校に入学後、再びサッカーを始めるために、リハビリの一環として陸上競技を始める。18歳のときには200m走の日本記録を更新。ロンドンパラリンピックでは4×100mリレーで4位入賞、リオデジャネイロパラリンピックの陸上日本代表として4×100mリレーで銅メダルを獲得した。現在はトヨタ自動車に所属しながら、「Team Xiborg」の一員として競技に取り組んでいる。

ヒーローの条件は「記憶に残る姿」と「圧倒的な記録」

 Xiborgは「障害者スポーツからヒーローを生み出す」ということを1つの目標に掲げ、新たなスポーツ用義足の開発に日夜奮闘している。そして佐藤選手は、同社の「Xiborg Genesis」を着用して2016年夏に行われたパラリンピックで銅メダルを獲得した選手だ。そんな佐藤選手が「ヒーロー」と感じるのはどのような選手なのか。佐藤選手は言う。

「僕は15歳のときにユーイング肉腫というがんが見つかり、転移を防ぐために右足の膝から下を切断しました。足を切断する前はサッカーをやっていて、その頃は誰もが知っているような有名選手が僕にとってのヒーローでしたが、手術の後、義足のパラリンピアンに出会って自分の考え方が大きく変わりましたし、自分自身もパラリンピックを目指したくなった。そういう意味で、僕にとってのヒーローとは、競技の発展のために戦っているような選手たちのことだと感じています」

 佐藤選手は、ヒーローとは「見る人の記憶に残るような姿勢の選手」と話す。その一方で、より多くの人に訴えかけるのは「圧倒的な記録を残し、大きなインパクトを与えられる選手」であるとも言う。

「陸上競技の場合、“義足の選手がこんなに速く走れるの?”というようなインパクトを与えることが必要なのかなと思います」

 記憶と記録という2つを兼ね備えてこそ、多くの人に知られ、誰かの人生を左右し、社会に影響を与えるようなヒーローたり得るということだ。

日経テクノロジーオンラインSpecial