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スポーツ、世界への突破力

スタジアム一体経営、放送変革…メジャースポーツ改革の鍵

「"SPORTS X"Conference 2017」報告(4)

2018/04/06 05:00

久我 智也=ライター

2019年から2021年にかけて、3年連続でメガスポーツイベントが開催される日本は、2025年までにスポーツ産業の市場規模を15.2兆円にまで拡大していくことを目指している。野球やサッカー、ラグビーといった、いわゆる「メジャースポーツ」は、その目標達成のためにどのように事業戦略を考えていかなくてはならないのだろうか。2017年7月27~28日に開催された、スポーツ産業関連のカンファレンス「KEIO SDM "SPORTS X"Conference 2017」(主催:慶応義塾大学大学院SDM研究科)で、スポーツマーケティングラボラトリー・代表取締役の荒木重雄氏が登壇し、「日本のスポーツビジネス戦略を考える~スポーツの成長産業化のカギを握るメジャースポーツの事業戦略を考える~」と題して講演を行った。前編に続き、その要旨を談話形式でお伝えする。

「スタジアム・アリーナ改革」の要諦はクラブとスタジアムの一体経営

スポーツマーケティングラボラトリー 代表取締役の荒木重雄氏。日本IBM、欧米系通信会社日本法人の要職などを歴任後、2005年千葉ロッテマリーンズに入社、執行役員事業本部長として球団の経営改革に従事。2007年パシフィックリーグマーケティングの設立に伴い、同社の執行役員、取締役を歴任。2009年スポーツマーケティングラボラトリー(SPOLABo)を設立。2013年4月から2017年3月まで、日本野球機構(NPB)特別参与、NPBエンタープライズ執行役員として、野球日本代表・侍ジャパンの事業戦略、デジタル戦略を担当。2017年7月より全日本野球協会(BFJ)に理事に就任。現在に至る

 日本のスポーツビジネスが成長していく上で、キーワードとなるものはいくつかあります。代表的なものがスタジアム・アリーナ改革です。今後日本で行われるスポーツイベントがトリガーとなって、全国に様々な競技場や体育館ができています。これまでのスタジアム・アリーナはアスリートのためのものでした。しかし、これからのスポーツ興行はエンターテイメント化しなくてはならないため、アスリートだけではなく観客や地域の方にも目を向けて行かなくてはなりません。

 では、その視点においてスポーツ興行に求められる要素は何か。ソフト面では非日常を感じられる演出やファンサービス、料理や質の高いサービスといったもの。ハード面では安心・安全で快適な環境や非日常を感じられる施設空間といったものが挙げられます。

 ただし、こうしたものはクラブではなく、スタジアムマターのものです。これまでクラブとスタジアムは一体になってサービスを提供しているとは言い難い状況でしたが、今後スポーツ興行をさらに発展させていくためにはクラブとスタジアムが一体となり、顧客を満足させるだけのサービスを提供していくことが必要になってきます。

「スポーツチームの公共性」に国が太鼓判を押した画期的ガイドライン

 日本でのスタジアムの運営モデルは(1)賃貸モデル、(2)関連会社モデル、(3)事業権取得モデル、(4)自営モデル、という4つに分けることができます。(1)はクラブがスタジアムに対して使用料を支払うもの、(2)は親会社などの関連会社が用意したスタジアムをクラブが使うというもの、(3)は指定管理者制度などを利用して、クラブがスタジアムの事業権を取得するというもの、(4)はクラブが自前のスタジアムを造るというものです。

 プロ野球の場合、9つの球団が(2)~(3)のモデルを採用しているため、75%が実質的に独自運営をしています。Jリーグでは、2017年のJ1所属チームのうちの約6割が賃貸モデルを採用していました。このような状況の中、政府としてはクラブがスタジアムの運営権を取得することを推奨しようとしています。

 スタジアム運営権を取得することでクラブが得られるメリットはいくつもあります。例えばスタジアム使用料や運営コストといった費用の削減、ホスピタリティーの向上、収益アップのための設備投資、広告収入の増加、スタジアムを活用した新規事業の創造といったことです。逆の視点で言えば、今後スタジアムを新設していく上で、これらを考慮したポートフォリオを描かなくてはならないことを意味しています。

 そして2017年6月には、スポーツ庁と経済産業省より『スタジアム・アリーナ改革ガイドブック』というものが出されました。そこには「地方公共団体が意識すべきこと」として、「スポーツチームは、発信力・訴求力を有する行政のパートナーであり、公的な支援を行う正当性を担保できる」と書いてあります。

 また、観るスポーツとしての価値を認識し、スポーツチームが必要とする施設を可能な限り計画・設計・建設に反映させることでスポーツの可能性を最大限活用すべきであることなども謳っています。一方で「スポーツチームが認識すべきこと」として、集客も地域に対する価値の1つであること、社会課題の解決に向けて公共的な役割を果たすこと、行政のパートナーとして、スタジアム・アリーナの使用方法について具体的な助言をすることなどが書かれています。

 これは非常に画期的であり、今後10年のスタジアム・アリーナ改革の行方を左右するガイドラインだと私は考えています。これまで、地方公共団体が造ったスタジアムをスポーツチームが使ってはいても、なぜそのスタジアムに費用を投じなくてはならないのか、なぜサッカーばかりを、あるいは野球ばかりを優遇しないといけないのかという議論が起こり、お互いに相容れない部分がありました。

 しかしこのガイドラインでは、スポーツチームというものは社会や地域の課題を解決する力を持っているのであるから、公共性があり、税金を投じる意味があることを謳っているわけです。この意味を地方公共団体とスポーツチームが認識し、活用していくことで、今後のスタジアム・アリーナ改革が変わってくるのだと思います。

クラブがスタジアムの運営権を取得することで生じるメリットの一例。「自由度が高まる分、当然リスクもある」ため、「事前の事業設計が重要になる」と荒木氏
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